【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

72 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」

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ここまで紹介してきたのは、すでに有人の実用機が存在する機体の話だった。実用機だから当然だが、すでに熟成されていて、やや「ワクワクしない」かもしれない。そこで今回は、現在進行中の研究開発案件を1つ紹介しよう。

オスプレイより速く!

米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)では現在、「VTOL X-Plane」という計画の下、VTOL(Vertical Take-Off and Landing)機の研究開発プログラムを進めている。X-Planeは「Experimental Plane」、つまり「実験機」という意味だ。

DARPAはVTOL X-Plane計画の狙いとして、V-22オスプレイより速い300~400kt(555~740km/h)の水平飛行速度の実現や、高いホバリング効率の実現などを挙げている。

複数のメーカーがそれぞれ異なる形態のVTOL機を提案したが、採用されたのはオーロラ・フライト・サイエンス社の案だった。まずフェーズ1として同社とシコルスキー社が予備設計作業の契約を得て研究作業を実施。その結果を受けてオーロラ社の勝利が決まり、実際に設計案の熟成を進めるフェーズ2に駒を進めている。

オーロラ社が提案した「ライトニング・ストライク」は一種のティルトウィングだが、本連載の第58回で取り上げたXC-142と異なり、大きなプロペラとエンジンナセル、という形態にはなっていない。代わりに採用したのが、電動式のダクテッド・プロペラをたくさん並べて、あたかも主翼と一体化させたような形態を持つ先尾翼形態だった。

オーロラ・フライト・サイエンスの「ライトニング・ストライク」のデモの様子

胴体内部には、V-22オスプレイが使っているものと同じロールス・ロイス製AE1107Cエンジンを搭載するが、これは発電用。発生した電力を電動式ダクテッドファンに供給する。そのダクテッドファンは、左右の先尾翼に3基ずつ、後部の主翼に9基ずつ、合計24基ある。先尾翼のファンを駆動するモーターは出力70kW、主翼のファンを駆動するモーターは出力100kW。

そして、ダクテッドファンと一体化した主翼が、離着陸時は上を向いて機体を支える力を発生させるので、垂直離着陸が可能になる。離陸した後は転換飛行を経て水平飛行に遷移するが、その際には主翼も水平になる。その模様を説明するコンセプト・ビデオがこれである。

VTOL X-Plane Phase 2 Concept Video

ただ、いきなり実用サイズの機体を製作するのはリスクが大きいと考えたのか、最初に20%スケールの無人サブスケール試験機を製作して飛ばしてみた。ちょうど、その試験が今春に終わったところ。

サブスケール試験機が飛ぶ様子を撮影した動画がこちら。ただし垂直離陸と垂直着陸しか行っていない。離着陸時の挙動はかなり荒っぽいが、人が乗っていないので差し支えはない。

Aurora Successfully Flies Subscale X-Plane Aircraft

VTOL X-Planeの操縦操作

電動式だというので、モーターの回転数を変化させて推進力を加減するのかと思ったら、そうではなかった。モーターは定速回転のままで、ブレードのピッチを変える方法を使うという。つまり、推進力を増やしたい時はピッチを大きくして、推進力を抑えたい時はピッチを小さくするわけだ。

水平飛行中に、すべてのモーターで同じようにピッチを変えれば全体の推進力が一様に増減するので、速度の増減になる。VTOLモードで同じことをすると、上昇・下降が可能だ。

VTOLモードに入っている時に、尾翼側と主翼側で異なるピッチにすると前後の浮揚力バランスが変わるので、機首上げ・機首下げ(ピッチ方向)の操縦操作ができる。

VTOLモードに入っている時に、左右の主翼・尾翼でそれぞれ異なるピッチにすると左右の浮揚力バランスが変わるので、横転(ロール方向)の操縦操作ができる。これが水平飛行中だと、機首を左右に振る(ヨー方向)操縦操作になる。

ここまで書いたところで「はて、VTOLモードでヨー方向の操縦操作をするときはどうするんだろう?」と思ったが、左右の尾翼と主翼、合計4つの領域のそれぞれについて異なるピッチ操作をして、さらに尾翼や主翼のティルト角変化を併用すれば実現できそうだ。

ただ、どの操縦操作にしても制御する相手が24個もあるので、「どういう操縦操作の指令に対して、どのファンのピッチをどれだけ変えるか」という制御則を確立するのは大変かもしれない。

VTOL X-Planeのメリット

正直いって、この形態にすると、どうして速度性能の向上や効率の向上が実現できるのか、よくわからなくて頭を抱えてしまった。

そもそもプロペラで推進する場合、小さなプロペラを高速回転させるよりも、大きなプロペラをゆっくり回転させる方が、推進効率が良いのではなかったか。

ただ、小さなプロペラをたくさん並べれば、前述したように操縦操作を行いやすくなると考えられる。そして、補助翼・昇降舵・方向舵といった操縦翼面が効かないVTOLモードでも、個別のファンごとにピッチを細かく操作することで操縦操作を行える。

普通のティルトウィング(というのも妙な書き方だが)では、エンジンは推進力を出すだけで、操縦操作は主翼に付いている操縦翼面の仕事。だから操縦翼面に気流が当たっていないと操縦操作ができない。するとVTOL形態のときに困ってしまうが、VTOL X-Planeならそういう問題はない。

また、普通のティルトウィングだと「主翼」と「エンジンナセルおよびプロペラ」が別々にあり、それがガバッと上を向く。だから空気抵抗が大きいし、風の影響も受けやすそうだ。それと比べると、VTOL X-Planeの主翼や先尾翼は、主翼の中にダクテッドファンを組み込んだ形態になるので、抵抗は少なそうに見える。

まだサブスケール試験機の段階なので情報が少ないが、これからフルスケール試験機が出てきて飛行試験が進むと、新しい情報が出てくるかも知れない。その時にはまた、本連載で続報として取り上げてみたい。

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インデックス

連載目次
第81回 飛行機の燃料(1)燃料の種類とアブガス
第80回 軍用機の兵装搭載に関わる制約
第79回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比
第78回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(4)戦闘機の場合
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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