米国発の経済危機は全世界の株式市場に波及し、国際優良銘柄の株価を押し下げるにとどまらず、トヨタの営業利益1兆円ダウンなど、企業業績そのものに影響を大きく与え始めています。 景気先行き不安感から株式市況は一向に回復する気配がなく、ちょっと上がっても、直ぐに押し下げられてしまうという状況が続いています。

ところが、内需関連のベンチャー株式の個別の銘柄を物色してみると、一部では既に下げ止まり、逆に上昇をしているのではないかと感じられるような企業も見え始めているようです。もちろん、ある程度しっかりした企業に限られてはいますが、個人的にはちょっと楽しみにしています。
全体的にはお金のめぐりが悪くなっていますので、その少ないお金をより堅実に、より効果のみられる確実なもの使うという傾向はしばらく続くのでしょうが、少ない投資で将来の大きなリターンを得られるチャンスだと言えます。

税額控除には7つの要件

さて前回は、ベンチャー企業に投資をすると税額控除を受けられるという、平成20年4月に改正された「エンジェル税制」の効果について解説してきましたが、今回は、その優遇措置を受けるための要件などについて解説していきたいと思います。 ポイントは全部で下記の7つがあります。

ベンチャー企業要件

(1)創業(設立)3年未満の中小企業者であること
(2)下記のイ、ロ要件のいずれかを満たすこと

設立経過年数 イ要件 ロ要件
1年未満 研究者が2人以上かつ全従業員の10%以上 開発者が2人以上かつ全従業員の10%以上
1年以上2年未満 試験研究等(宣伝費、マーケティング費用を含む)が売上高の3%超で直前期までの営業キャッシュフローが赤字 開発者が2人以上かつ全従業員の10%以上で直前期までの営業キャッシュフローが赤字
2年以上3年未満 売上高成長が25%超で直前期までの営業キャッシュフローが赤字

(3)外部(特定の株主グループ以外)からの投資を1/6以上取り入れている会社であること
(4)大規模法人(資本金1億円以上等)及び当該大規模法人と特殊な関係(子会社等)にある法人(以下「大規模法人グループ」という)の所有に属さないこと
(5)未登録・未上場の株式会社で風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと

個人投資家要件

(6)金銭の払込により、対象となる企業の株式を取得していること
(7)投資先ベンチャー企業が同族会社である場合には、持株割合が大きいものから第3位までの株主グループの持株割合を順に加算し、その割合が初めて50%超になる時における株主グループに属していないこと

ベンチャー企業要件は結構細かい

では順番に、ベンチャー企業要件である(1)から(5)の要件について確認してみましょう。

(1)創業(設立)3年未満の中小企業者であること
この要件のポイントは、創業(設立)3年未満ではなく、中小企業者に当たるのか否かとなります。実は中小企業とひとことで言っても、業種ごとにその要件は細かくなります。
法律的には、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律である第2条第1号から第5号に定義する中小企業」であり、中小企業基本法の第2条で定められている中小企業と同様の定義となりますが、わかりにくいので下記の表をご覧ください。
業種ごとに、「資本の額」または「従業員数」が下記の表の数値以下であれば、中小企業ということになります。なんだか業界の政治力が見え隠れいなくはないのですが、細かく分かれています。

業種 資本の額 従業員数
製造業、建設業、運輸業、その他業種 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5千万円以下 100人以下
小売業 5千万円以下 50人以下
ゴム製品製造業※ 3億円以下 900人以下
ソフトウェア業、情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5千万円以下 200人以下

※自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く

(2)下記のイ、ロ要件のいずれかを満たすこと
この要件のポイントついては、人数や割合、営業キャッシュフローが赤字であることといのうは明確なのですが、「研究者」、「開発者」、「試験研究費」にはいったい何が当たるのかというのは気になるところです。

「研究者」とは、特定の研究テーマを持って研究を行っており、社内で研究を主として行う人のことで、試験研究費等に含まれる支出がなされる人のことをいいます。 なんとなく、研究者というと白衣を着て試験管を振っている人のことを思い浮かべてしまいますが、必ずしもそのような人だけではありません。 特定の研究テーマを持って研究を行っていれば、理系の研究だけでなく、文系の研究も対象となります。 もっとも、個人的には中小のベンチャー企業で、このような人材を抱えておくほど余裕のある会社はあまりないと思うのですが、如何でしょうか?

一方「開発者」は、新規製品やサービスの企画、開発に従事する人や、新規製品やサービスが市場において認知されるために必要となる広告宣伝や市場調査の企画を行う人が該当しますので、これは比較的容易な要件かもしれません。 創業間もないベンチャー企業がリリースする製品やサービスは、すべてが新規であり、もちろんそのための開発や広告宣伝、市場調査はおこなわれますので、ある意味、管理部門の人間以外は全員がこれに当たるのではないでしょうか。

続いて「試験研究費」ですが、経済産業省の解説を読むと、新技術の発明、新製品の製造にかかる試験研究のための特別に支出する費用ということになっています。 これまた難解なのですが、具体例をよく見てみる、「試験研究の人件費、原材料費、調査費等経費、外部委託費」といったもの以外に、

技術採用にかかる費用:技術導入費、特許権の使用、マニュアル使用料等
経営組織採用にかかる費用:販売提携や代理店採用にかかる企画担当者の人件費、会議費、調査費等
技術改良にかかる費用:製品化に向けての研究者人件費や原材料費、マニュアル作成のための費用

が含まれているようなので、ちょっと一概には言えなのですが、それなりに多くの費用が当てはまりそうです。

なお、ちょっと気になるのが、ロ要件の設立経過年数が2年以上3年未満の要件である「売上高成長が25%超で直前期までの営業キャッシュフローが赤字」です。要は2期目まではなかなか売上が伸びす資金不足で苦しんでいたが、3期目で芽が出始めた会社ということになるのでしょうが…芽が出る前に出資して欲しいし、芽が出始めた後は会社側としても、事業提携をできるような企業にバリュエーションを付けて出資をして欲しいと思うのではないでしょうか?

(3)外部(特定の株主グループ以外)からの投資を1/6以上取り入れている会社であること
すっかり(2)の解説が長くなってしまいましたが、続いて(3)の解説に進むことにしましょう。この要件については逆にいいますとわかりやすくなります。 要は、「一部の個人とその親族等の特定の株主グループの株式保有割合が、5/6以上になっていないこと」ということになります。

(4)大規模法人(資本金1億円以上等)及び当該大規模法人と特殊な関係(子会社等)にある法人(以下「大規模法人グループ」という)の所有に属さないこと
これも比較的わかりやすいかとは思いますが、大規模法人からの出資を受けている場合は、2つの要件があります。 1つめが、大規模法人およびその子会社等のグループからの出資割合が過半数以上でないこと。つまり、大規模法人の子会社でないことということになります。 2つめが、福数の大規模法人グループからの出資を受けている場合は、その合計が2/3以上になっていないこと、つまり、逆を言えば、1/3以上を個人が出資していることということになります。

(5)未登録・未上場の株式会社で風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと
ベンチャー企業要件の最後が、未上場であることと、風俗営業等の事業などでないこととあります。 最近は、ベンチャー市場の設立により、公開企業でも「(1)創業(設立)3年未満の中小企業者であること」にある中小企業の定義からすると、従業員数でこの要件を満たしてしまう会社が結構ありますから、この要件があるのかもしれません。 もちろん、風俗営業等も駄目です。仲間内でバーを作ってエンジェル税制の適用を目論んでいた方、残念ながらここでアウトということになります。

次回は要件の続きで、個人投資家要件と、もうひとつの優遇税制について解説をしたいと思います。