ベンチャー企業への投資家が現れない…しかし!

平成20年10月は、日経平均が7,000円を切り、バブル崩壊後最安値を付けるなど、株式投資をする者にとっては非常に厳しい月となりました。テレビの街角のインタビューでも、あきらめムードの回答ばかりで、積極的な投資をしようという回答はほとんど見られないようです。

大手企業への株式投資ですらこのような状況ですから、株式を公開していないベンチャー企業への投資となるとそれ以上の厳しい状況となっています。

確かにライブドア事件以来、ベンチャー企業への投資はこの傾向が見られたものの、ここ1、2ヶ月はその厳しさに加速が付いた感があります。事実、私のクライアントであるベンチャー企業が第三者割当増資をした時も、直前に辞退した企業や個人が複数人現れ、その資本政策に大きな見直しが必要になってしまったほどです。

ところが、今年の4月から、ベンチャー企業への投資家には非常に大きな税務面での支援制度が始まっているのです。皆さんはご存知でしょうか?

ベンチャー企業に投資すると優遇される!

ベンチャー企業への投資は、投資した資金が本当に回収できるのかどうか非常に大きなリスクを投資家が負うことになります。ましてや、そのベンチャー企業が創業から間もなく、赤字だったりしたら…よほどの目利きでもない限り投資には躊躇してしまうものです。

そこで、ベンチャー企業の創出を促進したい経済産業省が、ベンチャー企業への投資を促進するために、ベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う「エンジェル税制」という制度を平成9年に立ち上げました。

ところが当初の「エンジェル税制」は、さほど使い勝手がいいものではありませんでした。というのも、その優遇措置が、

  1. 投資時点では、投資額をその年の他の株式譲渡益から控除できる
  2. 売却時点では、利益が発生した場合、譲渡益を1/2圧縮できる。損失が発生した場合、損失を3年間繰越できる。

というものであり、ベンチャー企業への投資した金額は、あくまで他の株式投資をしたことによる利益の範囲の中で、投資額や損失を相殺できるというものにとどまっていたからです。

これでは、ベンチャー企業への投資をしても、他の株式投資で成功した人だけしか税制面でのメリットを得ることができません。通常は、事業や給与所得で得た所得から税金を差し引かれて残ったお金の中から投資をおこなうはずです。

この実態に平成20年4月から税制が追いつきました。つまり、ベンチャー企業に投資すると、通常の事業や給与所得など他の所得からその投資金額を差し引くことができるようになったのです!

ベンチャー企業に300万円投資して、120万円の控除!!

では早速、エンジェル税制を利用して、300万円投資した場合の控除額をシミュレーションしてみることにしましょう。

この制度は、ベンチャー企業への投資額を従来の寄付金控除の制度を利用して確定申告で還付を受けることとなります。現在の個人に対する所得税の最高税率は40%ですから、

300万円×40%=120万円

これが、理論上の控除額の最高額ということになります。

もっとも、日本では個人の所得に対して累進課税を適用していますから、誰もがこの120万円の控除となるわけではありませんが、投資した時点で他の所得から控除効果を得られるというのはとても大きいと思います。

もう少し、このシミュレーションを先のお話しまで進めてみることにしましょう。

投資した後には、もちろんいつかは売却することとなるのですが、損をして売却する場合と、投資額と同額で売却する場合と、利益が出る場合が考えられますが、この3つの場合について、シミュレーションをしてみることにしたいと思います。

たとえ投資に失敗してしまったとしても…

まず、損をして売却することとなってしまった場合ですが、300万円投資したが、100万円で売却することになってしまったとしましょう。この場合、もちろん損失額は、

300万円-100万円=200万円

となります。ただし、この200万円は株式譲渡による譲渡損ですから、他の株式譲渡の譲渡益と相殺することができます。

現在、株式譲渡に対する税率は20%(特例で公開株式は期間限定で10%)となっています。したがって、他の200万円分の株式譲渡益そ相殺でき、その株式譲渡益の20%部分である

200万円×20%=40万円

の控除となることになります。

これを投資時点から売却時点までを通して説明すると、300万円投資して、確かに売却によって100万円しか戻ってこなかったが、120万円と40万円の控除効果があったため、

300万円-100万円+(120万円+40万円)=40万円

の損失にとどまったことになります。

トントンで売却できたとすれば…なんと!!

続いて、300万円投資して300万円で売却、つまり、投資は成功とは言えないが、なんとか投資額は回収できたとしましょう。

この場合、もちろん、この投資に対しては損失も利益もないこととなりますが、利益がないということは、つまり、この300万円の回収に対しては税金が掛からないということになります。

これを投資時点から売却時点までを通して説明すると、300万円投資して、確かに売却によって投資額と同額の300万円しか戻ってこなかったが、120万円の控除効果があったため、なんと!! 120万円の利益があったことになります!

しかも、この利益は控除額ですから、税金が掛からないのです!!

投資しただけでたとえ売却益がなかったとしても利益が得られる。オイシイと思いませんか!?

もちろん利益が出た場合は、もちろん

最後に、300万円投資して800万円で売却をした場合を考えてみましょう。 この場合は、もう説明するまでもないと思いますが、もちろん、

800万円-300万円=500万円

の売却益が得られます。これに対する税率は、20%(特例で公開株式は期間限定で10%)掛りますが、ちょっと視点を変えて、投資利回りで考えてみることにしましょう。

投資時には300万円投資していますが、120万円の控除効果があったわけですら、実際は、

300万円-120万円=180万円

の投資をしたのと同じこととなります。これを利回りで考えると、180万円が800万円になったことになりますから、

800万円÷180万円=444%

ということになります。エンジェル税制を適用しなかった場合は、

800万円÷300万円=266%

ですから、1.66倍の利回りが得られた計算になります。

以上、これらはすべてシミュレーションですので、すべての場合が同じになるわけではありませんが、如何にこのエンジェル税制がベンチャー企業への投資に対して効果的な制度であるかは理解してもらえたかと思います。

次回は、この制度の適用を受ける場合の要件などについて詳しく解説していきたいと思います。

(税理士・行政書士 杉山靖彦)