【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

7 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]

井上孝司  [2016/02/29]

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前回は、アルミ合金と、航空機で用いられる複合材の代表格である炭素繊維強化樹脂(CFRP : Carbon Fiber Reinforced Plastic)で話が終わってしまったので、今回はその他の素材の話をしてみよう。

スチール

要するに鉄である。軽く造ることを考えるとうれしくないので、アルミ合金で問題がないのであればアルミ合金を使用するのだが、どうしてもスチールにしなければならない場面もある。

まず、特に高い強度と信頼性が求められる場面として、可変後退翼を備えた機体の翼胴結合部が挙げられる。可変後退翼でなければ、主翼を横断する桁を胴体側の縦通材やフレームと強固に結合できるが、可変後退翼を使用していると、主翼を動かすためのピポット機構が必要になる。

そこでどういうことになるかというと、胴体の構造材と結合する形で左右に横切るキャリースルーを用意して、その両端に穴を開けてピンを通す方法で主翼を取り付ける。そのピンを回転軸にして主翼が角度を変える。

つまり、可変後退翼を備えた機体では通常よりも狭いエリアに荷重が集中するので、軽く造ることよりも強度を優先してスチールを使うことが多い。例えばMiG-23がそうだし、F-111アードバークもそうだ。もっともこれは、チタンの加工技術が確立できていなかったので堅実にスチールにした、という事情もある。今ならチタンでできるかもしれないが、今度は可変後退翼機の需要がなくなってしまった。

可変後退翼機のF-111。主翼はスチール製キャリースルーの両端に設けられたピボットに取り付いている 写真:USAF

閑話休題。実はもう1つ、スチールを使用する場面がある。それは、スピードが速い飛行機だ。飛行機が大気中を高速で飛ぶと、機体の温度が上昇する。マッハ2ぐらいまでならアルミ合金でも耐えられるが、マッハ3になるとさらに温度が上がり、アルミ合金では耐えられない。

ということで、スチールの出番となる。高速化と引き替えにスチールを使う羽目になった機体として有名なのは、函館空港に強行着陸したことでおなじみ、MiG-25フォックスバットだろう。機体の主要な部分をステンレス・スチールの溶接構造で組み上げている。

もう1つは試作に終わった機体だが、XB-70バルキリー爆撃機がそれだ。こちらもステンレス・スチールだが、ただのスチールではなく、ステンレス・スチールの薄板で形作ったハニカム構造(蜂の巣みたいな形をしているので、こういう)をステンレス・スチールの外板でサンドイッチした構造だった。

2機の試作で終わってしまったXB-70バルキリー。この、翼端部を下に畳んだ姿がいちばん格好いいと思う 写真:USAF

こんな、他所ではやったことがなさそうな構造の機体を造ることになったので、メーカーのノースアメリカン社はだいぶ苦労させられることになった。それでいてXB-70は2機を試作しただけで終わってしまったのだから踏んだり蹴ったりだが、後でアポロ宇宙船の司令船を製作した時、ステンレス・スチールのハニカム構造で造ったそうである。

なお、MiG-25はXB-70を仮想敵として開発された機体だから、この両者は素材だけでなく生い立ちでも縁があることになる。

チタン

マッハ3級の飛行機がもう1つあるが、こちらはスチールを使わなかった。それがロッキードSR-71ブラックバードで、こちらはチタンを機体構造材に使用した。軽くて丈夫でいいことずくめのように見えるが、不慣れな素材だっただけに、加工や品質管理の面でかなり苦労させられたという。

例えば、素材を水道水で洗浄していたら、水道水に添加してある塩素のせいでダメになってしまい、蒸留水に切り替える羽目になった、なんていう話が伝えられている。

また、どちらかというと柔らかめのチタンを使うことで加工性をよくしようとしたのだが、そうすると耐熱性の面で問題が出てくる。そこで機体外板を黒く塗ることで放熱効果を持たせて、機体構造材に対する熱の負担を軽減する工夫をしたのだそうだ。別に、シャレや演出で黒く塗ったわけではなくて、もっと深刻な理由があったのだ。

チタン製の怪鳥、ロッキードSR-71ブラックバード。チタンの扱いにはえらく苦労したという 写真:USAF

1つ笑い話がある。ロッキード社がSR-71を製作した時に、チタン素材の入手が問題になった。そこでどうしたのかというと、ダミー会社を作って本当の買い手が誰だかわからないようにした上で、ソ連からチタンを買い付けたのだという。ソ連をスパイするつもりで製作した飛行機の材料をソ連から買ってきたのだから面白い。今でもチタンの一大産地はロシアなので、欧米の航空機メーカーがVSMPO-Avismaのようなロシアのチタン・メーカーと提携して、素材、あるいは加工した製品を買い付けている。

さすがに、機体の主要構造材としてチタンを使ったのはSR-71ぐらいのものだが、他の航空機でも、耐熱性や強度を求められる部分ではチタンを使うことがよくある。これは軍用機でも民航機でも変わらない。前述のXB-70バルキリーも、エンジン周りと前部胴体はチタン製だった。

航空自衛隊向けにF-15イーグルの導入が決まり、それを日本でライセンス生産することになった。F-15は軽量化を追求してチタンを盛大に使っていたので、日本のメーカーではチタンを加工するための機械を新たに入れたり、それを使って部品を製作するためのノウハウを身につけたり、といった苦労をする羽目になった。しかし、航空機にチタンはつきものだから、「いつかは通るべき道」であったと言うべきか。

その他の素材

金属素材だと、アルミとリチウムの合金(Al-Li合金)がある。利点としては、7075アルミ合金と同程度の強度を、7075より軽く実現できるという。強度や耐食性の分野で課題があったが、これはメーカーの努力によって解決できたという。ただ、リチウムが水と反応しやすい素材なので、取り扱いが難しいところがあるそうだ。

そして、Al-Li合金はお値段が高い。実は、これが一番の普及阻害要因になるかもしれない。他の分野と比べると、高価な材料を惜しげもなく(?)使う傾向がある航空機だが、安価に済むのであれば、そのほうがいいに決まっている。

参考 航空機に於けるアルミリチウム合金の開発動向

前回に炭素繊維ベースの複合材料の話をしたが、炭素繊維やガラス繊維だけが複合材料の素材になるわけではない。例えば、ボロンを使用した事例もある。ただし、ポピュラーにはならず、航空機業界における複合材料のメインストリームは炭素繊維になった。

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インデックス

連載目次
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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