前回、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)で開発を進めている技術実証機「VTOL X-Plane」を紹介した。この種の技術実証機は、機体をコンパクトにまとめてコストを下げるとともに、リスクを回避するために無人の機体として製作する事例が多い。つまり「VTOL機の実証機を無人で作った」というケースだ。

中・小型のUAVは滑走路なしで済ませたい

それとは逆の、まず「無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を開発する」という目的が先行する事例ではどうか。

実はこちらでも、VTOL(Vertical Take-Off and Landing)やSTOL(Short Take-Off and Landing)の能力が求められる場面が意外と多い。陸上では滑走路がない場所から運用しなければならない場面があるし、洋上の艦艇から運用する際に「空母並みの大型艦が必要」ということでは仕事にならない。

軍用のUAVには複数の分類がある。大型で高価なほうから順番に並べると、こうなる。

  • HALE (High-Altitude, Long-Endurance) UAV
  • MALE (Medium-Altitude, Long-Endurance) UAV
  • 戦術UAV (Tactical UAV)
  • ミニUAV
  • マイクロUAV
  • ナノUAV

これらのうち、滑走路による離着陸が許容されるのは、せいぜい戦術UAV以上のクラス。

ミニUAV、マイクロUAV、ナノUAVは、例えば陸軍の最前線で任務に就く小規模な歩兵部隊が、近所の状況を偵察するような場面で使用するUAVだ。

だから、個人で持ち運べるように機体を小型軽量化するのはもちろんだが、滑走路がないと離着陸できないような機体では使い物にならない。よって、VTOLあるいはSTOLが可能でないと困る。

ダクテッドファンとティルトローター

VTOLが可能なUAVとしてハネウェル社やSTエアロスペース社が開発したのが、ダクテッドファン型のUAV。要するに、F-35Bのリフトファンだけ切り出してきたようなもので、円筒形の「機体」の中にファンが入っている。そして、そのファンを回転させることで浮揚力を生み出し、ファンの下に設けた舵を動かすことで操縦を行う。

Take a Look at the T-Hawk!

ハネウェル社の「Tホーク」は福島第一原発の事故に際して内部偵察用に投入されたが、操縦不能に陥って不時着する事故を起こしてしまった。

ちなみに、V-22オスプレイと同様のティルトローターを使用するUAVとして、ベル・ヘリコプター社のイーグルアイがあった。米沿岸警備隊で導入する話があったのだが頓挫してしまい、イーグルアイも買い手がつかずに終わってしまった。

カタパルトとスカイフック

RQ-11レイヴンというミニUAVがある。小型・軽量で、手で放り投げて発進させる。言い換えれば、手で放り投げることで得られるスピードがあれば離陸できるぐらい、失速限界が低い。つまりSTOL性に優れている。

RQ-11レイヴン Photo:US Air Force

しかし、人間が手で放り投げられるモノのサイズ・重量には限りがあるから、もうちょっと大きな機体になると、手投げというわけにはいかない。すると、油圧あるいは空気圧を使用するカタパルトで射出する形態が普通になる。

では、着陸はどうか。車輪付きの降着装置は滑走する時に使うものであって、滑走路なしでの離着陸が求められる場面では使いづらい。別の方法が必要になる。

小型で安価で低速なミニUAVやマイクロUAVだと、地面にドスンと降ろしてしまう機体が意外とある。いわゆるストール・ランディングで、地面の近くまで降りてきたところで意図的に失速させてしまう。もちろん、機体を壊さないように、できるだけ低速で進入できるようにしたいから、STOL機と似た部分がある。

といっても、「墜とされても苦にならない」のがUAVの利点だから安価に抑えたいし、メンテナンスにかかる費用や手間も少ないほうがいい。だから、凝った高揚力装置などの複雑なメカは避けたい。機体を軽く造る一方で、その重量の割には大きい主翼を付けて、低速でも揚力を保てる設計にするのが常道だ。

そうはいっても、機体が大きく、重くなれば、状況は違ってくる。そこでインシツ社が考案したのが、「スカイフック」(SkyHookは同社の登録商標)。

スカイフックは、「く」の字型のアームを上に伸ばして、そこと地上の間にケーブルを張り渡す方法を使う。

そこにUAVが突っ込んでくると、ケーブルはUAVの主翼前縁に当たる。主翼には後退角がついているので、そこに当たったケーブルは翼端に向けて動いていき、最終的に翼端に取り付けられた金具にひっかかる。それによって機体の行き脚が止まり、機体はズルズルと地面に降りてくる仕組み。

百の能書きよりも一の現物。動画を御覧いただくのが手っ取り早いだろう。

Insitu ScanEagle Launch And Capture

無人ならテイルシッターにしても大丈夫!?

インシツ社のスキャンイーグルやインテグレーターは、カタパルトとスカイフックの組み合わせにより、陸上だけでなく艦上でも運用できる。スカイフックを使うと、駆逐艦やフリゲートのヘリ発着甲板ぐらいのスペースがあれば回収できるし、実際、そうやって運用している実績がある。

それとは別にDARPAと米海軍では、TERN(Tactically Exploited Reconnaissance Node)という艦上運用向けUAVの研究開発を進めている。それのコンセプト動画がこちら。

Tern UAS Concept Overview

なんと、第69回で取り上げたテイルシッターである。テイルシッターが抱える難点の1つは、「離着陸の際に真上を向いてしまうために、パイロットが地面を見られない」点だが、それはパイロットが乗って操縦するから問題になる話。パイロットが乗らないUAVなら関係ない。

ただし、実際にTERN計画で採用されて作業を進めているのは、上の動画の提供元であるノースロップ・グラマン社ではなくて、オーロラ・フライト・サイエンス社。

同社が採用した方法は、艦の横にレールを突き出して、そこに取り付けたケーブルでUAVをキャッチする方法。ケーブルで行き脚を抑えつつ、前方のネット(機体の動きに合わせて移動する)に機体を突っ込ませて止めるというもの。その試験を行った模様を撮影した動画がこれ。

Tern SideArm Capture System Tests & Concept Video

今回取り上げたのは、機体そのものの話というよりも発進・回収システムの工夫によってVTOLやSTOLを可能にしようという話なのだが、人が乗っていないUAVのほうが選択の余地が広く、いろいろな意味でフリーダムなようである。