こんにちは。ファイナンシャルプランナーの中山浩明です。近年、結婚や出産時の年齢が高くなる傾向にあります。連載『晩婚者のためのマネー術』では、そうした"晩婚化時代"に応じる形で、晩婚の方々を対象にした"マネー術"について解説したいと思います。


晩婚カップルの将来の課題の1つに、退職後の生活設計があげられます。例えば、結婚年齢が高くなるほど60歳までに住宅ローンや子どもの教育資金、生命保険料の支払いを完了できず、退職後にこうした支出が発生する可能性が高くなるからです。

退職後の収入の柱となる公的年金ですが、昭和36年4月1日以降生まれの男性会社員は、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できます。つまり、60歳以降は働かないと決めれば60~65歳まで無収入となり、家計収支は赤字になります。60歳時に1,000万円の退職金を受取ったとしても、生活費として毎月20万円ずつ切り崩せば、4年2カ月で退職金は底をついてしまいます 。

そうなることを見越し、若いうちからしっかり蓄えをしておくことが重要ですが、十分な蓄えができていなかった場合はどうすればよいでしょうか。

(1)金融資産だけで不足分を補うのは困難

退職後の資金不足を補うために「退職金の運用」を考える人がいるでしょう。または、個人年金保険や終身医療保険に加入することも考えられます。しかし、退職後の不安を金融資産だけで補うのは困難であり、あまり現実的ではありません。

例えば、どんなにたくさん医療保障に加入しても、不摂生な生活を続けていたのでは、病気で入院する可能性が高くなり、医療費の支払も高くなります。医療保障に加入する以前に、自分の身体をいたわり、健康に留意した生活を送ることの方が大切です。これは、「健康も資産のうち」という考え方に基づくもので、いわば「人的資産」と考えることができます。

また、退職後に働くことも人的資産の活用となります。仮に年収500万円の人が、60歳退職後も年収150万円で5年間働いたとしましょう。年収500万円→150万円は年収7割減ですが、それでも年収150万円を5年続ければ750万円の収入増につながります。もし、退職金1,000万円を5年間運用し750万円を得ようとすれば、年利回り約12%の運用が必要になります。年利12%の運用がいかに困難なのかは容易に想像がつくでしょう。退職後の不安解消の手段として、「人的資産を活用する」いう選択肢を簡単に捨ててしまうのは、あまりにもったいないといえるでしょう。

(2)60歳退職後も働いたら 公的年金が減額されるから損?

「60歳以降に働いたら、公的年金が減額されるのでは?」という疑問から、就労を躊躇される方も少なくありません。そもそも減額されるのは老齢厚生年金の部分のみ。老齢基礎年金や加給年金は減額の対象になりません。

60歳~65歳未満の方と、65歳以上の方では減額の計算式が異なります。昭和36年4月2日以降生まれの男性会社員は、老齢厚生年金の受給は65歳なので、65歳まで働いてもそもそも減額の心配はまったくありません。

65歳以上も働いた場合は年金額が減額される可能性があります。月あたりの老齢厚生年金額と、月あたり給与額の合計が46万円を超えると、超えた額の半分が減額される仕組みです。例えば、月あたり老齢厚生年金額が10万円という方なら、月にあと36万円まで働いても公的年金はカットされません。月給36万円は年収432万円に相当し、現役世代と同水準の収入となりますので、退職後の生活費の問題はすでにクリアされているはずです。

仮に老齢厚生年金額10万円の人が、月37万円働いてしまったとしても、減額されるのは46万円を超えた額(つまり1万円)の半分なので、5,000円が減額されるのみ。考慮する価値のない程度の額です。

(3)退職後も働くと、厚生年金の保険料が払い損になる?

退職後に働き続けた場合、厚生年金保険料が給与天引きされるので、「厚生年金保険料が払い損になるのでは?」と心配される方も少なくありませんが、これも考慮する価値はありません。厚生年金保険料は掛け捨てではないため、保険料負担分は将来の老齢厚生年金額に反映されるからです。

老齢厚生年金額を決める主な要因は「平均標準報酬月額」と「被保険者月数」です。60歳以降の給与額が下がれば「平均標準報酬月額」は下がりますが、「加入月数」は増えるので、老齢厚生年金額は増額されるケースがほとんどです。そもそも働いて収入を得ているわけですから、その時点で退職後の経済的不安からは相当に解放されているはずです。

以上をまとめますと、次のようになります。

  1. 退職後の不安を金融資産や医療保障だけでカバーするのは困難。健康や労働力を「人的資産」ととらえて大切にする、有効活用することを考える

  2. 自身の労働力を「資産」ととらえ、退職後も働き続けることでキャッシュフローは相当に改善でき、経済的不安からはかなり解放される。働くことで老齢厚生年金が減らされるケースはあるが、影響は軽微なので考慮する価値はない

世間の俗説に惑わされることなく、退職後の収支は自分自身で確認することが大切です。

執筆者プロフィール : 中山 浩明(なかやま ひろあき)

株式会社アイリックコーポレーション『保険クリニック』ファイナンシャルプランナー(CFP認定者/DCプランナー) マネー関係 セミナー講師。大学卒業後、ゴルフクラブの職人、パン屋経営と異色の経歴を持つ。2000年にファイナンシャルプランナーとして活動開始、マネー関係のセミナー講師として活躍、これまで500回以上のセミナーを開催。現在『保険クリニック』教育部に所属、保険コンサルタント指導とマネーセミナーの講師担当。専門分野は年金、保険、資産運用、ライフプラン。セミナーでは、お客様の立場で「お金の使い方を知ること」の重要性を唱える。

セミナーHP→http://www.hoken-clinic.com/seminar/

『保険クリニック』HP→http://www.hoken-clinic.com/