ATR42-600に関する記事を「特別編」と題して4回にわたってお届けしたが、同機にしろ、すでに日本で使われているボンバルディアDash-8にしろ、サーブ340Bにしろ、ターボプロップ機である。

そのターボプロップ・エンジンに関する話は第14回で取り上げたが、推進力の源となるプロペラの話が手薄だったことに気付いたので、改めて、もうちょっと詳しく書いてみようと思う。

プロペラの原理

飛行機の推進に使用するプロペラは、回転軸に複数の羽根(ブレード)を生やした構造になっている。羽根の枚数は、2枚、3枚、4枚、5枚、6枚、8枚といった具合に多種多様だ。

ヴォートF4Uコルセアは3翅プロペラ

P-3オライオンは4翅プロペラ。えらく幅広で短いのが特徴

スーパーマリン・スピットファイアのうち、Mk.XIVは5翅プロペラという変わり種

ノースロップ・グラマンE-2Cホークアイは、後日の改修で4翅プロペラから8翅プロペラに替えた。E-2Dアドバンスト・ホークアイは最初から8翅プロペラ

いずれにしても、プロペラの羽根は翼と同じような断面形状になっているので、それを回転させると主翼と同じ理屈で揚力を発生する。ただし、その羽根は前後方向に取り付けた回転軸によって回転するので、結果として空気を後ろ向きに押し流す力が生じて、推進力になる。

そして、回転面(エンジンの回転軸と直角)に対して羽根が角度を持つ。主翼の迎角を加減するのと同じ理屈で、回転面に対して羽根の角度をつけることで、揚力が生み出される。角度を変えられるようにすれば、同じ回転数のままで推進力を加減できることになる。

プロペラ羽根の形状

実は、エンジンの回転数が同じでも、回転するプロペラでは羽根の付け根の部分と先端の部分で速度が違う。この場合の速度とは周速度を指す。もちろん、先端に行くほど直径が大きくなるので速度が上がる。ということは、羽根の全体を単純に同一形状で作ると、付け根と先端で発生する揚力が違うことになる。

ヘリコプターのローター・ブレードは比較的シンプルな形状だが、それに比べると、プロペラの方が凝っている。羽根に捻れ角を付けたり、付け根と途中と先端で連続的に幅を変えたりするのだ。プロペラを備えた飛行機のプラモデルを作った経験がある方なら、容易に理解していただけると思う。

典型的な形状は、付け根は細く、途中が幅広になり、先端部でまた細くなるもの。上の写真だと、F4Uのものがこの形態に近い。

P-3オライオン哨戒機は上の写真でおわかりの通り、正面から見るとほぼ長方形の付け根部分(カフスという)の先に、全体的に幅広の羽根が生えている。C-130ハーキュリーズ輸送機も似ている。機体によっては、付け根の部分が最も幅広で、先端に向けて徐々にすぼまった楕円型になっているものもある。

最近のターボプロップ機のトレンドは、先端を尖らせて後ろ側に曲げた、バナナ型(?)の羽根のようだ。ATR42-600も、DHC-8も、エアバスA400M輸送機も、E-2ホークアイも、そんなタイプである。先端部を後ろに追いやることで、空気の圧縮性に起因する影響を避けようとしているのだろうか。

実のところ、同じ機種でも形状が異なる複数モデルのプロペラを使い分けていることがあるぐらいで、単純に「ああだからこう」とは言いにくい。

先に写真を挙げた機体だと、今ひとつはっきりしないかもしれないので、大きなプロップローターを備えているMV-22Bオスプレイを御覧いただこう。捻れを付けた羽根の形状がよくわかる。

この機体のプロップローターが使う羽根は、付け根の部分が最も太く、先端に向けて少しずつ細くなっている。全体的には幅広で、プロペラというよりもヘリコプターのローター・ブレードに似たところがある。しかし、強い捻れが付けられた形状は、ヘリコプターにはないものだ。

MV-22Bオスプレイのプロップローター。幅が広く、しかも大きな羽根なので、形状がわかりやすい

羽根の幅と長さと枚数

エンジンの馬力が増しているのに、羽根の枚数が少なかったり、羽根の面積が少なかったりすると、増えた馬力を有効に生かすことができない。

では、羽根の幅を拡げればいいのか? そうすると羽根が重くなる。結果として、ハブ部分の構造負荷が厳しくなる。そもそも、飛行機にとって重いことは悪である。

さりとて、羽根の長さを増やす(プロペラの直径を増す)と、プロペラ先端部の周速度が直径に比例して上がってしまう。そして、羽根先端部の周速度(円周の長さ×回転数)と機体の前進速度の合計がマッハ0.9以下になるようにする、というお約束がある。

つまり、機体が高速化したら、プロペラの回転数を落とすか、プロペラの直径を減らす必要があるわけだ。

それに、プロペラが大きくなると、そのプロペラが地面に接触しないようにする関係でエンジン取付位置を高くする必要があり、機体の設計に影響する。サーブ340Bは低翼機、ATR42-600は高翼機だが、プロペラの直径が同じぐらいなら、プロペラを地面から離すには高翼の方が具合がよい(第91回に載っている写真を参照)。

低翼なのに、ばかでかいプロペラを取り付けた機体の例としてはツポレフTu-95ベア爆撃機があるが、そのおかげでこの機体は脚がえらく長い。そのTu-95をベースにしたTu-114という旅客機があったが、これも同様に脚がえらく長いので、乗降用のタラップを上り下りするのは大変だったろう。

だから、最近のターボプロップ旅客機は「羽根の大径化には限度がある、幅もむやみには拡げられない」ということで、羽根の枚数を増やす方向に進んでいる。ATR42-600も御多分に漏れず、それゆえに6翅プロペラである(第91回に載っている写真を参照)。