機体のメカニズムの話からは外れるが、「飛行機が飛ぶために不可欠な燃料を、どうやって搭載するか」についても触れておこうと思う。なお、軍用機だと「空中給油」という話も出てくるが、それはまた別の機会に取り上げることにしたい。

タンクとポンプ

いちばん原始的(?)な方法がこれだ。燃料が入った容器、例えばドラム缶なんかを機体の脇まで持って来て、ポンプで燃料を送り込む。今でも軽飛行機やモーターグライダーみたいな小型の機体では、この方法を使っていそうだ。

燃料を入れて運ぶ手段というと、真っ先に思いつくのはドラム缶だが、違う形のものもある。軍用だとブラダー型燃料タンクというのがあって、要するに樹脂製の「嚢」というか「丈夫な袋」である。これに燃料を入れると膨らむ。

ドラム缶と違い、ブラダー型燃料タンクは空になった時に場所をとらないし、輸送もしやすい。前線の簡易飛行場から作戦する場面が多い、例えばアメリカ海兵隊みたいなところでは重宝する。

その「燃料を送り込む」にもバリエーションがある。重力を使って自然落下させる方法なら話は簡単だが、タンクが複数ある場合は話が面倒になる。タンクごとに給油口を設けるのでは面倒だし、給油口が増えれば重量も増える。

どこか1つのタンクに給油口を設けて、そこから配管を通じてすべてのタンクに燃料が行き渡るようにすれば、構造はシンプルになる。その代わり、給油の際にタンクとタンクの間をつなぐ配管をちゃんと開けておく必要がある(コックが閉まっていたので給油できていなかったことに、飛び上がってから気付いても後の祭り)。

また、給油口からそれぞれのタンクに向けて、重力で燃料が流れ込んでくれる配置になっていればいいが、そうなっていないと給油ができない。地上からのアクセス性を考えると、給油口はあまり高い位置に置きたくないのだが、給油口の位置が低いと、タンクに重力で燃料を送り込むのは難しくなる。だから、燃料に圧力をかけて強制的に送り込む仕組みが必要になる。

給油トラック

燃料搭載量が少ない場合はドラム缶でもいいが、機体が大きくなると、ドラム缶を何本も持ってこないと満タンにならない。また、重力給油に起因する制約はどうにもならない

そこで登場するのが給油トラック(レフューラー = refueller)。給油用のポンプとホースを搭載したタンクローリーだと思っていただければ、まず間違いはない。

街中で見かける大型のタンクローリーは20トン以上の燃料を搭載できるが、空港用の給油トラックはポンプなどの機材が場所を食っている分だけタンクが小さい。それでも1両で10トン近い燃料を補給できると思われる。今でも空港によっては、この種の給油トラックでジェット燃料を補給している。以下の写真は、6年ほど前に那覇空港で撮影したもの。

追記 : 上記について、読者の方から御指摘をいただいた。航空機燃料給油車両の積載量は一般的に20KLとのこと。つまり2万リットルだが、航空燃料の比重は約0.8なので、積載重量としては16tとなる。

那覇空港で見かけた給油トラック

写真の給油トラックだと見受けられないが、ものによっては、間違って他の用途に使うことがないように、側面に「AVIATION TURBINE FUEL」(航空タービン燃料油の意)と大書して注意喚起していることもある。

燃料を機体に送り込むには、車体後端に設けたポンプとホースを使っており、前述したように燃料を圧送するようになっている。いわゆる一点給油式で、1カ所の給油口から機内にある複数の燃料タンクすべてに、強制的に燃料を送り込むことができる。

民航機の場合、主翼の下面に給油口を設けることが多いようだ。第85回でも触れたように、燃料タンクは主として主翼の中に設けるものだから、そこに給油口を設けるのは筋が通っている。それに、作業性も良い。

重力給油だと主翼の上面に給油口を設ける必要があるが、圧送する場合には下面にあっても差し支えないので、アクセス性は良い。

手前にヘリのテイルブームが被っていて見づらいが、これは航空自衛隊入間基地で見かけた給油トラック。自衛隊機が相手だから、JET-Aより揮発性が高そうなJP-4を搭載している(側面に大書してある)。「15米以内火気厳禁」との注意書きも

給油ポンプ車とハイドラント方式

1両で10トンというと大した分量に思えるが、大きな旅客機にとっては話が違う。例えば、長距離の国際線で燃料を100トンも積むことになったら、給油トラックが10台ぐらい必要になって面倒だ。そこで大きな空港では、ハイドラント方式になっている。空港の一角に燃料タンクを設けておいて、そこから個々のスポットまでパイプラインを引いてある。

給油の際にはどうするかというと、燃料補給を担当する車両がやってきて、パイプラインと機体をホースでつなぎ、燃料を機体の燃料タンクに送り込む。ポンプは地上のパイプライン側に設けられており、機体のところまで圧送してくる仕組み。送り出す燃料の圧力が変動しないように、VVVF(Variable Voltage Variable Frequency)制御を実施しているそうで、まるで電車の主回路みたいだ。その際、燃料に水分が混入していると凍結の原因になって具合が悪いので、水分を取り除くストレーナーを通している。

ここで使用する車両をサービサーという。これの仕事はパイプラインと機体の給油口を結んで中継すること。サービサーには、燃料の濾過装置、流量計、圧力制御装置を備えている(当初、サービサーがポンプを備えていると書いたが、これについて事実誤認との御指摘をいただいたので、お詫びして訂正する)。

中部国際空港を例にとると、貯油タンクは6,000kLのものが5基あり、そこからポンプを用いて燃料を送り出す。81スポットで合計193個のハイドラントバルブが設けられており、それぞれのバルブにサービサーが備えるホースを接続する。

この方法なら給油車の搭載量が制約要因にならないので、大型機に大量の燃料を補給する場合でも効率が良い。また、燃料タンクから給油トラックに積み替える手間もかからない。

その代わり、設備投資は多額になるので、大型機が頻繁に出入りする大きな空港でなければ使いづらい方法ではある。

中部国際空港で、747LCF「ドリームリフター」に燃料を補給しているところ。給油車にタンクが付いていないから、ハイドラント方式で地下のパイプラインから燃料を送り込んでいるのだとわかる

飛行場まで燃料を運び込む方法

どちらの方法にしても、飛行場には燃料タンクを設置して、そこに燃料を保管しておく必要がある。それだけなら、タンクとパイプライン(ハイドラント方式の場合)の設置工事を行えば済むが、問題は、そのタンクに燃料を運んでくる方法。

羽田空港みたいに、海に面していれば話は簡単。タンクを海沿いのエリアに設けて、そこに岸壁を設ける。そして、タンカーで運んできたジェット燃料を陸揚げすればいい。羽田空港の航空写真を見てみると、海沿いに燃料タンクが並んでいる様子がわかる。

では、内陸部にある飛行場はどうか? わかりやすいのは、港や精油所から飛行場までパイプラインを設置して燃料を輸送する方法だが、これとて限度はある。すると、別の輸送手段が必要になる。

所要量が少なければ、タンクローリーにジェット燃料を搭載して運ぶ方法もあり、実際、それをやっている事例もある。また、日本では横田基地だけになってしまったが、列車で運ぶ方法もある。こちらの方が効率はいいが、燃料陸揚げ拠点と飛行場の双方で、線路を敷設する必要がある。

横田基地の場合、鶴見線の安善駅から青梅線の拝島駅まで燃料輸送列車が来ていて、それが拝島駅から引込線で横田基地に向かう仕組みになっている。いわゆる米タンである。

横田基地で使うJP-8ジェット燃料を搭載して安善駅を出発する米タン

変わった方法としては、米軍が有事に備えて訓練しているFARP(Forward Arming and Refueling Point)がある。燃料の搬入と給油を兼ねる手法だ。

分捕った敵地の飛行場を使う、あるいは設備が整っていない同盟国の飛行場を借り受ける場合は、燃料を保管・補給するための道具立てが整っていない可能性がある。そこで、ヘリコプター向けの空中給油を本業とするHC-130みたいな機体を飛行場に送り込み、そこから戦闘機にホースをつないでダイレクトに給油してしまおうというもの。これなら地上にはインフラが要らない。

最近だと、嘉手納基地で米空軍のMC-130が、米海兵隊のF-35Bを相手にしてFARPの訓練を実施した。念を押しておくが、給油の現場は地上である。どこかの新聞が誤報していたように、空中給油したわけではない。