降着装置に続いて、飛行機に乗った時にもっとも身近な場所である「客室」の話に移ろう。空港に行って旅客機に乗ったからといって、降着装置を間近に眺める機会は多くなくて、いわゆる沖止め、あるいは地方の小さな空港を利用する場合に限られる。しかし客室なら話は別だ。

ないほうが楽だがなくせない

最初のお題を何にしようかと思案した結果、「窓」にした。新幹線と比べると、飛行機の「窓側席」は引き当てられる可能性が少ない。しかし、近年ではデジタルカメラの利用制限が緩和されたこともあり、意図的に窓側を狙って乗る人が増えているかもしれない。

実は構造設計の観点からすると、窓はないほうがありがたい。窓を設けるということは胴体部分に開口部を設けるということだから、必然的に強度上のネックができる。しかも1つではなく数が多いのだから、なおさらだ。

だから、軍用輸送機は操縦席以外のところに窓がないのが普通だ。「我慢しろ」というわけである。しかし、旅客機だとそうもいかないので、窓を設けている。ただし前述したような事情により、構造屋の立場からすれば、許容される範囲で小さいサイズにするほうがありがたい。

筆者は乗ったことも間近で見たこともないが、超音速旅客機「コンコルド」の窓はハガキぐらいのサイズしかなかったと聞く。超音速飛行で空力加熱にさらされるコンコルドの胴体は、通常の旅客機以上に丈夫に作らなければならない。だから、そのしわ寄せを受けて窓のサイズが小さくなってしまったわけだ。

そういえば新幹線電車も、最近のN700系・E5系・E6系・E7/W7系辺りになると、以前と比べて窓が小さい。これもまた、軽さと強度を両立させるために窓のサイズが影響を受けた一例だ。と、それはそれとして。

炭素繊維複合材を駆使して軽くて丈夫な機体構造を実現できたからなのか、ボーイング787の窓は従来より大きくなったという。窓を大きくしてほしい乗客の立場と、軽く丈夫に造りたい構造屋の立場の妥協点が、素材・製作面の進歩によって乗客寄りにずれたわけだ。

窓の構造

前置きが長くなったが、その窓周りは具体的にどんな構造になっているのだろうか。

まず外板に開口部があり、その内側は開口部の周囲に骨組みを入れて補強してある。窓の四隅が丸みを帯びているのは、角張っていると応力が集中してしまうからだ。丸みを持たせるほうが負荷が分散されて、強度上は楽になる。これは飛行機に限った話ではない。

そこに内側から窓ガラスをはめ込んで、クリップと呼ばれる金具で固定してある。窓ガラスといってもガラス製とは限らず、アクリルやポリカーボネートといった樹脂を使っていることもあるが、ここではひっくるめてガラスと書くことにしよう。

そのガラスは二重構造になっている。機内は与圧してあるから、機体の内外に圧力差が生じる。その圧力差に耐えられるだけの強度が必要だ。一枚でも圧力差に耐えられるようになっているが、念を入れて二重構造になっている。

ガラスのサイズは開口部のサイズより大きく、それを機体の内側から取り付けている。これはもちろん、中から外に向かう圧力を受け止めやすくするためである。外からはめ込むほうが、取り付け部の強度の面からするとつらい。

実は、その二重ガラスの内側にもう1枚、保護層がある。機内から接することができるのは、この保護層の部分だ。ここは機体内外の圧力差や温度差に直接さらされるわけではない。そして、保護層の両側で圧力差が発生しないように、通気用の小穴が開いている。

その保護層の部分を手で押すと微妙にへこむし、おまけに小穴まで開いている。だから「こんなので大丈夫なの?」と心配になるかもしれないが、心配御無用。本当に機体内外の圧力差・温度差に対処しているのは、その外側の二重ガラスだ。

ボーイング777の窓をアップで撮影。ちょうど中央の辺りに小穴が開いているが、これは最も内側にある保護層に開けられた圧力調整用の小穴。その外側に二重窓があり、機体の内外を仕切るとともに圧力を受け止めているのは、そちらだ

コックピットの窓

機体側面の窓は、機体内外の圧力差や温度差に対応できればよい。ところが、機体の前面に付いているコックピットの窓は話が違う。正面から雨や氷や鳥などがぶつかってくる可能性があるから、それに耐えられるだけの強度が必要だ。

ボーイング747の場合、最前部(最も機体中心線に近い位置)の2枚は、強化ガラスを3枚重ねにして、さらにその間に亀裂が広がるのを防ぐための中間層を入れている。要するにクルマでいうところの合わせガラスである。前から数えて2番目と3番目の窓はそれほど厳重ではなく、2枚重ねのアクリル樹脂の間に中間層を挟んでいる。

側窓は内側から取り付けてクリップで固定しているが、コックピットの窓は外側から取り付けてネジで固定していることが多い。そのネジのサイズを間違えて、規定より細いものを使ってしまったせいで、離陸上昇中に窓ガラスが吹っ飛ぶ事故が起きた事例がある。機体の内側から外側に向けて圧力がかかっているのだから、ちゃんと固定しないとそういうことになる。

MRJのコックピットは左右に2枚ずつの窓があり、いずれも外側からネジで固定している

また、コックピットの窓は曇り止めのために電熱皮膜を挟んでいる。電気を流すと発熱する皮膜で、透明なので外を見るのに不便はない。また、コックピットの窓にはワイパーやウィンドウォッシャーが付いているが、これも客室の窓と違うところ。

ただし、これは民航機や軍用輸送機の話で、戦闘機になると話が違う。戦闘機だとワイパーもウィンドシールドも付いていない。ただし機種によっては、圧縮空気を噴出させて雨粒を吹き飛ばせるようにしたものもあるようだ。

戦闘機のキャノピー

戦闘機の場合、一般的に「キャノピー」と呼ばれているが、正確にいうと2つの部分に分かれている。つまり、前面にある固定式の「風防」(ウィンドシールド)と、その後部にある開閉式の「キャノピー」の組み合わせになっていることが多い。

F-2戦闘機の場合、固定式の「風防」(写真では左側)と、開閉する「キャノピー」(写真では右側)に分かれている。ベースになったF-16のほうはワンピース型

ところが、F-16やF-22やF-35みたいに一体式(ワンピース型)になっているものもある。枠があると視界を妨げるが、枠がないワンピース型なら視界を妨げない。

F-16のワンピース型キャノピーを例にとると、当初は3/8in(9.53mm)の厚みを持つポリカーボネート樹脂で造られた。ところが量産型では、バードストライク時の安全性を考慮して、キャノピーの厚みを倍増して3/4in(19.05mm)とした。鳥がキャノピーにぶつかった時に内側に膨らむ形で変形してしまい、それがパイロットの頭を直撃して脳震盪を起こすという指摘があったためだ。

そのF-16や、EA-6Bプラウラー電子戦機など、キャノピーが色付きになっている機体がある。日よけのために色をつけている……のではなく、レーダー電波の反射を抑制するためだったり、自機が発する強力な電波から搭乗員や電子機器を守るためだったりする。F-16やF-35の場合は前者、EA-6Bの場合は後者だ。

ただ、電磁波をシールドするために金属板を張り巡らせてしまったのでは外が見えなくなってしまうので、金属素材を蒸着させる方法をとっている。EA-6Bのキャノピーが金色に見えるのは、金を蒸着させているためであるらしい。妙なところでおカネがかかっているものである。