本連載の第14回で、ジェット・エンジン(ターボジェット、ターボファン、ターボプロップ、ターボシャフトのすべてを含める)の基本的な構造について解説した。今回は、その中身について、もう少し立ち入ってみる。

LPとHP

LPといってもレコード盤の話ではない。

ジェット・エンジンの空気圧縮機は、1回の圧縮で一気に必要の温度と圧力まで持っていくのではなく、複数の圧縮機を重ねて段階的に圧縮する方法をとっている場合が大半を占める。

もちろん、最初は低圧で、その後に高圧で、という流れになる。低圧はLP(Low Pressure)、高圧はHP(High Pressure)だ。時には2段階ではなく3段階にして、間に中圧(IP : Intermediate Pressure)が入ることもある。もちろん、段数が少ないほうが小さく、軽く、部品点数が少なくなるが、十分な圧縮を実現することのほうが優先される。

そして、燃焼室で燃料を吹き込んで燃焼ガスを発生させた後にはタービンが陣取るが、こちらは燃焼室から近い順に圧力が下がる。まず高圧(HP)タービンがあり、その後に低圧(LP)タービンがある。間に中圧(IP)タービンが入ることがあるのも同じだ。

そして圧縮機もタービンも、低圧側は径が大きく、高圧側は径が小さい。

さて。構造を簡単にしたければ、圧縮機とタービンを構成するすべての羽根(ブレード)を同じ軸に取り付けて、同じ回転数で回せばよい。厳密に言うと、羽根が軸に直接取り付いているわけではなくて、羽根を取り付けた円盤(ディスク)を軸に取り付けていることもあるが、それはそれとして。

実のところ、1軸(1スプール)で済ませようとすると、高圧側も低圧側も最適な回転数で回せず、妥協の産物みたいな回転数になってしまう。高圧側は速く回したいが、低圧側はゆっくり回したい。といっても、同じ軸につながっていたのでは無理な相談である。

特に低圧側の羽根は径が大きくなるし、バイパス比が高いターボファン・エンジンならなおさらだ。そこで回転数を高くしすぎると、羽根の先端の周速度が音速を超えてしまう。

2スプールと3スプール

そこで考え出されたのが、内外二重の軸を用意する方法。内側の軸は低圧タービンと低圧圧縮機を結ぶ。外側の中空軸は高圧タービンと高圧圧縮機を結ぶ。これを2スプールという。

1スプールの場合、すべての圧縮機とタービンが同一回転数になる

2スプールの場合、低圧側と高圧側が別の軸になるので、それぞれ回転数を変えられる

こうすると、低圧側の軸と高圧側の軸は独立するから、それぞれを最適な回転数で回すことができる。ただし、軸の中に別の軸が入って、しかも高速で回転するので、軸受や潤滑系の設計は面倒になる。

さらに念を入れると、軸を3重にする、いわゆる3スプールになる。外側の中空軸は低圧タービンと低圧圧縮機、中間の中空軸は中圧タービンと中圧圧縮機、中心の軸は高圧タービンと高圧圧縮機、という組み合わせになる。

2スプールと比べると、もちろん3スプールのほうが構造が複雑になって面倒だが、低圧段・中圧段・高圧段をそれぞれ最適な回転数で回すことはできる。ロールス・ロイス社がこの方式にこだわりを持っているようで、旅客機用のRB211ターボファンも、その後継のトレントも、3スプールの構成をとっている。また、ロールス・ロイス社が参画した国際共同開発案件、パナビア・トーネード戦闘機用のRB199エンジンも3スプールである。

MRJはギア駆動式

さて。1スプールよりも2スプール、2スプールよりも3スプールのほうが、より最適な回転数をとりやすいという話だが、旅客機で一般化した高バイパス比のターボファン・エンジンでは、バイパス比が上昇の一途をたどっており、それに合わせてファンも大径化が進んでいる。

ファンは最前列に取り付けるものだから、2スプールでも3スプールでも、低圧タービンで回すことになる。その大径化したファンを最適な速度で回してやろうとして、独自のアプローチをとってきたのがプラット&ホイットニー(P&W)社である。

普通、2スプールでも3スプールでも、羽根(を植え付けたディスク)と軸は直結している。ところが、P&Wはそこに減速ギアを組み込んで、低圧タービンよりもファンをゆっくり回そうと考えた。これがGTF(Geared Turbo Fanである。

ファンのことだけ考えて回転数を落とすと、圧縮機の圧縮能力に影響が出てしまう。逆にすれば、今度はファンの回転数が上がりすぎる。そこで、両者とも最適な回転数で回そうとすれば、「速く回す圧縮機」と「それを減速してゆっくり回すファン」とするのは自明の理。

ところが、口でいうだけなら簡単だが、実現するのは簡単ではない。減速ギアはエンジン内部を通過する空気の流れを乱さないような位置に、できるだけコンパクトに組み込まなければならない。そこでP&WのGTFでは、軸の先端部に遊星歯車機構を使った減速装置を組み込んだ。

また、必然的に部品点数が増えるからコストアップの要因になり得るし、整備の手間も増える可能性がある。ギアボックスの信頼性を十分に確保しないと、いくら燃費が良くて高性能でも、カスタマーが採用に2の足を踏んでしまう。ジェット・エンジンのタービンは回転数が高いから、それに耐えられなければ仕事にならない。

そのため、GTFの開発には結構な時間がかかったのだが、その産みの苦しみを経て世に出たのが、P&W社の「PurePower」シリーズというわけだ。三菱MRJが装備するのは、そのPurePowerシリーズのうちPW1200Gだが、これ以外にも複数のモデルがあり、それぞれファン直径や推力などの諸元が異なる。

三菱MRJのPW1200Gエンジン。見た目は他のターボファンと似ているが、ファンがギア駆動になっているのが特徴

この「大きな羽根はゆっくり回せ」の法則は、飛行機のさまざまな場面で出てくる。動画投稿サイトでツポレフTu-95ベア爆撃機が飛んでいる場面を探してみよう。大きな二重反転プロペラが、「えっ」と驚くぐらいゆっくり回っている。