前回に続いて、Xiaomi社のスマートフォン「Mi5」を解説します。Mi5のモバイルネットワーク部は、「Dual SIM/Dual Radio」(DS/DR)という構成になります。メインの無線部(Radio)は、LTE/3G/GSMのトリプルモードですが、サブの無線部が3G/GSMのデュアルモードになっています。昨年ぐらいまでは、DS/DRでは、サブ無線部がGSMのみという構成がほとんどでした。というのは、GSM方式は、すでに特許が切れ、大量に生産されたため、コストが非常に安くなっていたからです。

3G方式は、IMT-2000として1999年に開始されましたが、その特許の多くは、1990年台に取得されたものでした。日本やアメリカ、ヨーロッパなどでは、特許の保護期間は20年とされているため、2010年以降、失効する特許が増えてきました。また、多くの国で3G方式が普及し、さらに4GとされるLTEが普及しはじめたこともあって、3Gモデムのコストも下がってきました。このため、ハイエンド系のスマートフォンでは、サブ無線部用にもう1つ3Gモデムを搭載することが可能になったのです。具体的な製品としてはQualcomm社のSnapdragon 820/821が対応しており、このSoCでデュアルSIM構成とすれば、メイン無線部がLTE/3G/GSMとなりサブ無線部が3G/GSMになります。デュアルSIM構成には、世界中で一定の需要があるため、今後は、他社を含め普及価格帯のデュアルSIM製品もサブ無線部に3Gモデムが入ると思われます。

一般にDual SIM/Dual Radio構成では、両方で待ち受けが可能です。このため、これを「Dual SIM Dual Standby」(DSDS)と表記することもあります。

初期のDS/DR構成では、再起動して待ち受けに利用するSIMを切り替えるという方式(Dual SIM Single Standby。DSSSなどということもある)がありましたが、これは、SoCやモデム部分がデュアルSIMに対応していない時代のもので、現在では、DSSSの端末はほとんどありません。なぜならデュアルSIMに対応しているSoCやモデムなどあり、わざわざDSSSにする必要がないからです。

これまでも、DS/DRやDSDSといった構成のスマートフォンはいくつもありました。しかし、そのほとんどが片方のラジオがGSMのシングルモードで、利用できる地域が限定されていました。Mi5では、サブの無線部もデュアルモードなので、利用できる場面、地域が大きく広がりました。

DSDS方式では、2つのSIMの電話番号それぞれで「待ち受け」(着信可能な状態)が可能です。ただし、音声通信(通話)やデータ通信は、どれか1つのSIM(1つのSIMが複数の電話番号を持つ可能性があるので正しくは電話番号)でしかできません。このあたりの動作をまとめたのが(表01)です。

表01

この表では待ち受け状態を省略しています。この状態では、どちらのSIMでも音声着信、音声発信、データ通信が可能だからです。また、表中のグレーの部分は、SIMを1枚しか装着できな端末、つまり、Single SIM/Single Radio(SS/SR)の動作と同じであり、デュアルSIM機かどうかは関係ありません。

一度に通信できるのはどちらかのSIMのみですが、データ通信は、パケット交換による間欠的な通信となるため、たとえば、Webを見ているときでも音声通話の着信は可能です。LTEは、基本的にはデータ通信の機能しかなく、初期の頃には、音声通話は3Gで行っていたため、シングルSIM端末でも、LTEでのデータ通信中に3Gの音声着信をすることは可能でした。DS/DRでは、データ通信中の3Gの着信は、どちらのSIMでも行えます。ただし、サブ側の3G/GSMで着信した場合、メイン側のSIMで行っていたLTE通信は中断されます。

とはいえホントにデータ通信していなければ、気がつかない場合もあります。たとえば、音楽やビデオのサービスでは、バッファリングなどといって、最初に必要なデータをまとめてダウンロードしてしまうことがあります。こうなると、次の曲やビデオに移るまでは、データ通信が止まったことには気がつきません。また、多くのスマートフォンでは、音楽やビデオの再生は、着信と同時に一時停止することが多いため、通話がおわると続きから再生されます。また、ファイルのダウンロードなども中断されてしまいますが、やはり音声通話が終わると再開されるため、特に問題はなく、気がつかないことがほとんどです。

着信すると、中断されてしまうのは、ライブストリーミングやVoIPやテレビ通話のようなサービス(たとえばSkypeやLine電話など)です。ただ、Skypeなどで通話中に別の通話を同時に行うことは人間にはできないし、スマートフォンも対応できません。実際には、どちらかを選ぶことになるため、VoIPなどの通話を切って、着信している音声通話を選ぶなら、データ通信が切れることはやはり問題になりません。

Mi5のデュアルSIM設定

Mi5では、カスタマイズされたアンドロイド(MIUIと呼ばれる。次回解説予定)が搭載されており、設定ページはアンドロイドの標準のものとは違っています。設定は「Network ⇒ SIM cards & mobile networks」(写真01)で行い、デュアルSIM設定(写真02)も独自のものになっているようです。

写真01 モバイルネットワーク関係の設定は、「設定 ⇒ Network ⇒ SIM cards & mobile networks」から行う

写真02 ここからモバイルネットワーク関連の設定の大半が行える。SIMは「SIM1」、「SIM2」の2つに事業者名などを付けて管理する

MIUIでは、2つのSIMに対して「Voice」または「Internet」と用途を指定します(写真03)。「Voice」指定は、発信時に優先的に使うSIMを指定するものです。「Internet」を指定したSIMは、データ通信の場合に利用され、メインの無線部が割り当てられ、LTEでの通信が可能になります。このときもう一方のSIMにはサブ無線部が割り当てられ、3G/GSMでの通信が可能になります。

写真03 音声発信に使う「Dial」とデータ通信に使う「Internet」を指定することでSIMを使い分ける。片方のSIMに両方を指定してもいいし、「Dial」は指定しないこともできる

ただし、Mi5では、片方のSIMに「Voice」と「Internet」を割り当てることも可能で1つのSIMで、音声通話とデータ通信の両方を利用することも可能です。

また、個々のSIMに対しては、表示名、表示電話番号、アクセスポイント(APN)、通信方式、接続ネットワークの5項目の設定とオンオフ設定が可能になっています(写真04)。「表示電話番号」の指定が可能なのは、事業者やMVNOによっては、電話番号を登録していないSIMを使うことがあるからです(日本国内にはありません)。このとき、自分の電話番号が表示されないと使いづらいので自分で登録ができるようになっているのだと思われます。なお、これは表示のみで、番号を書き換えたからといってその番号を使って通信するわけではありません。ネットワークタイプは、Intetnetを指定したSIM側でのみ指定可能で「Prefer LTE」(LTE優先)、「Prefer 3G」(3G優先)、「2G only」(GSMのみ)が指定できます(写真05)。

写真04 SIMの名前や電話番号表示を指定できるほか、アクセスポイントや優先ネットワークタイプ、接続ネットワークの選択などが可能。ただし、アクセスポイントや優先ネットワークタイプは、Internetに指定したSIMのみ可能

写真05 Preferred Networkでは、「LTE」、「3G」、「GSM」の3つから選択が可能

なお、標準の電話アプリもMIUIとしてカスタマイズされたもので、発信時には、SIMを指定しての発信が可能です(写真06)。また、着信時には、どちらのSIMへの着信かを表示することができます。

写真06 標準の「電話」アプリは、発信時にどちらのSIMを使うかを指定できる

Mi5に限らず、DS/DR構成のスマートフォンを使えば、片方のSIMは、データ通信専用としてMVNOなどの通信コストが安価な「格安SIM」を利用でき、もう1つのSIMに事業者の3G専用の低価格な音声通話用SIM(日本でいえばFOMA契約など)を利用できます。

かつては、日本国内では、MVNOもなく、事業者のプランはほとんど横並び、ユーザーは、ほとんど選択肢がない状態でしたが、最近では、MVNOも登場しており、複数のSIMを使い分けることも不可能ではなくなってきました。そういう意味では、今年以降、日本でもようやくデュアルSIMスマートフォンが普及し始めるのかもしれません。