【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

79 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比

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前回、戦闘機の「吊るしもの」にまつわる重量の話を書いた。「何をどれだけ積めるか、燃料との兼ね合いは」というところでは、戦闘機といえども、民航機のペイロードの話と共通性がある。ところが戦闘機の場合、それとは別の「重量」の話も大事なので、やや脱線気味ではあるが、書いてみることにした。

最高速度より加速力

「戦闘機の性能」というと一般的には、最高速度が重視されるかもしれない。確かにわかりやすい指標ではある。ところが現実には、戦闘機が最高速度で飛ぶ場面はビックリするぐらい少ない。

そして、空中戦が起きる一般的な速度域は遷音速、つまり音速とその前後の領域が多いということが、実戦の経験によってわかっている。そして実戦の経験により、最高速度よりも加速力が大事だということになった。

そこで問題になる数字が、本稿の本題である「推力重量比」だ。読んで字のごとく、機体重量当たりのエンジン推力を示す数字である。例えば、機体重量が20トンでエンジン推力が16トンなら、推力重量比は16÷20=0.8である。

推力重量比が1を超えていれば、エンジン推力だけで機体を持ち上げられるということだから、理屈の上では翼がなくても垂直上昇できる。そして、1970年代以降に開発された戦闘機の多くは、推力重量比が1を上回るか、その水準を目指すようになってきている。

そして、推力重量比が高いということは、それだけ加速力に優れており、機動飛行の際にエネルギーを失わないということでもある。

クルマでいえば、トルクが豊富にあるかどうか、という話と言えるかもしれない。小排気量のエンジンを高回転型にして馬力を稼ぐことはできても、トルクが細ければ、急な上り坂では分が悪い。そういう場面ではむしろ、トルクの大きさがモノをいう。

そういえば、戦闘機の業界には維持旋回という言葉がある。これは、旋回の際に抵抗を受けて落ちる速度や高度をエンジンの出力によって補い、高度と速度を維持したまま旋回を継続できる状態を指す。推力重量比が高い機体はそれだけ、維持旋回能力も高くなる傾向があると考えられる。

エンジン排気口を見るとおわかりの通り、オーグメンターを使いながらデモ飛行を展開するF-22ラプター。ただしこの機体、オーグメンターを使わなくても超音速巡航はできる

具体的な数字を見てみる

では、理屈はこれぐらいにして、実機の数字を見てみようと思う。ただし、どの状態の機体重量に基づいて推力重量比を計算するかが問題だ。

推力重量比が問題になるのは空中戦をやる場面で、それは母基地から戦闘空域に進出した後の話である。だから、燃料満載・兵装満載で離陸するときの数字を出しても実情にそぐわない。かといって、機体だけの空虚重量も実情にそぐわない。

そこで、機内燃料満載、兵装は空対空ミサイル1つが150kgとして8発分、1,200kgとして計算した。

まずF-15Cイーグル。空虚重量は12,916kg。機内燃料は7,836リットルだから比重を0.8とすると6,269kg。兵装は先に述べたように1,200kgと仮定する。これらの合計は20,385kg。それに対して、F100-PW-220エンジンの推力は104.43kN(10,656kg)が2基だから、合計21,312kg。推力重量比は1.045となる。

F-16Cファイティングファルコン(ブロック40)はどうか。空虚重量は8,627kg、機内燃料は3,896リットルだから比重を0.8とすると3,117kg。兵装搭載能力はF-15より落ちるハズだが、仮に同条件(8発・1,200kg)としてみる。すると合計は12,944kg。F110-GE-100エンジンの推力は125kN(12,755kg)とされているので、推力重量比は1.0をわずかに下回る。しかし兵装搭載量を過大に見積もっての数字だから、実際には1.0を超えられるだろう。

では、F-35AライトニングIIはどうか。空虚重量は13,302kg、機内燃料搭載量は8,278kg(F-16の2.65倍だ!)、兵装は空対空ミサイル4発で600kgとする(ステルス形態を想定)。すると合計は22,180kgとなる。F135-PW-100エンジンの最大推力は18,000kg程度といわれているので、推力重量比は1を下回る。

もっとも、プラット&ホイットニーは最近、F135エンジンを1割ほどパワーアップするオプションを提示しているので、今後、数字がいくらか良くなる可能性はある。

また、F-35には「機内燃料搭載量が大きいので、増槽を必要とする場面が少ない」という利点がある。つまり、主翼下面に使い捨ての追加燃料タンクをぶら下げなくて済むから、その分だけ空気抵抗が減る。当然ながら、燃費の面でも空気抵抗の面でも有利になる。

それに対して非ステルス機は、外部兵装搭載が増えるほど空気抵抗が増える。もちろん、何も搭載しないクリーン状態なら性能上の数字は良くなるが、それでは戦えない。

最大推力の数字に注意

F-15イーグルはマッハ2を超える速度が出るが、そのためには、いわゆるアフターバーナーを作動させる必要がある。諸元表に載っている「最大推力」「最高速度」は、その場合の数字だ。先の推力重量比の計算でも、その数字を使っている。

ところが、アフターバーナー(GE製エンジンの場合)にしろ、オーグメンター(P&W製エンジンの場合)にしろ、リヒート(ロールス・ロイス製エンジンの場合)にしろ、これを使うと、燃料がものすごい勢いで減ってしまう。だから、常時、これらの再燃焼装置を使い続けるわけにはいかない。

となると、アフターバーナー/オーグメンター/リヒートを使わない場合の出力。業界ではミリタリー推力とかドライ推力とかいわれているものだが、この数字が最大推力と比べてガクンと落ちるエンジンを搭載した機体は不利かもしれない。最大推力の数字だけでなく、そういう観点から戦闘機用エンジンの諸元を眺めてみるのも面白いだろう。

その点、オーグメンターを使わなくても超音速飛行ができるF-22ラプターは、相対的に少ない燃料消費で高速飛行を持続でき、エネルギーを溜め込んでおけるので有利である。ただし、機体の値段がべらぼうに高いので、おカネは貯まらない。

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インデックス

連載目次
第81回 飛行機の燃料(1)燃料の種類とアブガス
第80回 軍用機の兵装搭載に関わる制約
第79回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比
第78回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(4)戦闘機の場合
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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