前回述べたように、プロセサチップに供給される1V程度の電圧は、DC-DCコンバータで作られる。そして、図3.2に示すように、DC-DCコンバータはセンス入力を持っており、このセンス入力をプロセサチップの近くに接続すれば良い。DC-DCコンバータからチップまでの電源配線の抵抗成分で電圧ドロップが生じても、電源とグランドのセンスラインの電圧の差を計算し、その電圧が基準電圧に等しくなるようにフィードバックが掛かるので、プロセサチップにかかる直流電圧は指定の電圧になる。

図3.2 プロセサの電源

例えば、DC-DCコンバータの出力からチップのバンプまでの電源配線の抵抗が1mΩあり、100Aの電源電流で100mVの電源ドロップが生じたとしても、DC-DCコンバータは1.1Vを出力し、チップの電源は1.0Vと指定の電圧になる。そして、このフィードバック系が追従できる程度にプロセサチップの電流がゆっくりと変化する場合は、一定の電圧を保つことができる。

スイッチングレギュレータであるが、通常はオンオフスイッチとなるMOSトランジスタでインダクタンスに電流を供給するバックコンバータ(Buck Converter)が用いられる。このバックコンバータの動作原理図を図3.3に示す。

図3.3 Buck Converterの原理図

図3.3の左側から12Vの直流電圧が加えられ、プロセサが必要とする1V程度の電圧を右側から出力する。MOSトランジスタがオンするとインダクタに入力と出力の差の電圧が印加される。そして、青線の経路で電流が流れ、インダクタの電流はΔV/Lの傾きで増加する。次に、MOSトランジスタがオフになると、インダクタは電流を流し続けようとするので、赤線の経路で電流が継続する。ダイオードの電圧降下を無視すると、この状態でインダクタに掛かる電圧はほぼ-1Vであり、インダクタの電流は時間とともに減少する。この様子を図示すると図3.4のようになる。

なお、通常のダイオードでは電圧降下が大きく損失が多いので、ここにはMOSトランジスタを使い、図3.3のMOSスイッチとは反対に青の電流を流す期間はオフ、赤の電流を流す期間はオンにするという同期整流回路が使われる。

図3.4 Buck Converterのインダクタを流れる電流

そして、負荷電流が増減してセンス点の電圧が変動すると、バックコンバータはオン、オフの期間の長さを調整して平均供給電流を増減して負荷電流とバランスさせる。バックコンバータは、図3.4に示すようにある程度供給電流が変化し、この電流変化によって出力電圧にリップル(小さな電圧変動)が残る。このリップルを平滑化するため、出力側に大容量の電解コンデンサを接続することが必要である。

バックコンバータはこのようなメカニズムで動作するので、原理的にオン、オフの繰り返しである発振周期の10倍以上というゆっくりした負荷電流の変化でないと追随できない。このため、図3.2のフィードバックループが十分に機能してプロセサチップにmΩ以下の低インピーダンスで電源を供給できるのは、現在の数MHzの発振周波数のDC-DCコンバータでは数10kHz程度が限界となる。発振周波数を上げることができれば、より高い周波数まで追従できる可能性があるが、100Aをスイッチできるような巨大なMOSトランジスタは高速で動作させることが難しいし、インダクタに使われる磁性体の損失も周波数が上がると増加するなどの問題があり、一筋縄では行かない。