35歳以上の結婚・出産が増えています。人生の持ち時間は長くなったけれど、生涯収入の手取りは減少傾向、社会の変化も激しい時代です。常識にとらわれ過ぎないお金との向き合い方を考えます。

共働きは当たり前だけれど…

アラフォー結婚では共働きは当たり前と、前回の「賃金は50歳前後で頭打ち、フラット化の流れも」で書きました。人生における家計の安定性の点では、現在の日本では夫婦ともに正社員で共働きが最強と考える人は多いことでしょう。雇用の流動化で正社員だって定年まで勤め続けられる保障はありませんし、どうしても今の仕事が合わないから転職したいとか、仕事のプレッシャーから精神的に追い詰められて辞めたくなることだってあるでしょう。しかし無事に勤め上げることが出来たら、それなりの退職金をもらって(実はこれについては今後、変わる可能性が大あり)、公的年金も自営業者よりたくさんもらえるのが一般的です。ビジネスの才能があり、独立起業で成功できるような人でなければ、確かに、収入や福利厚生、社会保障の点で、正社員に軍配があがります。

結婚して子どもを作らなければ、夫婦ともに正社員を続けることはそう大変ではないでしょう。子どもが生まれた場合は、働き方にも生活にも様々な工夫が必要になります。

勤務先の出産や育児に関する制度を確認して活用するのは当然ですね。妻の勤務先のみならず夫の勤務先の制度も調べて、夫婦で子育てする覚悟を持ちたいもの。親が元気で、仕事と子育ての両立を手助けしてくれるなら、甘え過ぎないよう一定の線引きをしつつ(親の生活も尊重して頻度や時間帯を考慮するなど)、頼れるところは頼っていいと思います。利用できる制度や、親をはじめとする頼れる人のネットワークを活用して、正社員での共働きを続けるのが王道です。

とはいえ、子育てのために正社員を辞める女性が多いのも現実です。

生活者としての気持ちを大事にするには?

子どもを預けて働くための保育園の不足が新聞などでよく報道されます。私自身、2人の子どもを保育園に預けて仕事を続けてきたので、施設や仕組みの充実を心から願っています。その一方で、施設や仕組みの問題ではなく、自分自身の心に照らし合わせて正社員を辞めた女性も見てきました。

子どもが小学校に上がるまでは保育園に預けて頑張って正社員を続けてきたけれど、その後、フリーランスに転じた女性。子どもが小学校の高学年になって中学受験させるために正社員を辞めて専業主婦になった女性…。数年前、正社員を辞めて、比較的時間が自由になる委託の仕事を始めた女性に「どうして辞めたの?」と聞いたことがありました。「お天気のいい日の昼間にベランダでお布団を干したかったから」という答えが返ってきました。

この感覚、共感する人と、バカバカしいと思う人とに分かれるだろうと思います。

ていねいに暮らしたい、子どもと向き合う時間がもっとほしいという気持ちと、仕事のやりがいや収入を天秤にかけて、前者を選ぶ人もいるということですね。ただし、1かゼロかではなく、納得のいく割合を選択できるとしたら、それほどありがたいことはありません。企業によっては、出産後一定の期間は勤務時間を短くできるなど、考慮してくれるところも増えつつあるようです。

また、正社員を辞めた後、フリーランスや委託など違う働き方で前職の経験を活かしている人は、自分自身で割合を決めているといえます。

50歳の自分を想定して布石を

20代から30代前半の出産であれば、仮に10年ほど仕事を離れても、仕事に復帰できる可能性は大いにあります。しかし40歳前後から仕事を辞めたりペースダウンしたりする場合は、その期間にもよりますが、キャリア形成の視点からはかなり不利になります。40代は働き盛りで、仕事の質も量もしっかりこなせる時期です。成果を上げればそれに伴って収入も上がります。この期間を仕事面ではある意味停滞して過ごすことと引き換えに、生活面での充実を手に入れるわけです。

私自身は、出産半年後には復帰しましたが、担当していた仕事をいったん他の人に引き継いでしまったので、また返してとは言えず(フリーランスのため余計に大変でした)、取引先に復帰の挨拶および営業に回りました。ありがたいことに仕事はすぐに入りましたが、乳幼児を抱えての両立は大変で、仕事量は以前の半分ほどしかこなせない時期が続きました。キャリアの点だけで言えばマイナスでした。しかし全く後悔はないどころが、2人目の子どもの存在は私の人生の大きな幸せです。また、子どもを通した親同士のお付き合いの経験は、家計についてアドバイスをする私の仕事には間接的ですがプラスになっています。

そして、これら目の前のプラスやマイナスに気をとられるのではなく、もっと先を見越して"自分のあり方"を考えておくことをおすすめしたいのです。

正社員で働き続けたとしても、50歳前後で仕事には様々な変化が起こります。出世するかもしれないし、不本意な部署への異動や出向を命じられるかもしれません。ましてや仕事をペースダウンした人間が、40代後半や50歳前後からやりがいのある仕事に復帰したいなら、能力を磨いたり、社会の変化を知っておく必要があるでしょう。出世するより生活を大事にしてそこそこ働ければいいと思っていたとしても、仕事はそれほど甘くはありません。今後はもっと厳しくなりそうな気配です。人手不足の介護職にしても、介護ロボットの開発が進むなど、社会の変化は激しいのです。

子育てとの両立というと、女性の方にばかり目が行きますが、男性にとっても大事な時間です。40歳前後での出産なら、多分、子どもは1人(2人以上持てたら、同じ両親から生まれた子どもでも個性が違うことがわかり楽しいものです)、初めてで、なおかつ1回きりの子育て体験です。せっかく家族になったのなら、この時間を楽しまない手はありません。

1人(収入が1)なら選択できないことも、2人(収入が2)なら選択できるのが結婚のメリット。40歳前後からの子育てもそのひとつでしょう。夫婦ともに正社員で働き続けられるなら理想的ですし、もし一時的に収入が1とか、1.5になっても、いずれ2に戻すことを目標に、気持ちの面でも納得のいく働き方を模索したいもの。その際に、ただ漫然とペースダウンするのではなく、50歳での自分の姿を想定して、出来ることには取り組んでおかないと復帰はかないません。仕事でかかわっている業界の動向や、これからの社会で重要になりそうな分野について情報収集する、人間関係をちゃんと維持しておくなど。

少子高齢化が進む中、女性も高齢者も働ける社会にすることが政府の目標となっています。元気で、やる気があるなら、きっと大丈夫でしょう。今の時間をしっかり充実させつつ、将来への布石もちゃんと打っていきたいものです。アラフォーは、若者よりも経験を積んでいるのですから。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。