こんにちは。ファイナンシャルプランナーの中山浩明です。近年、結婚や出産時の年齢が高くなる傾向にあります。連載『晩婚者のためのマネー術』では、そうした"晩婚化時代"に応じる形で、晩婚の方々を対象にした"マネー術"について解説したいと思います。


「老後資金5,000万円」は本当に必要か?

よくマネー雑誌等で「老後の備えとして夫婦で5,000万円必要」といった記事を見かけますが、はたして本当にそんな大金が必要でしょうか。そもそも、一生涯で自由に使えるお金はせいぜい5,000万円程度です。例えば23歳から60歳まで毎月10万円ずつ貯蓄にまわしたとしても、4,440万円にしかなりません。年2回のボーナス時にも10万円ずつプラスしてようやく5,180万円です。毎月10万円ずつ貯金するという相当なハイペースで貯め続けたとしてもせいぜい5,000万円が限界です。その5,000万円から教育資金や住宅購入資金、マイカー購入資金を捻出していけば、ほとんど手元になどお金は残りません。退職時に退職金がもらえたとしてもせいぜい1,000~2,000万円程度でしょうから、「夫婦で5,000万円」という目標は、並大抵のことでは達成できる額ではありません。

老後資金は月35.4万円?

「夫婦で5,000万円」という金額は、生命保険文化センターが発表している「ゆとりのある老後資金は月35.4万円」というデータを元に算出しています。毎月35.4万円を平均寿命まで使い続け、そこから受け取れる公的年金の総額を差し引くと、だいたい5,000万円程度が不足するというのです。

「老後に5,000万円必要」と大きな金額を謳ってくれたほうが、金融機関にとっては都合がよかったりもします。不足額が大きい方が読者に与えるインパクトも強く、不安にかられた読者の中には、投資信託を購入したり、個人年金保険に加入したりする可能性が高くなります。

しかし、月35.4万円という生活費は、常識的に考えると贅沢すぎる気がします。筆者の両親(75歳前後)に話を聞いてみると、「毎月25万円で生活するよう心がけている」とのことでした。なぜ25万円なのかというと、「もらっている公的年金が月25万円だから」というのです。「実際には20万円あれば生活はできるので、毎月5万円ぐらいは好きなことに使っている」とのことです。

私の両親のケースですから、すべての人に当てはまらないとしても、現実的には多くの方が、収入額にあわせて生活するようにやりくりするのではないでしょうか。収入以上に生活費を使っていけば、いつかは貯蓄が底をつくことは容易に想像できるため、収入額以下に生活費が納まるように支出をコントロールしようとするはずです。

とはいえ、「公的年金だけでは不安だ」とおっしゃる方も多くいるはずです。公的年金で最低限の生活費をまかなうとしても、「月に10万円くらいは好きに使えるお金を確保したい」と考える方もいるでしょう。

仮に60歳時に退職金2,000万円を受け取ったとしましょう。この2,000万円を毎月10万円ずつ生活費として使っていけば、76歳で貯金は底をついてしまいます。平均寿命は男性も女性も80歳を超えていますから、2,000万円では全然足りないと考えるかもしれません。

しかし、2,000万円を年利3%で運用(複利)できれば、2,000万円でも83歳まで持ちこたえることができます。また、年利5%なら96歳まで持ちこたえられますし、年利6%なら毎月10万円ずつ使っていっても、2,000万円が目減りすることはありません。

運用スキルを身につける

つまり、運用スキルがない人は2,000万円でも足りないかもしれませんが、6%で運用するスキルを持っている人にとっては、2,000万円でも老後は十分事が足りるということになります。年利6%の運用は決して簡単ではありません。しかし、「60歳までに5,000万円貯める」という無謀な計画を立てるよりは、お金を減らさない運用スキルを身につけつつ、今できる範囲でコツコツ準備をはじめるほうが現実的です。

このときに、私達の味方になってくれるモノ。それは「時間」です。

例えば、次の2つを比較してみましょう。

  • (1)毎月1万円を30年積み立てる

  • (2)毎月3万円を10年積み立てる

  • 年利0%なら(1)360万円、(2)360万円となり、どちらも同じ額です。

  • 年利1%なら(1)417万円、(2)377万円となり、40万円の差がつきます。

  • 年利3%なら(1)571万円、(2)413万円となり、158万円の差がつきます。

  • 年利5%なら(1)797万円、(2)453万円となり、344万円の差がつきます。

  • 年利7%なら(1)1,134万円、(2)497万円となり、637万円の差になります。

(2)のような「短く太く」よりも、(1)のような「細く長く」に軍配が上がります。

ちなみに、23歳から60歳まで毎月1万円ずつ積み立てした場合、年利0%では444万円ですが、年利7%だと2,000万円を準備することが可能です。その2,000万円を年利6%で運用しながら毎月10万円ずつ使っていっても貯蓄残高は目減りしません。このように考えれば、老後の不安もいささか気楽に感じるのではないでしょうか。

もちろん、高い年利を得るにはリスクを伴いますが、「60歳までに5,000万円」という無謀な目標にチャレンジするよりは、運用スキルを身につけるほうがはるかに簡単です。晩婚者の方も世間の「俗説」にまどわされることなく、自分の頭で考え、学び、行動する人だけが、本当の豊かさを手に入れる時代になっているのです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 中山 浩明(なかやま ひろあき)

株式会社アイリックコーポレーション『保険クリニック』ファイナンシャルプランナー(CFP認定者/DCプランナー) マネー関係 セミナー講師。大学卒業後、ゴルフクラブの職人、パン屋経営と異色の経歴を持つ。2000年にファイナンシャルプランナーとして活動開始、マネー関係のセミナー講師として活躍、これまで500回以上のセミナーを開催。現在『保険クリニック』教育部に所属、保険コンサルタント指導とマネーセミナーの講師担当。専門分野は年金、保険、資産運用、ライフプラン。セミナーでは、お客様の立場で「お金の使い方を知ること」の重要性を唱える。

セミナーHP→http://www.hoken-clinic.com/seminar/

『保険クリニック』HP→http://www.hoken-clinic.com/