現行最新のMarshmallow(マシュマロ。Android 6.0)の後継となる、「Android N」のプレビュー版が公開されています。現在は4月に配布が開始されたベータ版であるDP2(Developer Preview2)が利用できます。ただし、利用したユーザーからのフィードバックやバグ報告を受け付ける段階であるため、実用はおろか、システムを評価できる状態にもありません。グーグルによれば、最終リリースは、2016の第3四半期(7月から9月)で、夏頃には、ハードウェアメーカーへのリリースが開始されるということです。

その前に3月に配布が開始されたアルファ版を含め全部で5回プレビュー版が出る予定だといいます。プレビューの予定をまとめると、(表01)のようになりそうです。なお、このあたりの情報に関しては、

・Android Developers Android N プレビュー プログラムの概要
http://developer.android.com/intl/ja/preview/overview.html

に記載があります。

■表01
タイミング バージョン 概要
2016年3月 Preview1 アルファ版
同4月 Preview2 ベータ版
同5月 Preview3 ベータ版
同6月 Preview4 APIの最終版、プレビュー機へのアプリ公開、正式SDK
同7月 Preview5 最終版とほぼ同じ
同第3四半期 最終リリース Android Open Source Projectとメーカーへの最終リリース
同ホリデーシーズン リリース版 搭載製品の出荷

プレビュー版を使うには、デバイス(現在はNexusシリーズが中心)で「Androidベータ版プログラム」に参加します。このためには、Googleアカウントが必要で、「Androidベータ版プログラム」のサイト(写真01)では、登録可能な所有デバイスが表示されるので、ここでデバイスを登録することで、OTA(無線経由)のアップデートが行われます。なお、システムイメージも公開されているので、こちらを使ってSDKツールからデバイスのフラッシュメモリへ書き込むことも可能です。

写真01: アンドロイドのベータ版登録サイトでは、所有デバイスでベータ版に対応しているものが表示されるので、ここからベータテストを行う機種を指定する

ただし、ベータ版を途中でやめるとデバイスは工場出荷状態に復元され、このとき、データがすべて消去されるので、日常的に使うデバイスでプレビューを使うのは、避けた方がいいでしょう。また、現在のPreview2では、動作がおかしかったり、ときどき無反応になることがあり、実用的な利用はちょっと困難です。

さて、Android Nでは、どこが変わるのでしょうか? いくつかの変更点がすでに公開されています。今回から何回か、開発者向けのドキュメントを元にAndroid Nの特徴を解説することにします。

画面分割が可能に

おそらく、Android Nでもっともユーザーに歓迎される特徴は、複数のアプリを同時に動かす「Multi-window support」機能でしょう。マルチウィンドウと呼ばれているように、複数のアプリを表示できる機能で、機能としては、ウィンドウのようにアプリの表示サイズを自由に変更できる「フリーフォームモード」、画面を分割して複数のアプリを表示する「スプリットスクリーンモード」(写真02)、アプリを小さな画面にして他のアプリと重ねて表示する「ピクチャー・イン・ピクチャーモード」(写真03)の3つがあります。ピクチャー・イン・ピクチャーモードは、Android TVでのみ利用可能とされています。このうち、「フリーフォームモード」と「ピクチャー・イン・ピクチャーモード」は、アプリ側の対応が必要です。

写真02: スプリットスクリーンモードによる表示。画面を上下、左右に分割してアプリを表示できる

写真03: ピクチャーインピクチャーモード。Android TVのみで利用可能でかつ、対応アプリのみがPIP状態(写真右上の動画表示)となることができる。※Googleの開発者向けサイトから引用

このためAndroid Nで定義された画面サイズ変更に対応しないアプリ(Android N以前に作られたアプリはすべて)は、スプリットスクリーンモードでしか表示できないようです。また、「フリーフォームモード」に関しては、ドキュメントによると「Manufacturers of larger devices can choose to enable freeform mode」とあり、フリーフォームモードは、画面の大きなデバイスで標準で有効なのではなく、メーカーが有効にして製品を出荷する必要があります。

どうしてフリーフォームモードがこういう扱いになるのかというと、これまでのアンドロイドアプリは、表示されているときは動作、別のアプリに切り替わると停止、表示中に画面サイズが変更になることはない、という前提で作られていたため、そのままではフリーフォームモードに対応できないためです。なので、フリーフォームモードに対応できるように動作中にウィンドウサイズの変更ができるアプリとして作らねばなりません。

こうしたことから、フリーフォームモードが使える条件が整うのは、フリーフォームモードが動作するAndroid Nデバイスが発売され、アプリが対応しだしてからということになります。

Android N対応のアプリは、6月頃配布予定のPreview 4から、ベータテスト用にPlayストアで配布が可能になりますが、一般向けは、Android Nデバイスが出荷されてからになります(通常、既存デバイスの正式アップデートは、搭載製品が出荷された後になります)。また、Googleの開発者向けサイトには、スプリットスクリーンモードやピクチャーインピクチャーモードの写真はあるのにフリーフォームモードの画面写真が掲載されていません。このあたりからみると、フリーフォームモードは画面キャプチャが撮れるほど完成していないのかもしれません。

マルチウィンドウ機能の動作

現在配布中のDP2でマルチウィンドウ機能を見てみましょう。現時点ではスプリットスクリーンモードのみ動作するようです。画面の分割は、これまで「最近使ったアプリ」ボタンなど呼ばれていた「オーバービュー」ボタンから行います。オーバービューボタンタッチしたときに表示される画面が「オーバービュー画面」で、ここには、アプリの画面やブラウザ(Chrome)のページがサムネイルとして表示されています(写真04)。

写真04: オーバービュー画面。これまで「最近使ったアプリ」などと呼ばれていたリスト。スプリットスクリーンモードはここから起動できる

ここで、サムネイルのタイトル以外の部分を長押しすると、左右(あるいは上下)にハイライト表示された領域(写真05)ができるので、そこにサムネイルをそのままドラッグすることで画面分割(写真06)が行われ、サムネイルに対応するアプリが表示されます。反対側は、「オーバービュー画面」になったままになります(写真07)。反対側でもアプリを選択したら、画面分割が完了します(写真08)。

写真05: アプリ画面のサムネイルを長押しすると、左右にハイライトされた領域が表示される

写真06: そのままサムネイルをハイライト領域へドラッグすると画面分割が始まる

写真07: ドラッグしたアプリが分割された領域に表示され、反対側は、オーバービュー画面となり、もう1つのアプリを選択できる。この時点で、画面下のオーバービューボタンが正方形から2つの長方形にかわる

写真08: KeepとChromeを同時に表示させてみたところ。中央のバーをドラッグして表示サイズを変えることも可能。ただし、分割やサイズ変更で落ちてしまうアプリもある

この時点で、オーバービューボタンは、分割状態を表す表示に切り替わります。なお、このボタンを長押しすることでスプリットスクリーンモードを解除することが可能です。

Preview2では、左右または上下の2分割表示だけが可能でした。Android Mプレビュー版にあった機能では、上下左右の4分割もできたのですが、Preview2では2分割のみのようです。それ以上は、フリーフォームモードを使えということなのかもしれません。

分割中央にある黒いバーを使って表示サイズを変更することも可能です。また、ホームボタンを押すと、画面の端にわずかに分割部分が表示され、一時的にホーム画面を表示している領域が拡大していることを示します(写真09)。ホーム画面は、通常の分割表示はできないようです。

写真09: 分割中にホームボタンを押すと、ホーム画面は、一方の分割領域を拡大するような形で表示され、分割位置にある黒い線が右端などに表示され、分割中であることを示す

こうした画面分割について、コピー&ペースがラクになったなどといった意見もあるようですが、マルチウィンドウを使ったコピー&ペーストは、すでにPCで30年以上前、XeroxのAltoで40年以上前に実現されていたことで、いまさら関心するようなことではありません。実用的が上がったといえますが、悪い言い方をすれば「オモチャでなくなりつつある」という状態です。

さて次回は、Android 6.0で実装されたDozeモードの改良などについて解説することにしましょう。