個人的事情により、しばらく間が空いてしまったが、今回から「アビオニクス編」に話を進めることにしよう。

アビオニクスとは?

一般には耳慣れない言葉だが、アビオニクスとは "aviation" と "electronics" をくっつけてできた造語で、「航空電子機器」と訳されることが多いようだ。もちろん、そこではコンピュータと通信が主役である。

この語源からすると、航空機に搭載する電子機器は何でもかんでもアビオニクスということになってしまうのだが、一般的にはCNS/ATM(Communications, Navigation and Surveillance/Air Traffic Management。通信・航法・監視・航空管制)、あるいはCNI(Communications, Navigation and Identification。通信・航法・識別)といった分野を対象とする機材を対象とすることが多いのではないだろうか。具体的にいうと、こんな具合である。

  • 通信 : 無線機
  • 航法 : ADF(Automatic Direction Finder)、VOR(VHF Omnidirectional Range)、TACAN(Tactical Air Navigation)、DME(Distance Measuring Equipment)といった電波航法援助施設関連機材、GPS(Global Positioning System)受信機、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)、計器着陸装置(ILS : Instrument Landing System)
  • 監視・識別 : 2次レーダー用トランスポンダー、ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)、気象レーダー、ドップラー・レーダー(対地速度の計測に使用する)

通信や監視・識別に使用する機器は、航空管制用のツールでもある。なお、通信に関する話は次回に詳しく取り上げることとしたい。ADS-Bのように、過去の本連載で取り上げたシステムもあるが、それについては過去記事を参照していただければと思う。

機器とパイロットのインタフェース

こういった具合にさまざまな機器を搭載すると、当然ながら、それを操作したり、機器が提示するデータを表示するための計器が必要になったりする。

昔であれば、個々の機器ごとに操作パネルや表示装置を設けていたところだが、もともと計器やスイッチが掃いて捨てるほどある航空機のコックピット。そこでさらにアビオニクス関連の操作パネルや表示装置が加われば、ますます混沌としてしまうこと請け合いである。

そこで近年では、グラスコックピットが当たり前になった。つまり、ディスプレイ装置を設けて、コンピュータ・グラフィック表示を行うことで計器や表示装置の代わりを務めさせるものだ。

スイッチ類については、従来と同様に設置する方法、軍用機でしばしば見られるようにディスプレイ装置の周囲に操作用のボタンを並べる方法、そして最近になって増えてきているタッチスクリーンがある。後二者の場合、ボタンや画面の場所ごとに「触ったときの挙動」が変わるので、内容が分かるような表示をディスプレイに付け加えておくのが一般的だ。

飛行機のタッチスクリーン式グラスコックピットを一般人が目にする機会は多くないが、最近では鉄道車両でもタッチスクリーン式液晶ディスプレイでグラスコックピット化する事例が増えている。特にJR東日本のE233系シリーズは数が多いから、目にする機会が多い。先頭車で「かぶりつき」すると、「なるほど、こういうものか」と理解しやすいのではないだろうか(首都圏以外にお住まいの皆さん、申し訳ない。でも、他社でも似たような事例は増えてきていることを付言しておく)。

このグラスコックピットを実現するためのコンピュータやディスプレイ装置も、当然ながらアビオニクスの一員である。マン・マシン・インタフェース担当パートというわけだ。そして、コンピュータとディスプレイ、コンピュータと各種電子機器の間では電気的インタフェースやデータ交換用のプロトコルを一致させなければならないから、システム・インテグレーションという課題が生じることになる。

簡単なのは、関わりがあるすべての機器をワンセットにして売ることだが、カスタマーからの要望で機器を替えなければならないケースが出てくるかも知れない。それに対応できる方が商機が広がる代わりに、開発やサポートは大変になる。プロプライエタリでいくか、オープン・アーキテクチャ化するか。なにやら情報システムの分野と似た悩みである。

こうした、グラスコックピットを中核にして関連するアビオニクス製品をワンセットにした製品群のことを「アビオニクス・スイート」(スイーツではない)と呼ぶこともある。ここでいうスイートとはsuite、つまり「集合体」というぐらいの意味だ。

グラス・コックピットを中核として、各種アビオニクス製品をとりまとめる製品としては、ロックウェル・コリンズ社のPro Line Fusionシリーズやタレス社のTopDeckシリーズが知られている。あくまでフライト・デッキ(飛行甲板ではなくて操縦室のこと)が担当範囲で、組み合わせる各種アビオニクス機器は選択の自由がきくようにしているようだ。以下に製品情報の所在を示すが、ロックウェル・コリンズ社の方が解説が詳しい。

これらのシステム自体は特定の機種に依存していないので、さまざまな機種で導入事例がある。既存の機体に後付けで導入することもあれば、新規開発する機体で「Pro Line Fusionにしよう」などと決めることもある。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。