【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

68 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター

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筆者は、SF人形劇『サンダーバード』に熱狂しながら育った世代である。といっても、観たのは再放送ばかりだが、再放送があれば何度でも観ていた。

サンダーバード1号

その『サンダーバード』では、現場の状況確認と救助作業の指揮をとるために、真っ先に「サンダーバード1号」が現場に駆けつける。

これもVTOL機で、発進の際にはロケットと同様に垂直に飛び立ち、その後で主翼を展開して水平飛行に遷移する。現場では胴体下面のロケットを吹かして、水平姿勢のままで垂直離着陸する。では、トレーシー島に戻ってきた時はどうだろう?

実は、発進の際と同様にプールがスライドして開き、そこに垂直姿勢に戻って垂直着陸する。この場面は滅多に番組中に登場しないが、少なくとも一度は観た記憶がある。

テイルシッター

なぜいきなり『サンダーバード』の話を始めたかというと、リアルで「サンダーバード1号」と同じことをやろうとしたVTOL機があったからだ。

つまり、機体は地上では垂直姿勢になっていて、機首が上を向いている。その状態で垂直に離陸して、その後で水平飛行に遷移する。着陸の際には、また垂直姿勢に遷移するとともに空中で停止して、推力や姿勢を調整しながら地面に向かって降りてくる。

尾部(テイル)を下にした姿勢で離着陸するので、これをテイルシッターという。

推力線の方向を変えようとすれば、相応に複雑なメカが必要になる。かといって、垂直離着陸用に専用のファンやエンジンを組み込めば、水平飛行中には使用しないメカのために場所と重量を必要とするのは、前回に解説した通り。

それだったら、機体ごと向きを変えてしまっても同じじゃない? そうすれば、推力偏向のメカも、垂直離着陸の時だけ使うファンやエンジンも要らないし、シンプルで合理的ではないか? と思ったのか、実際にテイルシッターを試作した事例がいくつかある。

例えば、アメリカ海軍はロッキード社(当時)にXFV-1を、コンベア社(当時)にXFY-1を、それぞれ発注して試作させた。1950年代初頭のことである。ちなみにこの2社、紆余曲折を経て、今は同じロッキード・マーティン社になってしまっている。と、閑話休題。

XFV-1は直線翼とX型の尾翼の組み合わせ、XFY-1はデルタ翼と縦方向の尾翼の組み合わせ、と空力的には違いがあるのだが、飛び方は基本的に同じ。機首を上に向けた姿勢で垂直に離着陸して、水平飛行に、あるいは水平飛行から遷移する。

アメリカ海軍が企図したのは、駆逐艦や輸送船などの狭い甲板から発着できる艦上戦闘機の実現。だから、試作機を意味する「X」の次に来る用途を示す記号は、戦闘機を意味する「F」である。(その次の3文字目はメーカーごとに異なる識別用の文字)

XFY-1もXFV-1も、アリソン社製YT40ターボプロップ・エンジンを使っており、機首に取り付けた二重反転プロペラで推進した。二重反転プロペラを使うのは、反トルクの影響で機体が回ってしまわないようにするためだ。

普通なら垂直尾翼に少し角度を付けたり、離着陸の際に方向舵を少し動かしたりして反トルクを打ち消す。ところが、テイルシッターが離着陸する際は前進速度がなくなるので、こういう空力的な方法では反トルクに対処できない。だから二重反転プロペラを使い、2組のプロペラで相互に反トルクを打ち消し合う設計にした。

ところが、テイルシッターにはとんでもない泣き所があった。

テイルシッターの泣き所

機体が縦向きになって離着陸するのだから、離着陸の際にはコックピットは真上を向いている。その状態でパイロットは機体の姿勢を垂直に保ちながら、推力を増して離陸させたり、推力を落としてふんわりと着陸させたりしなければならない。

特に着陸が問題で、真上を向いているのだから地面が見えない。それでどうやって地面との距離を知れというのだろうか。電波高度計で測ればよい、というわけにもいかない。やはり目で見るに越したことはない。

「サンダーバード1号」の場合、操縦席は横向きのシャフトに取り付けられた回転式だから、機体が垂直姿勢でも水平姿勢でも、操縦席は水平を向いている。これと同じことをすれば地面が見えない問題は解決できそうだが、コックピットがやたらと場所をとってしまう。

XFV-1はコックピットと計器盤を前傾させる仕組みを備えていたそうだが、やはり誰しも考えることは同じだったのだ。それでも問題を完全に解決するには至らなかった。

このほか、水平姿勢と垂直姿勢の間の遷移飛行に際して操縦が難しい、という問題もあった。遷移飛行の難しさはVTOL機について回る問題だが、特にテイルシッターの場合、機体をまるごと方向転換するのだから始末が悪い。

主翼に、急速に失速しない特性を持つデルタ翼を使用していたXFY-1の方がマシで、こちらは遷移飛行にも成功している。ところが、直線翼のXFV-1はとうとう、遷移飛行に至らないまま計画中止になってしまった。

操縦の難しさにしても遷移飛行の難しさにしても、「そんなの、始める前に分からなかったのか」と外野は無責任に考えてしまうわけだが、これもVTOL機をモノにする過程でなされた試行錯誤と、その墓標のひとつということになるのだろう。

その他の泣き所

ちなみに、XFV-1とXFY-1はターボプロップ機だから、よしんば実用化に成功したとしても、速度性能は大したものにならない。ジェット戦闘機が一般化した御時世に「戦闘機」として通用したかというと、疑問が残る。

実は、ライアンX-13バーティジェットというジェット推進のテイルシッターも試作されたが、これも開発中止になった。

National Museum of the U.S. Air Forceに設置されているライアンX-13バーティジェット 資料:U.S. Air Force

そもそも、エンジン推力が機体の重量を上回っていなければ垂直離着陸ができないのだから、テイルシッターだろうがなんだろうが、重量面の制約が厳しいというVTOL機のお約束からは逃れられない。

また、機体が尾部を下にして「立った」状態だと、機体の全長がすなわち高さである。XFV-1もXFY-1も全長は11m前後あったが、そんな背の高いブツを格納する格納庫を、どうやって艦上に用意するつもりだったのか。しかも、そんな姿勢ではエンジンの取り下ろしや整備が面倒くさそうだ。

というわけで、テイルシッターが技術的にモノになったとしても、実用的な「飛行機」あるいは「武器」としてはモノにならなかったのではないかと思われる。

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インデックス

連載目次
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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