【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

73 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸

73/90

前回、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)で開発を進めている技術実証機「VTOL X-Plane」を紹介した。この種の技術実証機は、機体をコンパクトにまとめてコストを下げるとともに、リスクを回避するために無人の機体として製作する事例が多い。つまり「VTOL機の実証機を無人で作った」というケースだ。

中・小型のUAVは滑走路なしで済ませたい

それとは逆の、まず「無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を開発する」という目的が先行する事例ではどうか。

実はこちらでも、VTOL(Vertical Take-Off and Landing)やSTOL(Short Take-Off and Landing)の能力が求められる場面が意外と多い。陸上では滑走路がない場所から運用しなければならない場面があるし、洋上の艦艇から運用する際に「空母並みの大型艦が必要」ということでは仕事にならない。

軍用のUAVには複数の分類がある。大型で高価なほうから順番に並べると、こうなる。

  • HALE (High-Altitude, Long-Endurance) UAV
  • MALE (Medium-Altitude, Long-Endurance) UAV
  • 戦術UAV (Tactical UAV)
  • ミニUAV
  • マイクロUAV
  • ナノUAV

これらのうち、滑走路による離着陸が許容されるのは、せいぜい戦術UAV以上のクラス。

ミニUAV、マイクロUAV、ナノUAVは、例えば陸軍の最前線で任務に就く小規模な歩兵部隊が、近所の状況を偵察するような場面で使用するUAVだ。

だから、個人で持ち運べるように機体を小型軽量化するのはもちろんだが、滑走路がないと離着陸できないような機体では使い物にならない。よって、VTOLあるいはSTOLが可能でないと困る。

ダクテッドファンとティルトローター

VTOLが可能なUAVとしてハネウェル社やSTエアロスペース社が開発したのが、ダクテッドファン型のUAV。要するに、F-35Bのリフトファンだけ切り出してきたようなもので、円筒形の「機体」の中にファンが入っている。そして、そのファンを回転させることで浮揚力を生み出し、ファンの下に設けた舵を動かすことで操縦を行う。

Take a Look at the T-Hawk!

ハネウェル社の「Tホーク」は福島第一原発の事故に際して内部偵察用に投入されたが、操縦不能に陥って不時着する事故を起こしてしまった。

ちなみに、V-22オスプレイと同様のティルトローターを使用するUAVとして、ベル・ヘリコプター社のイーグルアイがあった。米沿岸警備隊で導入する話があったのだが頓挫してしまい、イーグルアイも買い手がつかずに終わってしまった。

カタパルトとスカイフック

RQ-11レイヴンというミニUAVがある。小型・軽量で、手で放り投げて発進させる。言い換えれば、手で放り投げることで得られるスピードがあれば離陸できるぐらい、失速限界が低い。つまりSTOL性に優れている。

RQ-11レイヴン Photo:US Air Force

しかし、人間が手で放り投げられるモノのサイズ・重量には限りがあるから、もうちょっと大きな機体になると、手投げというわけにはいかない。すると、油圧あるいは空気圧を使用するカタパルトで射出する形態が普通になる。

では、着陸はどうか。車輪付きの降着装置は滑走する時に使うものであって、滑走路なしでの離着陸が求められる場面では使いづらい。別の方法が必要になる。

小型で安価で低速なミニUAVやマイクロUAVだと、地面にドスンと降ろしてしまう機体が意外とある。いわゆるストール・ランディングで、地面の近くまで降りてきたところで意図的に失速させてしまう。もちろん、機体を壊さないように、できるだけ低速で進入できるようにしたいから、STOL機と似た部分がある。

といっても、「墜とされても苦にならない」のがUAVの利点だから安価に抑えたいし、メンテナンスにかかる費用や手間も少ないほうがいい。だから、凝った高揚力装置などの複雑なメカは避けたい。機体を軽く造る一方で、その重量の割には大きい主翼を付けて、低速でも揚力を保てる設計にするのが常道だ。

そうはいっても、機体が大きく、重くなれば、状況は違ってくる。そこでインシツ社が考案したのが、「スカイフック」(SkyHookは同社の登録商標)。

スカイフックは、「く」の字型のアームを上に伸ばして、そこと地上の間にケーブルを張り渡す方法を使う。

そこにUAVが突っ込んでくると、ケーブルはUAVの主翼前縁に当たる。主翼には後退角がついているので、そこに当たったケーブルは翼端に向けて動いていき、最終的に翼端に取り付けられた金具にひっかかる。それによって機体の行き脚が止まり、機体はズルズルと地面に降りてくる仕組み。

百の能書きよりも一の現物。動画を御覧いただくのが手っ取り早いだろう。

Insitu ScanEagle Launch And Capture

無人ならテイルシッターにしても大丈夫!?

インシツ社のスキャンイーグルやインテグレーターは、カタパルトとスカイフックの組み合わせにより、陸上だけでなく艦上でも運用できる。スカイフックを使うと、駆逐艦やフリゲートのヘリ発着甲板ぐらいのスペースがあれば回収できるし、実際、そうやって運用している実績がある。

それとは別にDARPAと米海軍では、TERN(Tactically Exploited Reconnaissance Node)という艦上運用向けUAVの研究開発を進めている。それのコンセプト動画がこちら。

Tern UAS Concept Overview

なんと、第69回で取り上げたテイルシッターである。テイルシッターが抱える難点の1つは、「離着陸の際に真上を向いてしまうために、パイロットが地面を見られない」点だが、それはパイロットが乗って操縦するから問題になる話。パイロットが乗らないUAVなら関係ない。

ただし、実際にTERN計画で採用されて作業を進めているのは、上の動画の提供元であるノースロップ・グラマン社ではなくて、オーロラ・フライト・サイエンス社。

同社が採用した方法は、艦の横にレールを突き出して、そこに取り付けたケーブルでUAVをキャッチする方法。ケーブルで行き脚を抑えつつ、前方のネット(機体の動きに合わせて移動する)に機体を突っ込ませて止めるというもの。その試験を行った模様を撮影した動画がこれ。

Tern SideArm Capture System Tests & Concept Video

今回取り上げたのは、機体そのものの話というよりも発進・回収システムの工夫によってVTOLやSTOLを可能にしようという話なのだが、人が乗っていないUAVのほうが選択の余地が広く、いろいろな意味でフリーダムなようである。

73/90

インデックス

連載目次
第90回 特別編・ATR42-600リポート(1)ATR42とはこんな機体
第89回 飛行機の燃料(8)燃料をめぐるこぼれ話
第88回 飛行機の燃料(7)空中給油のメカニズム
第87回 飛行機の燃料(6)燃料補給の方法いろいろ
第86回 飛行機の燃料(5)燃費改善と空力対策
第85回 飛行機の燃料(4)変わった燃料タンクいろいろ
第84回 飛行機の燃料(3)機内に設置する燃料タンク
第83回 飛行機の燃料(2)ジェット燃料を巡るあれこれ
第82回 特別編・民航機の非常事態を宣言で注目「2次レーダーとスコーク7700」
第81回 飛行機の燃料(1)燃料の種類とアブガス
第80回 軍用機の兵装搭載に関わる制約
第79回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比
第78回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(4)戦闘機の場合
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

もっと見る



人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事