2017年10月10日、六本木ヒルズでATR(Avions De Transport Regional G.I.E)による記者説明会が行われた。その席で、ATRのCEOを務めるクリスチャン・シェーラー氏らが「Enjoy an extraordinary air travel experience with ATR」(ATRとともに格別な空の旅を)と題するプレゼンテーションを行った。

ATRというと、日本における導入が比較的最近だったこともあり、あまりなじみがないかもしれない。そこで、ATRの製品に関する話から始めて、翌11日に行われたATR42-600の体験搭乗まで、3回に分けてお送りすることにしよう。

ATRという航空機メーカー

ATRは、フランスのアエロスパシアル(現在はエアバス)とイタリアのアエリタリア(その後、アレニア・アエロナウティカを経てレオナルド)が共同出資して設立した航空機メーカーだ。本社はフランスのツールーズに置いており、機体の製作はフランス側とイタリア側で分担、最終組立はツールーズの工場で行っている。

製品はリージョナル機に特化した陣容で、ターボプロップ旅客機が2機種。1つが今回紹介するATR42。もう1つが、もっと大型のATR72。ATR42の開発ローンチは1981年11月4日なので、相応に歴史があるモデルだ。-200(プロトタイプのみ)、-300(初の量産モデル)、-320、-400、-500と改良を重ねてきて、現行の-600に到達した。

この種の小型ターボプロップ旅客機は一般的に、需要が少ないローカル路線で使われている。日本で売り込みがスタートしたのは2000年代に入ってからのことで、初の導入事例は熊本の天草エアラインとなった(運航開始は2016年2月)。それに続いたのが、日本航空グループの日本エアコミューター(JAC)である。

JACがATR42を導入した経緯

JACは鹿児島を拠点として、西日本で離島生活路線を中心とする運航を行っている。これまではサーブ340BとボンバルディアDHC-8 Q400(以後Q400と表記)を運用していた。それら2機種のうち、サーブ340Bの機齢が20年を超えて代替が必要になったため、ATR42-600の導入を決定。2015年6月のパリ航空ショーで、確定8機、オプション1機の発注を明らかにした。

JAC向けATR42-600の初号機(JA01JC)は、2017年4月26日に運航を開始した。この時点で、JACが保有する機体はATR42が1機、Q400が9機、サーブ340Bが9機。その後にQ400と340Bが1機ずつ減勢して、9月23日の時点で8機ずつとなっている。同じ9月に、2機目のATR42-600(JA02JC)が日本に到着、登録された。

その、JACが運航している3機種の主要諸元を一覧表にまとめてみた。

機体名 ATR42-600 サーブ340B DHC8-Q400
エンジン P&Wカナダ PW127M GE CT7-9B P&Wカナダ PW150A
離陸出力×基数 2,400SHP×2 1,870SHP×2 4,580SHP×2
全長 22.7m 19.7m 32.8m
全幅 24.6m 21.4m 28.4m
全高 7.6m 7.0m 8.3m
翼面積 587平方フィート (54.5平方メートル) 450.0平方フィート(41.81平方メートル) 689平方フィート(64平方メートル)
翼面荷重 341kg/m2 309kg/m2 437.5kg/m2
巡航速度 556km/h 504km/h 667km/h
航続距離 1,326km 1,810km 2,146km
最大離陸重量 18.6t 12.9t 28.0t
馬力荷重 258.06SHP/t 289.9SHP/t 327.1SHP/t
標準座席数 48席 36席 74席
離陸滑走距離(SL/ISA) 3,822 ft / 1,165 m 4,675 ft / 1,425 m
着陸滑走距離(SL) 3,166 ft / 965 m 4,230 ft / 1,289 m

ちなみに、この3機種の登録番号は以下の通りである。

  • ATR42-600 : JA01JC, JA02JC
  • サーブ340B : JA8594, JA8642, JA8649, JA8703, JA8888, JA8900, JA001C, JA002C (JA8704, JA8886, JA8887は退役)
  • Q400 : JA841C, JA843C, JA844C, JA846C, JA848C, JA849C, JA850C, JA851C (JA842C, JA845C, JA847Cは退役)

日本エアコミューター(JAC)向けATR42-600の初号機。高翼配置で、胴体と地表の間隔は狭い Photo : ATR

ATR42-600で置き換えられるサーブ340B。こちらは低翼配置で、胴体と地表の間隔は広い(つまり床面が高い)

ATR42とは、こんな飛行機

先に一覧にまとめたJAC保有機材のうち、Q400は明らかに機体の規模が違う。ATRでは、自社製品の優位性をアピールする際の比較対象としてQ400を挙げていたが、今回はJACがATR42で置き換えるサーブ340Bと比較してみよう。

この両機種を比較すると、ATR42のほうがいくらか大きく、重い。エンジンもパワーアップしているが、馬力荷重(トン当たりのエンジン出力)でも翼面荷重(主翼面積1平方メートル当たりの機体重量)でも、ATR42-600のほうが分が悪そうに見える。しかし、戦闘機みたいに激しい機動をするわけではないのだから、翼面荷重や馬力荷重に若干の差があっても致命的な問題にはならない。

一方で、設計が新しい分だけ改良が図られている部分もあり、例えばATR42-400から導入された6翅プロペラがそれである。プロペラの改良によって推進効率が向上したり、騒音が減ったりすれば、そのほうが有利である。

ATR42-600の6翅プロペラ

最近、ターボプロップ機ではプロペラの枚数が増える傾向にあり、ATR以外でも6翅プロペラを使用している事例がある(Q400もそうだ)。軍用機の話だが、ノースロップ・グラマンE-2Dアドバンスト・ホークアイのごときは8翅プロペラを使っている。

それはそれとして。サーブ340Bでは36席だった標準座席数が、ATR42-600では48席に、つまり33%も増えている点に注目してほしい。

民航機の経済性を比較する際の指標としてよく用いられるのは、乗客1名当たりの運航経費である。運航経費が同じで乗客が増えれば、乗客1名当たりの運航経費は減る。LCCの機体がシートピッチを詰めて、ギリギリまで詰め込んでいることを想起していただけば、理解しやすいだろう。

では、サーブ340BとATR42-600の比較ではどうか。仮に両機種の運航経費が同じで乗客が3分の4に増えれば、乗客1名当たりの運航経費は4分の3になる。

実際には機体がいくらか大きく、重くなっているから、そこまで露骨な差は生じないかもしれない。しかし、運航経費が増えたとしても、標準座席数ほどの増分にはならないと思われる。それであれば、ATR42-600のほうが経済性と収益性が高いことになる。

なお、標準座席数が増えたことは別のメリットにもつながっているが、その話は次回に取り上げることにしたい。

ATRの組み立て工場 Photo : ATR