【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

94 プロペラを巡るあれこれ(1)

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ATR42-600に関する記事を「特別編」と題して4回にわたってお届けしたが、同機にしろ、すでに日本で使われているボンバルディアDash-8にしろ、サーブ340Bにしろ、ターボプロップ機である。

そのターボプロップ・エンジンに関する話は第14回で取り上げたが、推進力の源となるプロペラの話が手薄だったことに気付いたので、改めて、もうちょっと詳しく書いてみようと思う。

プロペラの原理

飛行機の推進に使用するプロペラは、回転軸に複数の羽根(ブレード)を生やした構造になっている。羽根の枚数は、2枚、3枚、4枚、5枚、6枚、8枚といった具合に多種多様だ。

ヴォートF4Uコルセアは3翅プロペラ

P-3オライオンは4翅プロペラ。えらく幅広で短いのが特徴

スーパーマリン・スピットファイアのうち、Mk.XIVは5翅プロペラという変わり種

ノースロップ・グラマンE-2Cホークアイは、後日の改修で4翅プロペラから8翅プロペラに替えた。E-2Dアドバンスト・ホークアイは最初から8翅プロペラ

いずれにしても、プロペラの羽根は翼と同じような断面形状になっているので、それを回転させると主翼と同じ理屈で揚力を発生する。ただし、その羽根は前後方向に取り付けた回転軸によって回転するので、結果として空気を後ろ向きに押し流す力が生じて、推進力になる。

そして、回転面(エンジンの回転軸と直角)に対して羽根が角度を持つ。主翼の迎角を加減するのと同じ理屈で、回転面に対して羽根の角度をつけることで、揚力が生み出される。角度を変えられるようにすれば、同じ回転数のままで推進力を加減できることになる。

プロペラ羽根の形状

実は、エンジンの回転数が同じでも、回転するプロペラでは羽根の付け根の部分と先端の部分で速度が違う。この場合の速度とは周速度を指す。もちろん、先端に行くほど直径が大きくなるので速度が上がる。ということは、羽根の全体を単純に同一形状で作ると、付け根と先端で発生する揚力が違うことになる。

ヘリコプターのローター・ブレードは比較的シンプルな形状だが、それに比べると、プロペラの方が凝っている。羽根に捻れ角を付けたり、付け根と途中と先端で連続的に幅を変えたりするのだ。プロペラを備えた飛行機のプラモデルを作った経験がある方なら、容易に理解していただけると思う。

典型的な形状は、付け根は細く、途中が幅広になり、先端部でまた細くなるもの。上の写真だと、F4Uのものがこの形態に近い。

P-3オライオン哨戒機は上の写真でおわかりの通り、正面から見るとほぼ長方形の付け根部分(カフスという)の先に、全体的に幅広の羽根が生えている。C-130ハーキュリーズ輸送機も似ている。機体によっては、付け根の部分が最も幅広で、先端に向けて徐々にすぼまった楕円型になっているものもある。

最近のターボプロップ機のトレンドは、先端を尖らせて後ろ側に曲げた、バナナ型(?)の羽根のようだ。ATR42-600も、DHC-8も、エアバスA400M輸送機も、E-2ホークアイも、そんなタイプである。先端部を後ろに追いやることで、空気の圧縮性に起因する影響を避けようとしているのだろうか。

実のところ、同じ機種でも形状が異なる複数モデルのプロペラを使い分けていることがあるぐらいで、単純に「ああだからこう」とは言いにくい。

先に写真を挙げた機体だと、今ひとつはっきりしないかもしれないので、大きなプロップローターを備えているMV-22Bオスプレイを御覧いただこう。捻れを付けた羽根の形状がよくわかる。

この機体のプロップローターが使う羽根は、付け根の部分が最も太く、先端に向けて少しずつ細くなっている。全体的には幅広で、プロペラというよりもヘリコプターのローター・ブレードに似たところがある。しかし、強い捻れが付けられた形状は、ヘリコプターにはないものだ。

MV-22Bオスプレイのプロップローター。幅が広く、しかも大きな羽根なので、形状がわかりやすい

羽根の幅と長さと枚数

エンジンの馬力が増しているのに、羽根の枚数が少なかったり、羽根の面積が少なかったりすると、増えた馬力を有効に生かすことができない。

では、羽根の幅を拡げればいいのか? そうすると羽根が重くなる。結果として、ハブ部分の構造負荷が厳しくなる。そもそも、飛行機にとって重いことは悪である。

さりとて、羽根の長さを増やす(プロペラの直径を増す)と、プロペラ先端部の周速度が直径に比例して上がってしまう。そして、羽根先端部の周速度(円周の長さ×回転数)と機体の前進速度の合計がマッハ0.9以下になるようにする、というお約束がある。

つまり、機体が高速化したら、プロペラの回転数を落とすか、プロペラの直径を減らす必要があるわけだ。

それに、プロペラが大きくなると、そのプロペラが地面に接触しないようにする関係でエンジン取付位置を高くする必要があり、機体の設計に影響する。サーブ340Bは低翼機、ATR42-600は高翼機だが、プロペラの直径が同じぐらいなら、プロペラを地面から離すには高翼の方が具合がよい(第91回に載っている写真を参照)。

低翼なのに、ばかでかいプロペラを取り付けた機体の例としてはツポレフTu-95ベア爆撃機があるが、そのおかげでこの機体は脚がえらく長い。そのTu-95をベースにしたTu-114という旅客機があったが、これも同様に脚がえらく長いので、乗降用のタラップを上り下りするのは大変だったろう。

だから、最近のターボプロップ旅客機は「羽根の大径化には限度がある、幅もむやみには拡げられない」ということで、羽根の枚数を増やす方向に進んでいる。ATR42-600も御多分に漏れず、それゆえに6翅プロペラである(第91回に載っている写真を参照)。

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インデックス

連載目次
第95回 プロペラを巡るあれこれ(2)
第94回 プロペラを巡るあれこれ(1)
第93回 特別編・ATR42-600レポート(4)短距離用機材ならではの特徴
第92回 特別編・ATR42-600リポート(2)体験搭乗編[後編]
第91回 特別編・ATR42-600リポート(2)体験搭乗編[前編]
第90回 特別編・ATR42-600リポート(1)ATR42とはこんな機体
第89回 飛行機の燃料(8)燃料をめぐるこぼれ話
第88回 飛行機の燃料(7)空中給油のメカニズム
第87回 飛行機の燃料(6)燃料補給の方法いろいろ
第86回 飛行機の燃料(5)燃費改善と空力対策
第85回 飛行機の燃料(4)変わった燃料タンクいろいろ
第84回 飛行機の燃料(3)機内に設置する燃料タンク
第83回 飛行機の燃料(2)ジェット燃料を巡るあれこれ
第82回 特別編・民航機の非常事態を宣言で注目「2次レーダーとスコーク7700」
第81回 飛行機の燃料(1)燃料の種類とアブガス
第80回 軍用機の兵装搭載に関わる制約
第79回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比
第78回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(4)戦闘機の場合
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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