綾部社長の部屋でいつもかかっている音楽って曲名わかります? 筆者には、これが長年の「謎」でした。綾部社長とは、テレビドラマ「傷だらけの天使」の登場人物で女優の岸田今日子さんが演じていたのですが、その部屋では、いつも震えた声の外国(すくなくとも日本語ではない)の歌のレコードがいつもかかってるという設定なのです。

このように聞いたことはあるけど曲名を知らない音楽というのは多数あります。いまでは、テレビなどで使われる音楽は比較的検索しやすいのですが、30年、40年前の番組ともなれば、そうそう簡単に検索できるわけではありません。というのは、文字情報が中心のなので、引っかかるキーワードを持ってないと「日曜の夜やってたラジオのドラマのテーマ曲」みたいなあやふやな情報だと、検索できないことが多いのです。もう1つは、その曲を聴いているときには、「なんて曲かしら」と思うことはあっても、すぐに忘れてしまって検索するところまで行き着かないということもあります。

そういうときに使えるアプリに「音楽認識アプリ」とでもいうべきものがあります。マイクで音楽をアンドロイドに「聞かせ」、曲名を検索させるアプリです。実際にどんな実力があるのか、ちょっと試してみました。

邦楽でなければ意外に「当たる」

なぜ「音楽認識アプリ」と名前をつけたのかというと、「音楽検索」というキーワードでは、タイトルなどの曲名情報からMP3ファイルを探すアプリなどが混ざってしまい、ちょっと探すのが面倒です。「音楽認識」なら「音楽」と「認識」という検索結果も含まれるものの該当のアプリがリストに含まれます。こういう場合、なにか1つを見つけたら、Google Playのアプリのページから「類似のアプリ」で探していくとわりと見つけやすくなります。

まずは、テレビで試してみました。地上波のローカル局が前述のドラマを再放送していたので、録画して、該当のところで聞かせてみると、見事に曲名と歌手を探してきます。

さらに手元の音楽をPCから再生させて認識させてみると、かなり正確に曲を探します。

また、同じ曲でも、演奏者の違いも区別します。クラッシックでは、著名な曲は多くの演奏者が録音を行うので、曲名が同じものが大量にあります。しかし、これらのアプリは、ベートーベンの第九でも、フルトベングラーが指揮したものなのか、カラヤンが指揮したものなのかをちゃんと区別します。

どうも、これらのアプリは、曲を「音符」としては認識しておらず、特徴を抽出して、これをサーバー側で検索しているのだと思われます。

このため、サーバー側が情報として持っているのは、CDなどのメディアから抽出された情報で、曲が同じでも特徴が違えば、ちゃんと区別できるのでしょう。

人間は、曲を音楽として聴いてしまうため、カラヤンが指揮をしても、フルトベングラーが指揮をしても、同じ曲として認識しますが、これらのソフトは、そもそも同じ曲といった概念さえないのです。

ただ、こうした音楽から特徴を抽出するのは、大規模な仕事なので、多くの「音楽認識アプリ」は、他社からサービスを含めて技術をライセンスしてもらってアプリを作っているようです。アプリ側は、認識結果からアマゾンなどのオンラインショッピングサイトを表示させることで、売り上げの一部を得ることができるし、アプリに広告を表示させることも可能なので、他社から技術をライセンスしてもビジネスが成り立つのでしょう。

アンドロイドでは、Playストアで検索すると以下のようなアプリが見つかりました。

  • Googleサウンド検索(写真01)
  • Shazzam(写真02)
  • SoundHound(写真03)
  • Trank ID(写真04)

写真01: Googleサウンド検索。ウィジェット形式のみでアプリ本体はない。米国Googleアカウントがあれば利用可能。過去には、Lissenという名称で日本でも利用できていた

写真02: Shazzam。中央のアイコンタップで曲の認識を開始する

写真03: SoundHound。上部のロゴ部分のタップで認識開始。広告が比較的大きく表示される

写真04: ソニーのTrackID。中央のアイコンタップで認識開始。GraceNotes社の技術を利用しているようだ

TrackIDはソニー開発のアプリで、XPERIAをお使いになったユーザーなら見たことがあるでしょう。このアプリは、GraceNote社の技術を利用しているようです。

SoundHoundとShazzamは、独立系の開発者のアプリです。この2社は独自の技術をそれぞれ利用しているようです。おそらくデータベースも個別になっていると思われます。

Googleサウンド検索は、その名のとおり、Googleのサービスです。Nexus系デバイスなどでは最初からインストールされているようなのですが、利用可能な国が制限されているようなので、必ずしも利用できるとは限りません。利用できるなら、Google Playで「Sound Search for Google Play」や「サウンド検索」を検索して、ページから「有効にする」をタップすると、ウィジェットとしてホーム画面に登録が可能になります。あるいは、以下のURLを使っても表示させることができます。

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.google.android.ears

PCで上記のページを開いて、ここからデバイスを指定してインストールも可能です。ただし、利用できるかどうかはGoogleアカウント次第です。筆者は、米国でGoogleギフトカードを使って買い物したせいか、米国アカウント扱いになってしまったようなので、アンドロイドのPlayストアアプリに表示されるようなのですが、別のアカウントでは、表示が行われないようです。

何が認識できるのかは、サーバー側にどれだけの曲の情報が蓄積されているかによります。実際、古い日本のマイナーなテレビ番組の主題歌などや、かなりマイナーなクラッシック音楽などを認識させようとすると、認識できないアプリもありました。筆者が個人で行う範囲では、認識可能な曲を特定できるほどの調査は無理ですが、米国のポピュラー音楽や最近の曲はどれも比較的良く認識します。しかし、ローカルな曲などは、やはり認識できない感じです。日本人としては「?」という感じがしますが、まあ、一般的な利用という点では困ることはないのかもしれません。

実際、綾部社長の部屋でかかっていた音楽に関しては、どれもPola Negriの"Ich spur in mir"であると認識しました。Mazurkaという映画の曲として、その名前で呼ばれることもあるようです。ちなみにMazurkaはポーランドの踊りとのことです。

もっとも、このテレビドラマは筆者の世代には、比較的人気があるので、GoogleのWeb検索で曲名を探すことは可能です。しかし、それは、この曲を使ったドラマ自体が有名だからであって、そういう関わりがなければWeb検索で探すことは困難なのです。

本稿は、2014年2月24日にAndorid情報のWeb専門誌「AndroWire」に掲載した記事を再構成したものです。