「計器」と言うと、真っ先に連想されるのは「針がくるくる回るメーター」ではないかと思われる。確かにその通りだが、実はその計器の表示方法1つとっても、いろいろと注意しなければならないポイントがある。

3針式高度計の落とし穴

特に問題になったのが高度計だ。

昔の高度計は3針式といって、100フィート、1000フィート、1万フィートの針が、同じ文字盤の上を回転する形になっていた。アナログ式の時計を想像していただければ理解しやすいが、時計は12進法なのに対して計器は当然ながら10進法である。

それの何が問題か。計器を速読した時に誤読する可能性が指摘されたのだ。例えば、8,580フィートを指していた時に、それぞれの針は以下のような位置になる。

  • 100フィート針 : 「5」と「6」の間、「6」に近いところ
  • 1000フィート針 : 「8」と「9」の中間ぐらい
  • 1万フィート針 : 「0」と「1」の間、中間より「9」に近いところ

じっと見ていれば誤読する可能性は低くなるかもしれないが、パッと見た時に、1万フィート針は特に位置を見間違える可能性がある。100フィートで1周する100フィート針と比べると、動きが小さいからだ。

アナログ式の時計でも、パッと見た時に「時」の値を1時間読み間違えた、という経験がある方がいらっしゃるかもしれない。それと同じである。

実際、高度計の誤読に起因する事故が起きたこともあって、3針式は廃れて1針式に変わった。この場合、計器盤の中に回転ドラム式の数値表示部があり、1000フィート以上の数字はそこに出す。

例えば「6,580フィート」なら、数値表示が「6」、回転する針の目盛りは一周1000フィートで「5」と「6」の間、「6」に近いところを指すわけだ。これが「2万2500フィート」なら、数値表示が「22」、針は「5」を指す。

高度計の場合、表示すべき数字の幅が広く、0~4万ぐらいに及ぶ。これを1つの針と目盛りで済ませようとすると、高度が低い時は動きが小さすぎて正確な数字を読み取れない。そこで3針式が考え出されたわけだが、それはそれで別の問題を抱えていたことになる。

それと比べると、速度計の数値範囲は狭い。超音速機でなければ0~600ktぐらいの範囲があれば用は足りる。だから、針が1つだけあれば済みそうではある。

回転するか、伸縮するか

計器にはもう1つ、表示方法を巡る議論がある。

ポピュラーな形態は、前述した針が回転するタイプだが、それとは別に、ゲージが伸縮する直線型の計器もある。クルマの速度計で、針が回転するタイプに加えてバーが伸び縮みするタイプのデジタルメーターもあるが、それと同じ違いだと言える。

バーが伸び縮みするほうが、動きを直感的に把握するには具合がいい。しかし、表示可能な数値の範囲が広いと対応が難しくなるのは1針式の計器と同じ。だから、カバーすべき数値の範囲が広い気圧高度計を直線型にすることはなさそうだが、地表に接近した時だけ出番がある電波高度計は話が違う。また、エンジン関連計器でも意外と使用例がある。

多発機の場合、同じ機能を持つ計器をエンジンごとに用意する。例えば、4発のジェット機なら、排気温度計が1番エンジンから4番エンジンまで4個、横一線に並ぶ。こうすると、特定の項目についてすべてのエンジンの数値がそろっているかどうかを、容易に把握できる。

そして回転式計器の場合、「針の向き」で判断することになる。対する直線型計器の場合、ゲージがどこまで伸びているかで判断することになる。

若い読者の方は御存じないかもしれないが、テープデッキで録音レベルを手動調整する際の参考にするため、レベルメーターというものが付いていた。これも針が動くタイプと、電子化したバーグラフタイプがあった。エンジン計器の話は、それと似ていなくもない。

縦方向の直線型計器を多用した機体の一例、B-1Bランサー爆撃機。中央に並んだ縦型計器の群れがエンジン関連で、エンジン出力レベル、ファン回転数、エンジン温度、コア回転数、燃料流量、油量、油圧などを表示する。さすがに方位計や高度計は回転式だ Photo:DoD

数値だけで表示すればよいのでは?

クルマにデジタルメーターがあるのと同様、「飛行機の計器も数値で表示してしまえばいいのではないか?」という考えが出てくるかもしれない。

しかし、数字を精確に読み取ることが重要な方位計ならまだしも、エンジン関連の計器や昇降計は、数字もさることながら、トレンド、つまり針の動きを読むことが重要になる。すると、アナログ計器のほうが具合がよろしい。「針がバーッと振れているのか、ゆっくり振れているのか」「針がどの辺まで振れているのか」が重要になるからだ。

それ以外の計器でも程度の差はあれ、似たような事情がある。だから、回転式か直線型かという違いはあるものの、アナログ的に動く表示が主流になっている。

クルマの計器盤も、ひところほどデジタルメーターは流行していないし、鉄道車両もしかり。一時はデジタル表示が出てきたが、結局はアナログ表示に回帰した。

計器の配置

機種によって細かいところはいろいろと違いがあるが、大ざっぱな基本配置は、一応は決まっている。ポピュラーなのがいわゆる「T型配置」で、パイロット正面中央上部に姿勢計、その下に方位計、左側に速度計、右側に高度計・昇降計といった並びになる。

大抵の旅客機や、上に写真を示した爆撃機みたいに、正副操縦士が横並びに乗る並列複座機なら、正副操縦士にそれぞれT型配置の計器が並び、両者の中間にエンジン関連の計器を置く。エンジン計器は正副操縦士が共用することになる。

しかし、戦闘機みたいに1人しか乗っていない機体だと、話が変わることもある。航空自衛隊で使っていたT-2練習機では、正面に姿勢計と方位計が横並び、左側に高度計や速度計や昇降計が、右側にエンジン計器が並ぶ。T-2は双発だから、エンジン計器は2個ずつある。

そのT-2は今でも、航空自衛隊の浜松広報館に展示品があり、コックピットも含めて現物を見ることができる。すでに引退した機体とはいえ、戦闘機のコックピットを生で見られる機会は、日本では比較的貴重だ。

このように細かい違いはあるものの、基本的な配置ぐらいはできるだけそろえておかないと、パイロットが混乱する。いろいろな機種を取っ換え引っ換えしながら乗ることもあるし、ある機種から別の機種に転換することもあるから、その度にすべて御破算で覚え直すのは大変だ。だから「T型配置」という原則がある。

アナログ計器を主体にしたコックピットの例。これは米空軍の救難ヘリコプター・HH-60Gペイブホークのもの。中央やや右寄りに縦に並んでいるのが姿勢計と方位計で、その左側は上から順に高度計と昇降計。昇降計の左に、バーグラフ式のエンジン回転計とトルク計がある。姿勢計の右隣にあるのは速度計