まず、前回の記事についてお断りを。F-35Bが垂直離陸を「できない」と書いたが、これは厳密には、現実的にはできないという意味だ。燃料やつるしものをめいっぱい減らして、エンジンとリフトファンが発揮する垂直方向の推力よりも機体を軽くすれば、理屈の上では垂直離陸できる。しかしそれでは実用的な意味で使い物にならないので、実運用では短距離滑走離陸を使うわけだ。

さて。過去5回にわたってエンジンのメカニズムについて書いてきたが、エンジンが推進力を生み出しても、それを機体に伝達できなければ、飛行機は前に進まない。そこで今回は、エンジンを機体に搭載する際の配置と架装方法に関するあれこれをまとめてみよう。

エンジンの数と配置

これまで、なにげなく書いてきたことがあったかもしれないが、飛行機が搭載するエンジンの数は「○発」という表記をする。○の部分は数字……とは限らなくて、以下のようになる。

  • 1基 : 単発
  • 2基 : 双発
  • 3基 : 三発
  • 4基 : 四発

5基以上はすべて数字である。そんなにたくさんのエンジンを積んだ飛行機があるのか、と言われそうだが、今でも現役の(そして2040年頃まで飛び続ける予定の)B-52爆撃機は8発だし、その昔にはドルニエDo X飛行艇という12発機(!)があった。大馬力のエンジンがないのに、機体を大型化しようとすると、所要出力が大きくなるので、結果的にエンジンをいっぱい搭載することになる。

閑話休題。エンジンの数が奇数なら、そのうち1基は必ず胴体の機体中心線上に配置する。そうしないと左右の推進力がアンバランスになってしまう。エンジンの数が偶数なら、左右対称に配置する。

数が増えると胴体内、あるいは胴体周辺だけでは場所が足りなくなるので、主翼にエンジンを取り付ける事例が増える。とはいえ、何事にも例外は発生するものだ。

胴体内にエンジンを1基配置したF-16ファイティングファルコン Photo:USAF

胴体内にエンジンを2基並列配置したF-15イーグル Photo:USAF

主翼下面に1基ずつ、垂直尾翼の基部に1基のエンジンを配置したMD-11旅客機(写真は貨物型)

主翼の前縁部にエンジンを左右1基ずつ配置したC-12(民間型はキングエアという)

主翼の付け根部分にエンジンを左右1基ずつ内蔵したツポレフTu-16バジャー爆撃機(奥の機体)。手前はバジャーにスクランブルをかけたF-4ファントム戦闘機 Photo:USAF

主翼下面にエンジンを4基配置したボーイング747旅客機

胴体後部両側面にエンジンを2基ずつ配置した、ロッキードC-140ジェットスター。イギリスのBAC VC-10や、ソ連のイリューシンIl-62も同様の配置。ビジネスジェットだと、同じ位置で双発というパターンが多い Photo:USAF

主翼下面にエンジンを8基配置したB-52H爆撃機 Photo:USAF

発動機架とパイロン

どういう配置であれ、エンジンと機体構造材を結合しなければ、エンジンが発生した推進力が機体に伝わらないのは、冒頭でも書いた通り。そこで、エンジンを搭載する部分には「発動機架」と呼ばれる部材があり、それがエンジンと機体構造材を結ぶ役目を負っている。

例えば、零式艦上戦闘機(に限らず、昔の単発レシプロ戦闘機はみんなそうだが)は胴体の前面左右から発動機架が突き出ていて、そこにエンジンを取り付ける。その外側をカウリングと呼ばれる覆いで囲うと、あの形になる。つまり、カウリングは機体構造に含まれず、その後ろからが胴体なのだ。

ただし、胴体内部にエンジンを収容する当節のジェット戦闘機では、エンジンを取り巻くように機体構造材があるから、それとエンジンを直接つなぐことになると考えられる。他に方法はないし。

主翼下面にエンジンをつる構造の場合、パイロンと呼ばれる張り出しが主翼の下面についていて、その中に発動機架が納まっている。そして、パイロン下面に設けたピンでエンジンと発動機架を連結する構造になっている。

ところが、大型の機体ならいいのだが、小型の機体になると、主翼の下面にエンジンをつるのは難しくなる。機体が小型になれば、それだけ主翼の位置も低くなるのが普通だからだ。

物理的なスペースの有無という問題もあるし、エンジンが地面に近接しすぎるとFOD(第15回を参照)の危険性が増える。小型のビジネスジェット機が大抵、後部胴体の側面にエンジンを取り付けているのは、おそらくそういう理由による。

だから、昔ならVFW614、近年ならホンダジェットみたいに、主翼上面にエンジンを搭載するという変わり種も出現する。

といったところで、ボーイング737を正面から撮影した写真を。

正面から見たボーイング737。エンジンを覆うナセルが真円形ではなく、下が少し平らになった妙な形状をしている

エンジンを覆うナセルが真円ではないのが、ボーイング737の特徴だ。初期型はエンジンの外径が小さかったので、パイロンをギリギリまで短くしてエンジンを主翼に近接させることで、エンジンと地面の間の空間を確保していた。

ところが、エンジンをCFM56シリーズに代えた737-300シリーズ以降、エンジンの外径が大きくなったため、こんな形になってしまった。しかも、エンジンの上縁部はほとんど主翼とくっついており、パイロンがあるのかないのかよく分からない。横から見ると、ちゃんとあるのだが。

737よりエンジンが小径なので、ナセルの形を歪ませるようなことにはなっていないが、MRJやエンブラエル170もやはり、エンジンの取り付け位置をギリギリまで持ち上げて、地面との間の空間を確保するようにしている。MRJのエンジンと支持用パイロンを横から見た写真は本連載の第20回に載っているので、そちらも御覧いただければと思う。

ちなみに、プロペラを使用する機体だと、プロペラが回転できるだけの空間は絶対に確保しなければならないので、必然的にエンジンの装備位置(正確にいうとプロペラ回転軸の高さ)は、プロペラの半径より高い位置になる。だから、プロペラを使用する低翼配置の多発機を実現しようとすれば、脚が長くなる事態は避けられない。