前回、戦闘機の「吊るしもの」にまつわる重量の話を書いた。「何をどれだけ積めるか、燃料との兼ね合いは」というところでは、戦闘機といえども、民航機のペイロードの話と共通性がある。ところが戦闘機の場合、それとは別の「重量」の話も大事なので、やや脱線気味ではあるが、書いてみることにした。

最高速度より加速力

「戦闘機の性能」というと一般的には、最高速度が重視されるかもしれない。確かにわかりやすい指標ではある。ところが現実には、戦闘機が最高速度で飛ぶ場面はビックリするぐらい少ない。

そして、空中戦が起きる一般的な速度域は遷音速、つまり音速とその前後の領域が多いということが、実戦の経験によってわかっている。そして実戦の経験により、最高速度よりも加速力が大事だということになった。

そこで問題になる数字が、本稿の本題である「推力重量比」だ。読んで字のごとく、機体重量当たりのエンジン推力を示す数字である。例えば、機体重量が20トンでエンジン推力が16トンなら、推力重量比は16÷20=0.8である。

推力重量比が1を超えていれば、エンジン推力だけで機体を持ち上げられるということだから、理屈の上では翼がなくても垂直上昇できる。そして、1970年代以降に開発された戦闘機の多くは、推力重量比が1を上回るか、その水準を目指すようになってきている。

そして、推力重量比が高いということは、それだけ加速力に優れており、機動飛行の際にエネルギーを失わないということでもある。

クルマでいえば、トルクが豊富にあるかどうか、という話と言えるかもしれない。小排気量のエンジンを高回転型にして馬力を稼ぐことはできても、トルクが細ければ、急な上り坂では分が悪い。そういう場面ではむしろ、トルクの大きさがモノをいう。

そういえば、戦闘機の業界には維持旋回という言葉がある。これは、旋回の際に抵抗を受けて落ちる速度や高度をエンジンの出力によって補い、高度と速度を維持したまま旋回を継続できる状態を指す。推力重量比が高い機体はそれだけ、維持旋回能力も高くなる傾向があると考えられる。

エンジン排気口を見るとおわかりの通り、オーグメンターを使いながらデモ飛行を展開するF-22ラプター。ただしこの機体、オーグメンターを使わなくても超音速巡航はできる

具体的な数字を見てみる

では、理屈はこれぐらいにして、実機の数字を見てみようと思う。ただし、どの状態の機体重量に基づいて推力重量比を計算するかが問題だ。

推力重量比が問題になるのは空中戦をやる場面で、それは母基地から戦闘空域に進出した後の話である。だから、燃料満載・兵装満載で離陸するときの数字を出しても実情にそぐわない。かといって、機体だけの空虚重量も実情にそぐわない。

そこで、機内燃料満載、兵装は空対空ミサイル1つが150kgとして8発分、1,200kgとして計算した。

まずF-15Cイーグル。空虚重量は12,916kg。機内燃料は7,836リットルだから比重を0.8とすると6,269kg。兵装は先に述べたように1,200kgと仮定する。これらの合計は20,385kg。それに対して、F100-PW-220エンジンの推力は104.43kN(10,656kg)が2基だから、合計21,312kg。推力重量比は1.045となる。

F-16Cファイティングファルコン(ブロック40)はどうか。空虚重量は8,627kg、機内燃料は3,896リットルだから比重を0.8とすると3,117kg。兵装搭載能力はF-15より落ちるハズだが、仮に同条件(8発・1,200kg)としてみる。すると合計は12,944kg。F110-GE-100エンジンの推力は125kN(12,755kg)とされているので、推力重量比は1.0をわずかに下回る。しかし兵装搭載量を過大に見積もっての数字だから、実際には1.0を超えられるだろう。

では、F-35AライトニングIIはどうか。空虚重量は13,302kg、機内燃料搭載量は8,278kg(F-16の2.65倍だ!)、兵装は空対空ミサイル4発で600kgとする(ステルス形態を想定)。すると合計は22,180kgとなる。F135-PW-100エンジンの最大推力は18,000kg程度といわれているので、推力重量比は1を下回る。

もっとも、プラット&ホイットニーは最近、F135エンジンを1割ほどパワーアップするオプションを提示しているので、今後、数字がいくらか良くなる可能性はある。

また、F-35には「機内燃料搭載量が大きいので、増槽を必要とする場面が少ない」という利点がある。つまり、主翼下面に使い捨ての追加燃料タンクをぶら下げなくて済むから、その分だけ空気抵抗が減る。当然ながら、燃費の面でも空気抵抗の面でも有利になる。

それに対して非ステルス機は、外部兵装搭載が増えるほど空気抵抗が増える。もちろん、何も搭載しないクリーン状態なら性能上の数字は良くなるが、それでは戦えない。

最大推力の数字に注意

F-15イーグルはマッハ2を超える速度が出るが、そのためには、いわゆるアフターバーナーを作動させる必要がある。諸元表に載っている「最大推力」「最高速度」は、その場合の数字だ。先の推力重量比の計算でも、その数字を使っている。

ところが、アフターバーナー(GE製エンジンの場合)にしろ、オーグメンター(P&W製エンジンの場合)にしろ、リヒート(ロールス・ロイス製エンジンの場合)にしろ、これを使うと、燃料がものすごい勢いで減ってしまう。だから、常時、これらの再燃焼装置を使い続けるわけにはいかない。

となると、アフターバーナー/オーグメンター/リヒートを使わない場合の出力。業界ではミリタリー推力とかドライ推力とかいわれているものだが、この数字が最大推力と比べてガクンと落ちるエンジンを搭載した機体は不利かもしれない。最大推力の数字だけでなく、そういう観点から戦闘機用エンジンの諸元を眺めてみるのも面白いだろう。

その点、オーグメンターを使わなくても超音速飛行ができるF-22ラプターは、相対的に少ない燃料消費で高速飛行を持続でき、エネルギーを溜め込んでおけるので有利である。ただし、機体の値段がべらぼうに高いので、おカネは貯まらない。