最近、運航中の民航機が「非常事態」を宣言する事案が立て続けに発生した。まず、2017年8月12日に全日空37便のボーイング777-281(登録記号JA703A)が非常事態を宣言して羽田空港に戻った。続いて、2017年8月15日にアメリカン航空280便のボーイング787-9(登録記号N822AN)が非常事態を宣言して、関西空港に緊急着陸した。今回のお題は、そこで出てきたキーワード「スコーク7700」だ。

1次レーダーと2次レーダー

レーダーという機材については、いまさら説明の必要はないだろう。電波を出して、それが何かに当たって反射してきた時に、反射波の方向と反射波が戻ってくるまでの時間に基づいて、探知目標の方位と距離を知る機材である。

航空交通管制(ATC : Air Traffic Control、またはATM : Air Traffic Management)の世界では、このタイプのレーダーを「1次レーダー」(PSR : Primary Surveillance Radar)と呼ぶ。ステルス機が相手だと話は違ってくるが、普通、被探知側に特定の装備や操作がなくても、捜索する側は探知を行える。

では、それ以外のタイプのレーダーがあるのかというと、それがある。「2次レーダー」(SSR : Secondary Surveillance Radar)である。ただし、レーダーと呼ばれるものの、動作内容はまったく異なる。1次レーダーとの共通点は「電波を出す」「電波を受信する」というところぐらいだ。

2次レーダーを使用するには、地上側にインテロゲーター、機体側にトランスポンダーが必要になる。まず、地上からインテロゲーターが、1,030MHz帯の電波で質問用信号を送信する。それを受信した機上のトランスポンダーは、1,090MHz帯の電波で応答信号を返す。

1次レーダーは、探知目標の方位、距離、高度(これは3次元レーダーの場合に限られる)は把握できるものの、探知した目標が何者なのかはわからない。その問題を解決するのが2次レーダーで、民航機の場合、トランスポンダーは高度や身元に関する情報を返す。

「民航機の場合」と書いたのは、もともと2次レーダーの仕組みは軍用機が使用する敵味方識別装置(IFF : Identification Friend or Foe)が基になっているから。IFFは確実に敵味方の区別をつけるために、暗号化した識別情報をやりとりする点が違う。

どちらにしても、使用する際は4桁の識別番号をセットする。民航機の運航管理を行う場面であれば、機体ごとに重複のない識別番号を割り当てることで、固有識別が可能になる。これがスコーク(SQUAWK)である。

なお、スコークの割り当てが必須になるのは、事前に飛行計画(フライト・プラン)を管制当局に提出して計器飛行方式(IFR : Instrument Flight Rules)で飛ぶ場合。有視界飛行方式(VFR : Visual Flight Rules)では事情が異なる(後述)。

識別番号(スコーク)の内容

スコークは4桁の番号だと書いたが、桁ごとに0~7の選択が可能なので、設定可能な組み合わせは8^4=4,096通りとなる。

離陸前に、管制官はパイロットに対して、飛行経路や高度の指示に加えて、スコークの指示も行う。つまり「ほげほげ航空○○便、△△ディパーチャー(出発経路)、高度××フィート、スコーク1234」といった具合だ。これを受けて、パイロットはトランスポンダーにスコークの数字を設定する。

その後の飛行中、地上の航空路監視レーダーに併設された2次レーダーのインテロゲーターは、1次レーダーが探知した航空機に対して誰何を行う。それを受けて機上のトランスポンダーは、設定されたスコークに基づく応答を返す。

どのフライト・ナンバーに、どのスコークを割り当てたかがわかっていれば、この仕組みによって「航空路監視レーダーが探知した機体が、なに航空のどの便なのか」がわかる。その情報は、管制官が見ているレーダーの画面に現れるので、管制官は個々のレーダー探知を、単なるブリップ(輝点)として見るのではなく、正体まで把握できる。

では、トランスポンダーのスイッチを切っているとどうなるか。インテロゲーターが誰何しても応答が返ってこないわけだから、正体不明の名なしさんである。

それが外国から日本の領空に接近してきたらどうなるかというと、航空自衛隊がスクランブルをかけて戦闘機を送り込み、正体を確認する。本当に「招かざる客」なら、無線で警告するとともに退去を求める。国によっては撃墜してしまったこともあるが、日本の過去の事例では警告射撃どまり。

予約されているスコーク

といったところで、ようやく本題に来た。実は、4桁・4,096パターンあるスコークのうち、特定の用途に予約されているものがいくつかある。その例を示す。

  • 1200 : 有視界飛行方式(VFR)で飛んでいる機体で、高度10,000フィート(3,048m)未満
  • 1400 : 有視界飛行方式(VFR)で飛んでいる機体で、高度10,000フィート(3,048m)以上
  • 7500 : ハイジャックに遭った機体
  • 7600 : 通信機が故障した機体
  • 7700 : 緊急事態が発生した機体
  • 7777 : 欧米で軍用機に割り当てられていて、スクランブル発進した戦闘機が使用する

つまり、冒頭で出てきた「スコーク7700」とは「なにかしらの緊急事態に直面した機体が、トランスポンダーにセットする番号」のこと。

スコーク7700にセットした機体がいると、その機体のトランスポンダーからの応答は当然ながら地上のインテロゲーターに届くから、管制官はレーダー画面上で「緊急事態を宣言した機体がいる」ことと、その機体の位置や高度を把握できる。そして、当該機を真っ先に降ろすために最短経路を指示したり、他の機体を待たせたりといった手を打つことができる。

ちなみに、先に少し触れたVFRの機体は、上に挙げた2種類のスコークのいずれか(1200または1400)を飛行高度に応じてセットする。VFRで飛んでいても航空路監視レーダーには探知されるから、そこでスコーク1200または1400をセットしていれば、管制官は「ああ、VFRで飛んでいる機がいるな」とわかる。

インテロゲーターのアンテナ

最後に余談を少々。

1次レーダーが探知した目標に対して2次レーダーのインテロゲーターが誰何するわけだから、1次レーダーのアンテナと2次レーダーのインテロゲーター用アンテナは同じ方向を向いている必要がある。

だから、回転式アンテナを使用する機械走査式レーダーの場合、レーダー・アンテナに2次レーダー用のアンテナも併設してあって、両者をまとめてグルグル回している。これは軍用のレーダーも同じで、IFFインテロゲーターのアンテナが対空捜索レーダーのアンテナとワンセットになっている。

カナダ海軍のフリゲート「オタワ」が装備する、タレス・ネーデルランド社製の対空捜索3次元レーダー「SMART-S Mk.2」(画面中央・やや上寄りの変形六角形で、トラス構造の架台に載っている)。本体の上部に三角形断面の張り出しがあるが、これがIFFのアンテナと思われる

さて。機械走査式レーダーならそれでいいが、固定式アンテナを使用するレーダーはどうするか。イージス艦のAN/SPY-1が典型例だが、小さな送受信用アンテナをたくさん並べて、電気的に首を振るタイプのレーダーである。アンテナが固定式なのに上下左右90度ぐらいずつの範囲を走査できるのだが、IFFのアンテナはどうすればいいか。

ということで解決策の一例として、全周をカバーできる固定式のアンテナを設置する手がある。日米のイージス艦を見るとマストの上部にリング型のアンテナが付いているが、これがIFFのアンテナだ。