【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

76 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)

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前回は、飛行機を巡るさまざまな「○○重量」の意味と、ペイロードと燃料搭載量のバランスについて解説した。今回はその続きである。実際に、さまざまな条件に基づいた計算をやってみることにしよう。なお、使用する数字は日本航空Webサイトの「航空実用事典」にある「旅客機諸元・性能表」から、ボーイング747-400のものを引用した。

日本国政府専用機 B-747-400

燃料とペイロード、実際の計算例

例えば、ボーイング747-400の国内線仕様機を使い、出発地から目的地までの消費燃料15トン、予備燃料5トン、合計20トンの燃料を搭載するものとする。

すると、運航空虚重量と燃料の合計は164.3+20=184.3トンだから、これを最大離陸重量から差し引いた87.9トンがペイロードという計算になる。しかし、先に示したリンク先の諸元表では、最大ペイロードの数字はもっと小さい。それは、なぜか。

当たり前の話だが、離陸した直後は燃料の搭載量が多い。飛行するにつれて燃料を消費して、機体は軽くなっていく。そして、目的地に到着した時点で最大着陸重量を下回るところまで軽くなっていれば、そのまま着陸できる。

裏を返せば、目的地に到着した時点で最大着陸重量よりも実際の重量が大きいと、着陸できない。ということで、実はペイロードの上限を決める要因がもう1つ存在することがわかる。つまり、運航空虚重量と予備燃料とペイロードの合計は、最大着陸重量を下回っていなければならない。そうしないと着陸できなくなってしまう。

構造上の限度いっぱいにペイロードを搭載した時の重量は、最大ゼロ燃料重量、それと着陸時に残っている予備燃料みたいな残燃料の合計となる。そして、747-400の国内線仕様機は最大ゼロ燃料重量242.7トン、最大着陸重量260.4トンで、両者の差分は17.7トン。

そこで、747-400国内線仕様機のペイロード上限を見ると、59.2トンとある。ということは、出発地から目的地までの消費燃料15トン、予備燃料5トン、合計20トンの燃料を搭載する場合、運航空虚重量とペイロードと予備燃料の合計は、164.3+59.2+5=228.5トン。最大着陸重量の260.4トンを下回っているので、着陸可能である。消費燃料15トンを加えても253.5トンだから、まだ余裕がある。

国内線は飛行距離が短いから燃料の搭載量は少ないし、近くに代替飛行場を確保できる可能性も高い。その分だけ、消費燃料も予備燃料も少なくできると考えられる。ただし、沖縄線みたいに飛行距離が長い路線になると、話は違ってくるかもしれない。

国内線仕様と国際線仕様の違い

長距離の国際線では、消費燃料も予備燃料も所要が大幅に増える。実は、前回と今回の記事で747-400を引き合いに出したのは、この機体だけ、国内線仕様と国際線仕様の数字が出ていたためだ。

747-400の国際線仕様は、国内線仕様機と比較すると最大離陸重量が一気に100トン以上も増えて(!)、394.6トンになる。これは、「国内線仕様は短距離で飛行回数が多い」「国際線仕様は長距離で飛行回数が少ない」という違いによる。

飛行回数が多いと、機体構造や降着装置にかかる負荷が増える。そこで意図的に最大離陸重量を減らして、負荷を抑えているわけだ。機種によってはわざわざ、機体構造や降着装置を補強した「国内線専用型」を用意することもある。747-100SRがそうだし、747-400にも国内線専用モデルがあった。

そこで、ペイロードを同じ50トンと仮定して、国内線仕様機と国際線仕様機について搭載できる燃料の上限を計算してみよう。運航空虚重量とペイロードの合計を、最大離陸重量から差し引けば数字が出る。

  • 国内線仕様 : 272.2-(164.3+50)=57.9トン
  • 国際線仕様 : 394.6-(182.7+50)=161.9トン

国際線仕様機は最大離陸重量を引き上げている分だけ、同じペイロードでも多くの燃料を搭載できることがわかる。長距離飛行を行うので、そういう仕様になっているわけだ。

国際線では長距離洋上飛行を行う場面が多くなるから、代替飛行場が目的地のすぐ近くにあるとは限らない。また、向かい風・追い風をはじめとする気象条件の影響も、飛行時間が長い分だけ大きくなる。そのため、燃料には余裕を持たせておきたいし、機体の側はそれを想定した上で重量上限を定めていると言える。

つまり、国内線仕様機と国際線仕様機の違いは、客室のクラス配分やギャレー、ラバトリーの数だけではないのである。もっと根本的な、機体の基本設計に関わる部分から影響するのだ。

もっとも、国際線はファーストクラスやビジネスクラスといった上級クラスが占める比率が大きくなり、その分だけ定員が減少するので、ペイロードの面では楽になるかもしれない。乗客が持ち込んだり預けたりする荷物の量が増える点は考慮しなければならないが。

そうなると、シートピッチを詰めて多くの乗客を詰め込んで、それでいて長距離を飛行するLCCの国際線は、ペイロードと燃料のせめぎ合いが厳しくなり、運航計画立案に際して悩まされるのだろうか?

最大着陸重量と燃料投棄の関係

筆者は経験したことがないが、非常事態が生じて緊急着陸しなければならなくなった旅客機が、すぐに着陸しないで、まず燃料を投棄することがある。「おカネを払って購入・搭載した燃料を捨ててしまうなんてもったいない」と思われそうだが、実は先に取り上げた最大着陸重量が関わってくる。

ボーイング747-400の数字を見ると、最大着陸重量は国内線仕様機が260.4トン、国際線仕様機が285.8トンと、意外なほど差がない。しかし、離陸時に搭載できる燃料の量は、国際線仕様機のほうがはるかに多い。これが何を意味するか。

前回にも述べたように、離陸した直後には燃料を多く積んでいる。そして目的地に近付くにつれて燃料を消費して、機体が軽くなっていく。裏を返せば、離陸直後の状態では燃料が多いから、最大着陸重量を上回ってしまっているのだ。それでは降りようにも降りられない。

だから、特に長距離国際線の機材が離陸直後に緊急着陸することになった場合、燃料を投棄して機体を軽くする作業は必須なのだ。

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インデックス

連載目次
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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