前回、米軍のクレーン・ヘリコプター、CH-54タルヘを紹介した。胴体(?)下部に人員輸送用などのコンテナを取り付けられるように、長~い降着装置を両側面に取り付けた姿が、ますます異様な雰囲気を増幅している。と、そんな話が出たところで、今回はヘリコプターの降着装置の話を。

車輪とスキッド

ヘリコプターの降着装置に「車輪」と「スキッド」があるという話は、本連載の第27回で書いた。離着陸の際に滑走するわけではないから、接地圧が低くて構造が簡単なスキッドの方がよい、という考え方も成り立つわけだ。

ただし、スキッドだと飛行場内でのちょっとした移動が不便そうだ。いちいちエンジンをかけて機体を浮上させて、ホバータキシングしなければならないからだ。また、スキッドを取り付けているクロスチューブがへたってきたら、これは取り替えてやらなければならない。

車輪だと、タイヤという消耗品が発生するし(といっても、滑走しない分だけ減り方は少ないはずだが)、オレオ機構を組み込むこともあり、構造は複雑になる。

しかし最近の機体を見ていると、小型で安価な機体以外はたいてい、車輪を使用しているようである。地上・船上での移動のしやすさという理由もあるだろうし、機体が大きく・重くなるとクロスチューブでは支えきれなくなる理由もあると思われる。

よしんば、大重量の機体を支えられたとしても、クロスチューブが太く、重くなる上に、へたる度に交換しないといけない。それなら車輪とオレオを組み合わせる方がマシだ。

引込脚は少数派

固定翼機だと、速度が遅い軽飛行機でもなければ、普通は引込脚である。離着陸時以外は出番がない降着装置を機内に収納することで、空気抵抗を減らしている。

ところがヘリコプターは、第55回で解説したようにローター失速という問題があり、その関係で最高速度が300km/h程度、ないしはそれ以下に抑えられてしまっている。それなら、固定脚のほうがメリットがある。構造が簡素になる上に軽量化できるし、機内に降着装置の収納スペースを確保する必要がなくなるからだ。

では引込脚を使用するヘリコプターが皆無かというと、そういうわけでもない。シコルスキーのH-53シリーズは引込脚だし、同じシコルスキーの民間機・S-76も引込脚だ。それでどれだけ空気抵抗が減るんだろうかと思うが、少なくとも外見はスッキリして格好がよい。

あと、開発中止になった米陸軍の観測・攻撃ヘリコプターRAH-66コマンチという機体があったが、これはステルス化を図った関係もあって引込脚だった。ステルス機のお約束で、搭載する対戦車ミサイルも機内兵器倉に収容していたのだが、当然ながら、内部に収納するものが増えれば胴体は大きくならざるを得ない。

前輪式と尾輪式

車輪を使用するヘリコプターの降着装置は3本構成が普通だが、前輪式の派閥と尾輪式の派閥がある。前述したCH-53やS-76は前輪式で、機首の下面に1本の首脚、後方の胴体両側面に1本ずつの主脚、という構成。

一方、H-60ブラックホークの一族やAH-64アパッチみたいに、前方の胴体両側面に1本ずつの主脚、後部のテイルローター付近に1本の尾脚、という構成もある。

航空自衛隊のUH-60J救難ヘリ。尾脚はテイルブームの後ろ寄りに付いている

ただし、H-60一族のうち艦上運用を想定しているSH-60Bシーホークと、その後継機・MH-60Rオーシャンホークは、尾脚の位置を前方に移動させて、テイルブーム付け根付近に持ってきている。狭いヘリ発着甲板に降ろすことを考慮して、前後の間隔を縮めたわけだ。

面白いのは、同じ米海軍向けモデルでもMH-60Sは尾脚が後方に付いていること。ヘリ発着甲板が狭い駆逐艦やフリゲートで運用するのでなければ、陸軍や空軍の機体と仕様をそろえてコストを下げるほうが合理的、ということだろうか。

米海軍のMH-60R哨戒ヘリ。尾脚の位置がUH-60Jよりも前方に寄っている点に注意。海上自衛隊のSH-60J/Kも同じ配置

変わっているのはCH-47チヌークの一族で、前後左右の4本脚になっている。この機体は胴体後部に扉とランプを持っているので、そこから人・貨物・車両を搭載・卸下する作業を容易に行えるように、尻下がりになっている。

航空自衛隊のCH-47輸送ヘリ。珍しい4本脚

雪上・水上ではどうするか

なお、ヘリコプターは雪上、あるいは水上に降りることもある。かつて海上自衛隊や米海軍で使っていた対潜ヘリのSH-3(HSS-2)は胴体の下半分が舟形になっていて、いかにも水上に降りられます! という風体をしていた。

そこまでしなくても、水密構造になっていれば着水はできる。水密構造になっていない機体でも、着水してしばらくの間だけ浮いていてくれれば、不時着水したときに、乗員・乗客を避難させる時間を稼ぐことができる。

一方、雪上に降りる場合はどうするか。スキッドにしろ車輪にしろ設置面積が小さすぎて、柔らかい雪の上に降りたらズブズブと沈んでしまう。そこで、スキー(のような形をした板)を降着装置に追加設置する。こうすると接地圧が減るので、雪上に降りても沈まない(はず)というわけ。

ただ、メインローターのダウンウォッシュだけはどうにもならないから、離着陸の際には盛大に雪を舞い上がらせてしまう。