今回は、ちょっと変わった機体を取り上げてみよう。量産はされていないが、量産する機体のために大事な役割を担っているという機体である。それがCATBird(キャットバードと読む)である。正式名称はCATB(Cooperative Avionics Test Bed)という。

F-35のアビオニクス開発に欠かせない大事な試験機・CATBird 写真:USAF

F-35のキモはアビオニクス

F-35についてはすでに、本連載の第67回あるいは「軍事とIT」の第1回~第6回で取り上げている。それらの記事でしばしば出てくる話が、F-35が搭載するコンピュータ・通信・センサーといった、アビオニクス領域の話である。

普通なら、アビオニクスはラボ試験を実施した後で実機に積み込んで試験を実施するものだが、F-35のアビオニクスは高度・高機能かつ統合化された巨大なシステムで、それだけ開発にも試験にも時間と手間がかかる。また、開発途上のアビオニクスで不具合が発生して、それが機体の安全な飛行に悪影響をもたらすようなことがあっても困る。

地上のラボやテストリグを使って試験を行うのではいけないのか。もちろん、最初はそういう試験が必要になるが、開発が進んでくれば、実際の運用環境と同じ状況下でテストする必要が出てくる。すると、実際に機器を飛行機に積んで飛ばしてみなければならない。だから、試験機が必要になる道理だ。

そこで近年、新型戦闘機の開発に際して旅客機を改造したアビオニクス専用試験機を用意する事例が増えてきている。筆者の記憶にあるところでは、これを最初にやったのが、同じロッキード・マーティン社製のF-22Aラプターである。レーダー単体の試験ではなく、アビオニクス一式を搭載しているところが目新しい。

F-22の試験機とF-35の試験機

F-22Aではボーイング757の1号機を改造してアビオニクス試験機に仕立てた。ただ単に機器を搭載しただけではない。機首はAN/APG-77レーダーを搭載したことでレドームの形が変わり、F-22Aのそれと似た形になったのだが、もっと目を引くのが、コックピット後方上面に取り付けられた「翼」である。これは、F-22Aの主翼に搭載するものと同じアンテナ群を取り付けるのが目的だ。

なぜこんなことをするのかと言うと、個々のアンテナの位置関係をF-22Aの実機と同じにするためである。アンテナの位置を同じにしておかなければ、受信タイミングのズレを使って発信源の位置を標定する機能や、アンテナから電波を発信したときの干渉などといった点の検証を正しく行えない。

F-35用のCATBirdも考え方は同じ。機体はボーイング737を使い、機首にはF-35が装備するのと同じAN/APG-81レーダーを、その下面にはF-35の実機と同じ位置にAN/AAQ-40 EOTS(Electro Optical Targeting System。対地攻撃時の目標指示に使用する光学センサー機器)を搭載する。また、機首の胴体両側面に「翼」を生やして、実機の主翼に搭載するのと同じアンテナ群を、実機と同じ位置関係で取り付ける。

どちらの機体にしても、機内には実機が搭載するものと同じ電子機器を搭載しているほか、試験用の計測機材、そして実機と同じコックピットを設置している。フライト・シミュレータではないから、この摸擬コックピットにモーション機能はない。しかし、アビオニクスの操作は実機と同じようにできる。

旅客機を改造する理由

F-22Aのアビオニクス試験機にしろ、F-35のアビオニクス試験機にしろ、旅客機を改造してこしらえている。これにはもちろん、ちゃんとした理由がある。

旅客機なら機内スペースに余裕があるから、電子機器のボックスを稼働中に人がアクセスできる形でラックに載せて搭載できる。しかも、アビオニクスを操作して動作を確認するための摸擬コックピットを設置する空間余裕もある。開発試験中の機材はしばしば故障したり交換したりするだろうから、アクセスしやすくすることは重要だ。

それに、機内に広いスペースがあれば、試験を担当する要員を何人も乗せられる。これが戦闘機を使った試験だと、パイロット以外に誰も乗せる余地がない。もちろん、データを無線で地上に送ってくることもできるが、例えば「ここでこういう操作をする。そこで表示がこんな風におかしくなるんだが、本当はこうでなければダメだろう?」なんて説明をするには、操作を担当する人と技術者が同じ場所にいるほうがスムーズに行く。

そして、エアラインで用途廃止になった中古の旅客機を安く手に入れられるメリットも無視できない。エアラインの機体に比べればアビオニクス試験用機の飛行時間は少ないから、歳を食った機体でも(ちゃんと整備・点検を行うことが前提だが)問題なく使えるし、わざわざ新品の機体を買うより安上がりだ。

実は、アビオニクス試験機以外でも中古の旅客機を試験機に転用している事例がある。例えば、エンジン・メーカーが新開発したエンジンの飛行試験を行うための機体がそれだ。三菱MRJのエンジン「PurePower PW1200G」でも事情は同じで、メーカーのプラット&ホイットニー社は、中古で手に入れたボーイング747SP旅客機を改造した試験機にエンジンを載せて、試験飛行を実施している。

普通、この手の多発機でエンジンをテストする時は、搭載しているエンジンのうち1基を試験用のエンジンにすげ替えるものだが、PW1200Gは747SPが標準搭載するJT9Dエンジンと比べると小さいせいか、ビックリするような搭載方法を使った。なんと、機首側面に張り出しを設けて、「第五のエンジン」としてPW1200Gを吊してしまったのである。

MRJ用PurePower PW1200G エンジン、飛行試験を開始◆三菱航空機ニュース No.22