こんにちは。ファイナンシャルプランナーの中山浩明です。近年、結婚や出産時の年齢が高くなる傾向にあります。連載『晩婚者のためのマネー術』では、そうした"晩婚化時代"に応じる形で、晩婚の方々を対象にした"マネー術"について解説したいと思います。


「先進医療」とは何か?

最近の民間医療保険や医療共済では、先進医療に関する特約を付加できるものが多くあります。毎月の保険料は数百円程度なので、ぜひ付加しておきたい特約ですが、そもそも『先進医療とは何か?』をご存じない方も多く、誤解の多い分野でもあります。

先進医療とはその名のとおり「先端の医療技術」ですが、厚生労働大臣が定める施設基準に適合する医療機関で実施される医療技術のうち、厚生労働大臣の承認を受けたものを指します。つまり、医療技術だけでなく、医療機関も厚生労働大臣の承認を受けていなければ先進医療とは言わないのです。

平成27年3月1日現在、先進医療と承認されているのは59種類、904件(※1)。これらは限定列挙されており、厚生労働省のホームページで確認することができます。

(※1 第2項先進医療技術 (先進医療A))

図1:先進医療を実施している医療機関の一覧(抜粋)

つまり、厚生労働省ホームページに掲載されていない医療機関で受けた医療技術は先進医療とは認められず、保険外診療になります。

例えば、「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」という医療技術があります。これは白内障と同時に老眼も治療できる優れものですが、筆者が住む千葉県の場合、当該医療技術について厚生労働大臣の承認を受けた医療機関は11病院。つまり、この11病院以外で当該治療を受けた場合は先進医療とならず、保険外診療となります。

保険外診療とは?

保険外診療と先進医療の関係をみておきましょう。わが国において、保険診療と保険外診療の併用(※2)は原則認められていません。科学的根拠のない特殊な医療の実施を助長するおそれがあることや、患者の負担が不当に拡大する恐れがあることが理由です。

(※2 混合診療のこと)

ただし、特別に保険診療との併用が認められている療養があります。それが「評価療養」と「選定療養」です。評価療養は7種類ありますが、そのひとつが先進医療です。評価療養とは、先端医療を将来、保険診療とするかどうかを評価するもので、治療効果や安全性などが確認されると保険診療に格上げされることもあるし、逆に効果が低いと判断されれば保険外診療に格下げされるものです。

なお、選定療養は10種類あり、特別の療養環境(差額ベッド)、金属床総義歯、時間外診療、大病院の初診、180日以上の入院などがこれにあたります。いずれにせよ、評価療養と選定療養に限り保険診療と保険外診療の併用が認められています。

先進医療にかかる費用

誤解の多い部分ですが、「先進医療=費用が膨大にかかる」というわけではありません。先進医療を受けた場合の費用はどうなるかを見ておきましょう。

先進医療と保険診療の併用は認められているため、保険診療の部分については、通常どおり健康保険が適用されます。70歳未満の自己負担は3割ですし、1カ月の自己負担が高額になった場合は、申告すれば高額療養費として大部分が払い戻されます。ただし、先進医療の技術料については健康保険が適用されず、全額自己負担となります。

もちろん、加入している医療保険に先進医療に関する特約が付加されていれば、給付金の支払い対象となる可能性は高いと言えるでしょう。

一方、保険外診療の場合の費用はどうでしょうか。保険診療と保険外診療の併用は原則認められていないため、保険診療の部分も健康保険が使えなくなります。つまり、自己負担3割や高額療養費は適用できず、全額が自己負担となります。

さらに、加入している医療保険に先進医療に関する特約が付加されていたとしても、そもそも「先進医療」を受けたわけではないので、給付金の支払い対象にはなりません。

図2:先進医療にかかる費用

つまり、「医療保険に先進医療に関する特約を付加しているから大丈夫」とはならないのです。もちろん特約を付加しておくことは重要ですが、それ以上に治療を受ける病院が、厚生労働大臣の承認を受けているかどうかがポイントなのです。仮に、承認済みの技術であっても、医療機関が未承認であれば保険外診療となり、膨大な費用がかかることは容易に想像できるでしょう。

(例)保険診療1,000,000円(高額療養費適用)、先進医療300,000円の場合

  • 保険診療 : 87,430円(※3)

  • 先進医療 : 300,000円

  • 合計 : 387,430円 ※先進医療に関する特約の給付対象

(※3 高額療養費を適用。70歳未満、年収約370~770万円の方)

(例)保険診療1,000,000円、保険外診療300,000円の場合

  • 保険診療 : 1,000,000円

  • 保険外診療 : 300,000円

  • 合計 : 1,300,000円 ※先進医療に関する特約の給付対象外

ご覧のように、治療を受ける病院を間違うとアウトなのです。

なお、「平成25年6月30日時点で実施されていた先進医療の実施報告」によると、先進医療(※4)65種類のうち、費用が100万円を超えるものは重粒子線、陽子線治療など4種類。50万円を超えるものも8種類しかなく、ほとんどは50万円以内のものです。先進医療に関する特約については、給付額が通算1,000万円や2,000万円までという高額なものが多いですが、実際には100万円を超えるような先進医療は僅かしかなく、最も高額な重粒子線治療でも平均300万円程度。給付額の大きさにこだわることに、さほど意味がないことも知っておくといいでしょう。

(※4 第2項先進医療技術(先進医療A))

表1:先進医療の技術料の目安(※5)

(※5 厚生労働省「平成25年6月30日時点における第2項先進医療技術(先進医療A)に係る費用」を元に筆者が計算)

執筆者プロフィール : 中山 浩明(なかやま ひろあき)

株式会社アイリックコーポレーション『保険クリニック』ファイナンシャルプランナー(CFP認定者/DCプランナー) マネー関係 セミナー講師。大学卒業後、ゴルフクラブの職人、パン屋経営と異色の経歴を持つ。2000年にファイナンシャルプランナーとして活動開始、マネー関係のセミナー講師として活躍、これまで500回以上のセミナーを開催。現在『保険クリニック』教育部に所属、保険コンサルタント指導とマネーセミナーの講師担当。専門分野は年金、保険、資産運用、ライフプラン。セミナーでは、お客様の立場で「お金の使い方を知ること」の重要性を唱える。

セミナーHP→http://www.hoken-clinic.com/seminar/

『保険クリニック』HP→http://www.hoken-clinic.com/