本稿を執筆している2014年4月後半の時点では、まだマレーシア航空370便(MH370)は見つかっていない。航空機や艦船を動員した大々的な捜索を行っているにもかかわらず、これだけ発見が遅れているのだから事態は深刻だ。

といったところで今回は、軍民を問わずに行われている、航空機に対する地上からのレーダー監視の話をしてみよう。

航空交通管制とレーダー

航空管制官という職業があることは、読者の皆さんもご存知だろう。担当する空域を飛行している航空機に対して、針路・速度・高度などの指示を出しつつ、交通整理や衝突回避を図る、地味だが重要な仕事だ。

管制官が交通整理や衝突回避を行うには、まず、担当空域の状況を知る必要がある。

まず、パイロットに無線で位置報告(ポジションレポート)を送ってもらう方法があるが、位置報告は緯度・経度の数字、あるいは予め設定してあるポジションの名前で得られるので、それを地図の上にプロットするのは管制官の頭脳の中という話になってしまう。対象となる航空機が少数ならともかく、数が多くなると、状況の把握が大変だ。

そこで多くの場合、対空監視用のレーダーを設置している。こうすれば、レーダー・スコープを見るだけで、どこに航空機がいて、どちらに向かっているのかを把握できる。どこの国でも、航空管制を担当する組織があり、それが民間機の管制に使用するための捜索レーダーを各地に設置している。

ただし、レーダーが受信した反射波の情報をそのままスコープに表示すると、飛行機以外の物体から反射した電波などが混じり、ノイズだらけになってしまう。だから、レーダーにコンピュータを援用してノイズをふるい落とし、本物の飛行機からの反射波だけをスコープに出せるようにできるのであれば、その方が望ましい。

ところが、レーダー・スコープに映る輝点(ブリップ)が本物の航空機を意味するものだけになったとしても、まだ情報が足りない。というのは、輝点があれば「そこに航空機がいる」ということか分かるものの、それ以上のことが分からないのだ。

トランスポンダーと二次レーダー

そこで二次レーダーが登場する。レーダーといってはいるが、捜索用のレーダーとは動作内容が違う。

捜索用のレーダーは、電波を発して、それが何かに当たって反射して戻ってきたときに、アンテナの向きから反射波の方位を、発信から反射波受信までの時間差に基づいて距離を、それぞれ知る。連続的に探知を行えば、特定の時点における位置だけでなく、針路や速度を知ることもできる。二次レーダーと区別するために、こちらを一次レーダーと呼ぶことがある。

それに対して二次レーダーは、いってみれば電波で誰何をする機械である。地上に設置したインテロゲーターが電波で問い合わせを行うと、それを受信した航空機が搭載するトランスポンダーが、事前にセットしておいたコード(4桁の数字を用いることが多い)に基づく応答を返す。

そして、飛行機ごとに異なるコードをセットしておけば、一次レーダーで探知した個々の航空機と二次レーダーの応答を紐付けることで、一次レーダーのスコープに現れた個々の輝点がそれぞれ、どんな飛行機なのかが分かる仕組みだ。だから、一次レーダーと二次レーダーを組み合わせれば、レーダー・スコープには輝点だけでなく、それぞれの輝点の脇に便名の情報まで表示できるようになる。

ただし、二次レーダー用のトランスポンダーにセットするのはあくまでコードであって便名ではないから、両者の関連性はどうなるのか、という疑問が生じるだろう。その話は次回に取り上げるので、とりあえずお待ちいただきたい。

民間機では二次レーダーと呼ぶことが多いが、軍用機では敵味方識別装置、すなわちIFF(Identify Friend or Foe)と呼ぶ。敵味方の区別がつかないと誤射や同士撃ちにつながるので、まことに重要な機材だ。

そのIFFの動作原理は二次レーダーと同じで、IFFインテロゲーターが電波で誰何すると、機上のIFFトランスポンダーが、事前にセットしておいたミッション・コードに基づく応答を返す。応答がなかったり、正しい応答が返ってこなかったりすれば、敵機と判断する。

ともあれ、民間機であれ軍用機であれ、一次レーダーで緯度・経度・高度・針路・速力を、二次レーダーで機の正体を把握して、両者を紐付けることが状況認識の基本となる。これぐらい複雑な作業になると、一次レーダーの探知データと二次レーダーの応答データをコンピュータに取り込んで管理しないと収拾がつかない。

洋上飛行ではどうする?

といったところで、冒頭で言及したマレーシア航空370便の話である。同機が消息を絶ったとされる場所は南シナ海の上空で、陸上ではない。

地球が丸みを帯びている一方で、電波は基本的に直進するものだから、陸上に設置した対空捜索レーダーで、広い洋上を全面的にカバーすることはできない。南シナ海でもそうだし、太平洋や大西洋ならなおのことだ。まさか、民航機を管制するために洋上に早期警戒機を常時在空させるというわけにも行かない。

そうなると、地上に設置したレーダーで機の位置を知るわけにはいかないので、パイロットによるポジション・レポートに頼らざるを得なくなる。昔と異なり、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)などの衛星航法システムによって高精度の測位が可能になっている現在では、昔に比べるとポジション・レポートの信頼性も上がっているが、それはあくまで、ちゃんと報告が来ればの話である。

つまり、洋上飛行中のパイロットがポジション・レポートを寄越さなければ、その飛行機がどこにいて、どちらに向かって飛んでいるのかを知るのは難しくなる。その問題を解決するための技術開発も進められているのだが、その話はまた別途、取り上げることとしたい。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。