ここでいう「艦上機」とは、航空母艦から発着する前提で作られた飛行機のことである。その中でも特に、CTOL(Conventional Take-Off and Landing)空母、つまり米海軍の大型空母みたいに「カタパルト発艦・着艦拘束」を使用する機体を対象とする。

ローンチ・バー

英語のつづりは「launch bar」で、ランチバーと書かれることもある。もちろん、ランチ(昼食)ともサラダバーとも関係ない。

空母のカタパルトは、水蒸気で動かすピストンに「シャトル」と呼ばれる金具を付けた構造になっている。カタパルトで射出する機体は、そのシャトルに引っかける形で引っ張られる。では、どの部分を引っかけるのか?

昔は機体の下面に鉤が2カ所ついていて、それとシャトルを結ぶ形でV字型に、ブライドルと呼ばれるケーブルを張り渡していた。ブライドルの両端は輪っかになっていて、それを機体側の鉤に引っかける仕組みだ。

ところがこの方法だと、機体をカタパルトにセットする度にブライドルを張り渡さなければならないし、射出したらブライドルは海中に落下してしまうから使い捨てだ。そこでブライドルを引っかけて回収するために、艦首にブライドル・リトリーバー(ラブラドル・リトリーバーではない)と呼ばれる角を突出させた。

もっと効率的な方法が使えないかということで考案されたのが、ローンチ・バーだ。首脚の前側に、上下に首を振るバーを取り付けるものだ。そのバーを下げて、カタパルトのシャトルに引っかける。そしてシャトルを水蒸気の圧力で走らせると、機体がそれに引っ張られて射出される。

米空母「ロナルド・レーガン」のC13-1カタパルト。右端にある金具がローンチ・バーをひっかけるシャトルで、これが右手に向けて突っ走る

F/A-18Eスーパーホーネットの首脚。ローンチ・バーは上に跳ね上がった状態(右手が機首方向)

カタパルトにセットされ、まさに発艦せんとするF-35C。ローンチ・バーがシャトルと噛み合った様子が見て取れる Photo:US Navy

首脚と主脚に求められる頑丈さ

と、これだけで済めば簡単だが、よく考えてみてほしい。首脚の脚柱に取り付けたローンチ・バーをスチーム・カタパルトのシャトルにひっかけて機体を引っ張るのだ。ということは、時には30トンを超える機体を引っ張って200km/h以上まで加速させるだけの力が、脚柱と、それを機体構造部に取り付ける部分にモロにかかってくるということである。

だから艦上機の首脚は、脚柱も、それを機体構造材に取り付ける部分も、カタパルト発艦の際にかかる荷重に耐えられるように、頑丈に作っておかなければならない。米軍基地などの一般公開で見比べる機会があったら、艦上機のF/A-18ホーネットと、陸上機のF-15イーグルの首脚を見比べてみてほしい。前者のほうが明らかに太く、頑丈に作られているのがわかる。

その首脚に加えて、主脚にも大きな負荷がかかるのが艦上機だ。冒頭でも触れたように、空母に降りる時は着艦拘束というプロセスがある。これは、着艦用のスペースに横向きに張り渡したワイヤーに、機体の尾部に取り付けた着艦拘束フック(テイルフックともいう)を引っかけて、強引に行き脚を止めるもの。

その際に、機体は半ば飛行甲板にたたき付けられるようにして降ろされる。だから空母への着艦のことを「制御された墜落(controlled crash)」というのは、よく知られている通り。映画『ファイナル・カウントダウン』や『トップガン』などで御覧になった方は多いだろう。

ということは、首脚にしろ主脚にしろ、その飛行甲板にたたき付けられる衝撃に耐えられるように作っておかなければならない。単に丈夫に作るだけでなく、衝撃をしっかり吸収できるように、容量が大きく、ストロークが長いオレオ機構が必要になる。

本連載の第29回で、F/A-18Eスーパーホーネットの主脚の写真を載せた。脚柱の途中にヒンジを設けて折れ曲がるようにして、その後方に独立したオレオを用意することで、長いストロークと大きな衝撃吸収能力を実現している。もちろん、これを機体構造部に取り付ける部分も、相応に頑丈に作っておかなければならない。

ちなみに、F/A-18ホーネットにはF-18Lという陸上型の構想があり、実現したと時はもっと簡素で軽い主脚に変える計画だった。空母に降りるのでなければ、こんなに物々しくて重い主脚はいらないからだ。ところがF-18Lには買い手がつかず、空母を持っていない国もみんな艦上型を買ってしまった。既存の機体のほうが安上がりで低リスクという理由だ。

降着装置の話ではないが、先に話が出た着艦拘束フック。これを着艦拘束装置のワイヤーにひっかけて行き脚を止めるわけだから、ひっかけた瞬間に大きな衝撃と荷重がかかる。だからフックそのものも、フックを機体構造部に取り付ける部分も、頑丈に作っておかなければならない。

さもないと、フックがワイヤーをひっかけた瞬間に、フックが壊れるか、フックが機体からちぎれ飛ぶか、機体構造が引き裂かれるか、ということになる。

F/A-18Eの着艦拘束フック。フック自身も、それを機体に取り付ける部分も、みるからに頑丈そうである

カタパルトを巡る余談

飛行機の話ではないが、カタパルトに関する余談を1つ。

前述したようにカタパルトの動力は水蒸気だが、その供給元は艦の航行用エンジンである。だから、通常動力だろうが原子力だろうが、スチーム・カタパルトを備える空母は蒸気タービン機関を使用する必要がある。そうしないと水蒸気の供給元として別途、ボイラーを用意しなければならなくなる。

シャトルがシリンダの上部に突き出ていて、それが前後に走るわけだから、シリンダ上面にはシャトルが通るための隙間がいる。しかし、隙間が空いていたら密封が保てない。そこで金属板で左右からふたをしておいて、シャトルはそれを押しのけながら走るようになっている。

そういう構造だから、必然的にスチーム・カタパルトを作動させれば水蒸気がいくらか漏れる。映画『トップガン』のオープニングを思い出してみていただきたい(見たことがない方は、動画検索サイトで探してみよう)。飛行甲板に、スチーム・カタパルトから漏れた水蒸気が漂って、それがいい雰囲気を出している。

ところが米海軍では現在、リニアモーターを使用する電磁カタパルト、すなわちEMALS (Electromagnetic Aircraft Launch System)の開発を進めており、もうすぐ就役する空母「ジェラルド・R・フォード」から、これを装備する。

あと100年ぐらい経つと、「スチーム・カタパルトから漏れる蒸気」は過去の風景になってしまいそうだ。その頃まで今と同じ形態の「空母」が存在していれば、の話だが。