35歳以上の結婚・出産が増えています。人生の持ち時間は長くなったけれど、生涯収入の手取りは減少傾向、社会の変化も激しい時代です。常識にとらわれ過ぎないお金との向き合い方を考えます。

保険選びは感情ではなく理性で

今回は共働きアラフォー夫婦の生命保険の入り方について考えてみましょう。保険のテレビコマーシャルを見ていると、感情にうったえかけてくるパターンが多いような気がします。若い夫婦の幸せそうな姿、シニア世代の不安そうな表情…。視聴者は我が身を重ねたり、家族に思いを馳せたり…。そこに安心のためにというメッセージが加わると、入ろうかという気持ちをくすぐられますね。プロのCM作りの技を感じます。どんな職業であれ、目標達成(保険のCMの作り手であれば加入者を増やすこと)のために一生懸命働くのが大人というものですから、ウソをついたり、法律に違反していない限り、当然と言えば当然です。

しかしここで、職業人として約20年のキャリアを持つアラフォー夫婦には、冷静に考えてほしいのです。そもそも保険とは何か? 民間の保険は、将来起こるかもしれないリスクに金銭で備えるための契約です。自分自身あるいは家族の死亡・重度障害など、実際に起きてしまったら、とても感情的に受け入れがたい事実を受け入れて、現実の生活を前に進めるための金銭を確保することが目的です。特に死亡保険金を目的に保険に入ることは、ある意味でとても厳粛なことだと言えます。だからこそ、感情を排し、大人として理性で合理的に判断することが重要となってきます。

保険の中には子どもの学費や老後の年金を目的に貯蓄性を求めるものもあります。また今後は、モノやサービスを現物給付する保険も登場するかもしれません。そういった保険も当然、支払う保険料と受け取る保険金やモノ・サービスの価値にシビアにならざるをえません。つまり保険は、なんとなく入ったり、人任せにするものではなく、自分自身で判断して選択するものなのです。そして、保険金を受け取れるのは契約していた保険事故が起きたときだけです。今回は保険の原点であるリスクに備える保険について取り上げます。

保険は夫だけが入るものではない

アラフォー夫婦に今後、予測されるリスクといえば、万一の死亡と、病気やケガでしょうか。生命保険の代表的な商品も、一定期間の死亡を保障する定期保険と、病気やケガによる手術や入院に給付金がでる医療保険です。

金融資産がまだ少なく、アラフォー結婚で子どもを授かった2人なら、子どもが成長するまでの期間、ある程度の死亡保障を確保しておきましょう。その際、死亡保障といえば夫が入る保険というイメージがありますが、共働きで妻の経済的な貢献度が大きいなら、妻の死亡保障も確保しておく必要があります。相手を受取人として夫婦それぞれが加入するということです。保険金額を決める際には、勤務先の福利厚生制度(死亡退職金の有無など)も確認して、最低限必要な金額をなるべく安い保険料で確保できるよう、いくつかの保険会社で試算をしてみることです。

数年前からインターネット生保も登場し、生年月日などを入れるとインターネット上で簡単に試算することができます。

トッピングなしのシンプル保険がアラフォー向き

前回も書いた通り、アラフォー結婚で子どもを授かった場合は、教育費の準備と老後資金の準備を並行して進めなければなりません。無駄な保険料を払っている余裕はないのです。保険は、特約などが付いていないシンプルなものの方が保険料は安く済みます。また、シンプルな保険なら、どんなときにいくらもらえるか、自分ではっきりと認識したうえで入ることができます。家計相談を受けると、入っている保険の内容がよくわからないという方が実は意外と多いのです。確かに、仕組みが複雑な保険は、保険証書や設計書を見ても一般消費者にはわかりにくいケースがあります。

選択する場合のポイントは次の3つです。

  1. 死亡保険金額はいくら必要か

  2. 保障期間はどれくらい必要か

  3. 保険料はどれくらい払えるか

必要な保険金額を、必要な期間だけ、安い保険料で確保する。この観点で2人で相談して選択しましょう。無事に子どもが成長したら死亡保険は卒業です。

医療保険に加入すべき人は一握り

病気やケガに備える医療保険はどうしましょうか? 夫婦ともに正社員なら、健康保険と会社の福利厚生でかなりのリスクをカバーすることができます。加えて多少なりとも資産があるなら、医療保険に入っていなくても、それほど心配することはありません。

夫婦のどちらか自営業で、貯蓄が心もとないというケースなら、自営業の方は加入を検討してもいいですね。その際も、受け取れる給付金と保険料の確認は必須です。

金融商品にも発明の歴史があり、保険はまさに人間が考えた発明品です。これからも、今は想像もしない商品が登場するかもしれません。商品の仕組みを冷静に見つめる目をもって、必要なときには上手に使いこなしたいものです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。