【コラム】

航空機とIT

76 実機拝見(10)CATBird

井上孝司  [2016/01/11]
  • >
  • >>

76/76

今回は、ちょっと変わった機体を取り上げてみよう。量産はされていないが、量産する機体のために大事な役割を担っているという機体である。それがCATBird(キャットバードと読む)である。正式名称はCATB(Cooperative Avionics Test Bed)という。

F-35のアビオニクス開発に欠かせない大事な試験機・CATBird 写真:USAF

F-35のキモはアビオニクス

F-35についてはすでに、本連載の第67回あるいは「軍事とIT」の第1回~第6回で取り上げている。それらの記事でしばしば出てくる話が、F-35が搭載するコンピュータ・通信・センサーといった、アビオニクス領域の話である。

普通なら、アビオニクスはラボ試験を実施した後で実機に積み込んで試験を実施するものだが、F-35のアビオニクスは高度・高機能かつ統合化された巨大なシステムで、それだけ開発にも試験にも時間と手間がかかる。また、開発途上のアビオニクスで不具合が発生して、それが機体の安全な飛行に悪影響をもたらすようなことがあっても困る。

地上のラボやテストリグを使って試験を行うのではいけないのか。もちろん、最初はそういう試験が必要になるが、開発が進んでくれば、実際の運用環境と同じ状況下でテストする必要が出てくる。すると、実際に機器を飛行機に積んで飛ばしてみなければならない。だから、試験機が必要になる道理だ。

そこで近年、新型戦闘機の開発に際して旅客機を改造したアビオニクス専用試験機を用意する事例が増えてきている。筆者の記憶にあるところでは、これを最初にやったのが、同じロッキード・マーティン社製のF-22Aラプターである。レーダー単体の試験ではなく、アビオニクス一式を搭載しているところが目新しい。

F-22の試験機とF-35の試験機

F-22Aではボーイング757の1号機を改造してアビオニクス試験機に仕立てた。ただ単に機器を搭載しただけではない。機首はAN/APG-77レーダーを搭載したことでレドームの形が変わり、F-22Aのそれと似た形になったのだが、もっと目を引くのが、コックピット後方上面に取り付けられた「翼」である。これは、F-22Aの主翼に搭載するものと同じアンテナ群を取り付けるのが目的だ。

なぜこんなことをするのかと言うと、個々のアンテナの位置関係をF-22Aの実機と同じにするためである。アンテナの位置を同じにしておかなければ、受信タイミングのズレを使って発信源の位置を標定する機能や、アンテナから電波を発信したときの干渉などといった点の検証を正しく行えない。

F-35用のCATBirdも考え方は同じ。機体はボーイング737を使い、機首にはF-35が装備するのと同じAN/APG-81レーダーを、その下面にはF-35の実機と同じ位置にAN/AAQ-40 EOTS(Electro Optical Targeting System。対地攻撃時の目標指示に使用する光学センサー機器)を搭載する。また、機首の胴体両側面に「翼」を生やして、実機の主翼に搭載するのと同じアンテナ群を、実機と同じ位置関係で取り付ける。

どちらの機体にしても、機内には実機が搭載するものと同じ電子機器を搭載しているほか、試験用の計測機材、そして実機と同じコックピットを設置している。フライト・シミュレータではないから、この摸擬コックピットにモーション機能はない。しかし、アビオニクスの操作は実機と同じようにできる。

旅客機を改造する理由

F-22Aのアビオニクス試験機にしろ、F-35のアビオニクス試験機にしろ、旅客機を改造してこしらえている。これにはもちろん、ちゃんとした理由がある。

旅客機なら機内スペースに余裕があるから、電子機器のボックスを稼働中に人がアクセスできる形でラックに載せて搭載できる。しかも、アビオニクスを操作して動作を確認するための摸擬コックピットを設置する空間余裕もある。開発試験中の機材はしばしば故障したり交換したりするだろうから、アクセスしやすくすることは重要だ。

それに、機内に広いスペースがあれば、試験を担当する要員を何人も乗せられる。これが戦闘機を使った試験だと、パイロット以外に誰も乗せる余地がない。もちろん、データを無線で地上に送ってくることもできるが、例えば「ここでこういう操作をする。そこで表示がこんな風におかしくなるんだが、本当はこうでなければダメだろう?」なんて説明をするには、操作を担当する人と技術者が同じ場所にいるほうがスムーズに行く。

そして、エアラインで用途廃止になった中古の旅客機を安く手に入れられるメリットも無視できない。エアラインの機体に比べればアビオニクス試験用機の飛行時間は少ないから、歳を食った機体でも(ちゃんと整備・点検を行うことが前提だが)問題なく使えるし、わざわざ新品の機体を買うより安上がりだ。

実は、アビオニクス試験機以外でも中古の旅客機を試験機に転用している事例がある。例えば、エンジン・メーカーが新開発したエンジンの飛行試験を行うための機体がそれだ。三菱MRJのエンジン「PurePower PW1200G」でも事情は同じで、メーカーのプラット&ホイットニー社は、中古で手に入れたボーイング747SP旅客機を改造した試験機にエンジンを載せて、試験飛行を実施している。

普通、この手の多発機でエンジンをテストする時は、搭載しているエンジンのうち1基を試験用のエンジンにすげ替えるものだが、PW1200Gは747SPが標準搭載するJT9Dエンジンと比べると小さいせいか、ビックリするような搭載方法を使った。なんと、機首側面に張り出しを設けて、「第五のエンジン」としてPW1200Gを吊してしまったのである。

MRJ用PurePower PW1200G エンジン、飛行試験を開始◆三菱航空機ニュース No.22

  • >
  • >>

76/76

インデックス

連載目次
第76回 実機拝見(10)CATBird
第75回 実機拝見(9)エアバスA320
第74回 実機拝見(8)F-117Aナイトホーク
第73回 実機拝見(7)RQ-1プレデター
第72回 実機拝見(6)F-16ファイティングファルコン
第71回 実機拝見(5)ボーイング757/767
第70回 実機拝見(4)ようやく初飛行! 三菱MRJ
第69回 実機拝見(3)コンベアF-102デルタダガー
第68回 実機拝見(2)グラマンA-6イントルーダー
第67回 実機拝見(1)ロッキード・マーティンF-35
第66回 航空機用電子デバイス(8)表示デバイス[その2]
第65回 航空機用電子デバイス(7)音声入力と頭の向きの検出
第64回 航空機用電子デバイス(6)入力デバイス
第63回 航空機用電子デバイス(5)アンテナの種類と搭載方法いろいろ
第62回 航空機用電子デバイス(4)実装と冷却と整備性
第61回 航空機用電子デバイス(3)電磁波対策と光ファイバー
第60回 航空機用電子デバイス(2)表示デバイス
第59回 航空機用電子デバイス(1)発電機と電源とAPU
第58回 飛行安全とIT(11)スペーシングの調整
第57回 飛行安全とIT(10)空母への着艦
第56回 飛行安全とIT(9)低視界環境下での着陸
第55回 飛行安全とIT(8)ドローンの安全対策
第54回 飛行安全とIT(7)保安・テロ対策
第53回 飛行安全とIT(6)気象と安全
第52回 飛行安全とIT(5)電磁的トラブル対策
第51回 飛行安全とIT(4)安全とテクノロジーの関係
第50回 飛行安全とIT(3)管制と安全
第49回 飛行安全とIT(2)航法と測位
第48回 飛行安全とIT(1)自動化による安全性向上
第47回 訓練とIT(5)管制官向けのシミュレータ
第46回 訓練とIT(4)シミュレータ同士の通信対戦
第45回 訓練とIT(3)その他のシミュレータ
第44回 訓練とIT(2)フライト・シミュレータ・その2
第43回 訓練とIT(1)フライト・シミュレータ・その1
第42回 無人航空機(6)UAVでどこまでできる?
第41回 無人航空機(5)衝突回避
第40回 無人航空機(4)群制御
第39回 無人航空機(3)UAVと地上の通信
第38回 無人航空機(2)地上管制ステーション
第37回 無人航空機(1)どうすれば無人で飛ばせる?
第36回 飛ぶための計算(5)格安運賃をいかに設定・実現するか
第35回 飛ぶための計算(4)離陸時の諸元に関する計算
第34回 飛ぶための計算(3)需要予測にまつわるいろいろ
第33回 飛ぶための計算(2)燃料
第32回 飛ぶための計算(1)重量バランス
第31回 ワークロードの低減(6)戦闘機搭乗員の状況認識
第30回 ワークロードの低減(5)管制のワークロード低減
第29回 ワークロードの低減(4)ワークロード低減と自動化の関係
第28回 ワークロードの低減(3)グラスコックピット
第27回 ワークロードの低減(2)FMSとMPS
第26回 ワークロードの低減(1)自動操縦装置
第25回 航空機の設計と製作(8)航空機の製作・補修と3Dプリンタ
第24回 航空機の設計と製作(7)IT化が設計にもたらした影響いろいろ
第23回 航空機の設計と製作(6)デジタル・モックアップ
第22回 航空機の設計と製作(5) 航空機のソフトウェア開発
第21回 航空機の設計と製作(4) 航空機の試験・評価
第20回 航空機の設計と製作(3) 工程とサプライチェーンの管理
第19回 航空機の設計と製作(2) 組み立て工程と部品の管理
第18回 航空機の設計と製作(1) 設計・製作工程のコンピュータ化
第17回 アビオニクス(8) コックピットの電子化とEFB
第16回 アビオニクス(7) 電磁波干渉問題
第15回 アビオニクス(6) ミッション・コンピュータとMPS
第14回 アビオニクス(5) 軍用機のミッション・システム
第13回 アビオニクス(4) BITE
第12回 アビオニクス(3) 安全と効率化の両立
第11回 アビオニクス(2) 航空機にまつわる通信と電波
第10回 アビオニクス(1) アビオニクスとは
第9回 機体構造の保全とHUMS
第8回 飛行機とコンピュータ制御(3) その他編
第7回 飛行機とコンピュータ制御(2) 推進システム編
第6回 飛行機とコンピュータ制御(1) 機体編
第5回 航空機の運航管理(5) 有人機と無人機の空域共有
第4回 航空機の運航管理(4) 空域管理と衝突回避
第3回 航空機の運航管理(3) 運航票とFDP
第2回 航空機の運航管理(2) 地上からのレーダー監視
第1回 航空機の運航管理(1) 航空機の航法

もっと見る



IT製品 "比較/検討" 情報

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事

世界各国の事情から考える日本のタバコの喫煙マナーのレベル
[10:00 6/25] ヘルスケア
パソコン工房でRadeon RX 480搭載カードを29日22時販売開始
[10:00 6/25] パソコン
加藤綾子と長友佑都が初共演した『アサヒ オフ』の新CM放映開始
[10:00 6/25] ヘルスケア
[おそ松さん]オールフリーのキャンペーン告知動画第4弾は一松 孤独に一杯
[09:00 6/25] ホビー
[夏のドラマ見どころ]人気女優続々“オンナのお仕事”もの 波瑠は変人刑事、北川景子はスーパーウーマン、松嶋菜々子は営業部長
[09:00 6/25] エンタメ