【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

84 飛行機の燃料(3)機内に設置する燃料タンク

84/90

本連載の第2回で「主翼のボックス構造を密封して燃料タンクにしている」という話を書いた。戦闘機だと事情が異なることもあるが、民航機や軍用輸送機では、まずは燃料タンクにするのは主翼の中である。主翼の曲げ荷重を緩和するのに役立つから、ちょうどいい。

燃料タンクの設置場所いろいろ

その燃料タンクが、今回のお題。乗用車だと、燃料タンクは1つしかないのが普通だが、飛行機だと事情が違う。必要とする燃料をまとめて搭載できるような、大きな燃料タンクの空間を確保できるとは限らないからだ。

それに、大きな燃料タンクが1つだけあると、燃料を消費して空きスペースが増えてきた時に、機体の姿勢変化に伴って燃料が暴れそうである。同じスペースでも、複数の小さい空間に小分けにしておくほうが、具合が良さそうではないかと思える。

もちろん、この辺の事情は機体によって異なる。例えば、アメリカで第2次世界大戦の末期に開発した艦上攻撃機、ダグラスA-1スカイレイダーは、コックピットの後ろ側に1つだけ、大きな燃料タンクを設置していた。

タンクの設置位置は重心位置に近い胴体内で、しかも「背が高い」形状をしていたから、燃料を消費した時に発生する重心点の移動や、姿勢変化によって燃料が暴れる問題は少なかったと思われる。

同じ第2次世界大戦中の機体だと、グラマンF6Fヘルキャットは操縦席の床下にタンクを配置していた。豪快(?)なのはリパブリックP-47サンダーボルトで、操縦席の前から床下にかけてL字型のタンクを設けていた。

こういう配置ができるのは胴体が太いからで、これが零戦になると燃料タンクは主として主翼内ということになる。厚みは少ないが面積が広いから、主翼内に燃料タンクを設置すると、かなりの容量を稼げる。もっとも零戦では、胴体内にも燃料タンクがあったが。

今時の戦闘機だとどうか。例えば、F-35ライトニングIIは、胴体内に9ヶ所、それと左右の主翼内、合計11カ所に分けて燃料タンクを設置している。胴体内タンクの最前部は左右一体、その他は左右に分かれているので、合計が奇数になっている。

F-35ライトニングII Photo:Lockheed Martin photo by Todd R. McQueen

ステルス性を確保するには外部に燃料タンクをぶら下げたくないので、機内燃料タンクの容量をできるだけ大きくとりたい。それで、使える機内空間は燃料タンクと機内兵器倉と電子機器室などで埋め尽くされて、もうギチギチである(製作途上の機体を見ると、特にそれがよくわかる)。

もっとも、タンクがたくさんあっても、給油口は1つだけだ。そこから圧力をかけて送り込んだ燃料が、機内にあるすべての燃料タンクに行き渡る。そうなっていないと、空中給油する時に困ってしまう。空中給油で燃料を受けるポイントは1つしかないのだから、そこから全部の燃料タンクに補給できないと、何のための空中給油かわからなくなる。

燃料タンクが複数ある場合の面倒

ところが、燃料タンクが複数あっても、そのすべてを同時に使うとは限らない。決められた順番で1つずつ使っていくのが普通である。もちろん、何事にも例外はある。特に多発機はそうだ。

ボーイング747の場合、左右の翼内タンクがそれぞれ複数のタンクに区切られている。そして、1番エンジンから4番エンジンまで4基あるエンジンがそれぞれ、直後にある燃料タンクから燃料を受け取る形の運用「も」可能だという。この場合、4基のタンクがそれぞれ均等に燃料を減らしていくことになるわけだ。

「も」と書いたのは、エンジンと直後のタンクをひもづけない形の運用が基本だから。個々のエンジンが直後のタンクから燃料を受け取るのは、短距離飛行の場合らしい。

燃料を取り出すタンクを1つだけ決めて、すべてのエンジンにそこから燃料を供給すると、そのタンクが真っ先に空になる。そうなった時に、次に行う操作は2種類考えられる。

まず、まだ燃料が入っている別のタンクに供給元を切り替える方法。もう1つは、燃料が入っている別のタンクから、空になったタンクに燃料を移送する方法。

ただ、どちらにしてもパイロットの注意力と手動操作に依存していると、事故の元である。まだ燃料が残っているタンクがあるのに、コックの切替操作を間違えてガス欠を起こしてしまうとか、燃料移送の操作を間違えるとかいう話、皆無ではあるまい。

ちなみにF-35では、正面の計器盤に設けたタッチスクリーン式液晶ディスプレイの表示モードとして、燃料関連の操作も用意されている。タンクごとの燃料の残量をグラフィック表示してくれたり、タンク間での燃料の移送を指示したり、その際の重心点の変化を計算して表示してくれたり、といった機能がある。

釣合をとるための燃料移送

タンク間での燃料の移送において注意しないといけないのが、第13回で触れた「静安定性」の問題。前方にある燃料タンクから先に燃料を使っていくと、だんだんと頭が軽くなってくる。すると、機体の重心点が後方に移動していく。主翼が発生する揚力の中心点は変わらないから、結果として静安定性を損ねる方向に働いてしまう。

それに対して、後方にある燃料タンクから順番に燃料を使っていけば、機体の重心点はだんだんと前方に移動していく。もちろん程度問題ではあるが、少なくとも静安定性を損ねる方向には働かない。

つまり、「どこから燃料を使うか」が「安定して飛べるかどうか」に関わってくるわけだ。

そこで引き合いに出すのが、すでに引退してしまった超音速旅客機・コンコルド。この機体、速度の増減や燃料の消費が発生した時に安定性を保つ目的で、タンクの間で燃料を移送する方法を積極的に使っていた。

例えば、速度変化によって揚力中心が前方に移動したとする。それによって揚力中心が重心より前に出てしまうと縦の静安定性を維持できなくなるから、後方のタンクから前方のタンクに燃料を移送して、重心点を前に移動させる。速度変化によって揚力中心が後方に移動した場合は逆だ。

コンコルドの燃料タンク配置と、釣合のための燃料移送について図を載せているWebサイトがあったので、参考のためにリンクしておこう。

CONCORDE SST : FUEL SYSTEMS
http://www.concordesst.com/fuelsys.html

この手のトリム制御(釣合制御)は、空力的に行うこともできる。専用の小さな舵面を用意しておいて、それを動かすことで機首の微妙な上げ下げを行い、釣合をとる仕組み。ただ、この方法だと空気抵抗が増えてしまうから、ことにコンコルドみたいな超音速機では具合が良くない。

その点、燃料を移送する方法なら空気抵抗は増えない。だから、コンコルドは燃料の移送によって釣合をとり、静安定性を崩さないようにしたのであろう。

84/90

インデックス

連載目次
第90回 特別編・ATR42-600リポート(1)ATR42とはこんな機体
第89回 飛行機の燃料(8)燃料をめぐるこぼれ話
第88回 飛行機の燃料(7)空中給油のメカニズム
第87回 飛行機の燃料(6)燃料補給の方法いろいろ
第86回 飛行機の燃料(5)燃費改善と空力対策
第85回 飛行機の燃料(4)変わった燃料タンクいろいろ
第84回 飛行機の燃料(3)機内に設置する燃料タンク
第83回 飛行機の燃料(2)ジェット燃料を巡るあれこれ
第82回 特別編・民航機の非常事態を宣言で注目「2次レーダーとスコーク7700」
第81回 飛行機の燃料(1)燃料の種類とアブガス
第80回 軍用機の兵装搭載に関わる制約
第79回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比
第78回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(4)戦闘機の場合
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

もっと見る

関連キーワード


人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事