前回、「飛行中に揺れたり反ったりする主翼」と「フラップやスポイラーを展開すると発生する吹き抜け空間」の話を書いた。でも、主翼は壊れない。では、その中身はどういうことになっているのだろうか?

桁とリブ

外から見ると分厚い「板」に見える飛行機の主翼だが、その実体は、骨組みの外側から外板を貼り付けたものである。おっと、貼り付けるといっても糊で付けるわけではなくて、リベット止めが一般的だ。

最もなじみ深い民航機の主翼を例にとると、前回にも書いたように、アスペクト比が比較的大きい、つまり細長い形状をしている。その中に、長手方向(翼幅方向)に「桁」と呼ばれる強度部材を通している。

さらに、その桁と交差するように「リブ」あるいは「小骨」と呼ばれる部材を組み合わせている。リブは桁と直交するように取り付けるので、直線翼ならおおむね前後方向になるが、後退翼では進行方向に対して斜めになる。しかし、リブが直接外に露出しているわけではないから、斜めになっていても空気抵抗にはならない。

そして、リブの形状は主翼の断面形状に合わせる。そこに外板をリベット止めすると、主翼の中央部を構成するボックス構造の出来上がり。これを、ねじれに抗する働きもあることから、トーションボックスという。

えらく大ざっぱだが、桁とリブで構成するボックス構造のイメージ図を描いてみた。実際には、この上下に外板を取り付けることになる

単一の部材を使うよりもボックス構造にするほうが、曲げやねじれに強い構造を軽量に実現できる。機体によっては、外板の裏側に縦通材と呼ばれる骨組みをくっつけて強度を上げた事例もある。

小型機だと桁が1本のこともあるが、大型機では桁は2~3本あるのが普通だ(そうしないとボックス構造にならない)。ただし、ボックス構造だけでは前後が角張ったままだから、そこは別途、部材を追加して「翼」の断面型に仕上げる。

スポイラーやフラップの類いは、そのトーションボックスの後側にくっついている。だから、スポイラーやフラップを展開して上下素通しの空間ができても、強度を受け持つ主役であるトーションボックスには影響しない。そのため、上下素通しの空間ができたからといって、翼がバラバラになる心配をする必要はない。

そのボックス構造を密閉構造にすることで、燃料タンクとして使える。どれだけ広く知られている話かどうかわからないが、主翼の中に燃料を積み込んでいる飛行機はたくさんある。主翼の中に燃料を入れると「重し」になるから、特にアスペクト比が高い主翼では、反り返りを抑える効果につながる(ただし、燃料が減ると効果が落ちるが)。

主翼の下にエンジンをつり下げる機体が多いのも、こうすることで主翼の反り返りを抑えて、構造設計を楽にする狙いによる。構造設計が楽になれば、軽量化につながる。

ここで書いたことは、ごくごく一般的な話なので、当然ながら「いや、これこれの機種では違う構造だ」という話はいろいろ出てくる。しかし、それを個別に取り上げ始めると際限がないので、御容赦いただきたい。

主翼に限らず飛行機の機体構造は大抵そうだが、難しいのは、空力面の要求も考えなければならないことだ。時には、空力屋が「こういう断面形状にしてほしい」といってきた時に、構造屋が「それは実現不可能」と反対する場面があっても不思議はない。

ボックス構造の外板

そのボックス構造を構成する外板は、もちろん薄いほうが軽くなるので望ましいが、必要な強度を備えていなければならないという要求もある。そして、翼端部と翼付根部ではかかる荷重が違い、後者のほうが大きな荷重がかかる。当然ながら、翼付根部のほうが頑丈にできていなければならない。

だから、翼付根部の外板は、翼端部の外板よりも厚いのが普通だ。昔の飛行機は付根から翼端まで同じ厚みの外板を使用していたが、今はそういうわけにはいかない。といって、主翼の外板を複数のパーツに分割すると、継目ができて強度が落ちる。できれば一体構造にしたいが、それを実現するには厚みが変化する部材を製作しなければならない。

前回、主翼に弾性を持たせて反りを許容する設計の嚆矢としてボーイングB-47を紹介したが、そのB-47の主翼もそういう構造で、厚みが変化する主翼外板を一体構造として削り出しで製作した(ただし、途中の1カ所だけ分割している)。だから、それができる工作機械がなければB-47は造れなかったことになる。

そのためのスキンミラーという工作機械があったのだが、当初はB-47を造っていたボーイング社とF-86を造っていたノースアメリカン社に優先的に回されたので、他のメーカーは指をくわえて見ているしかなかったそうだ。設計者が図面を描くだけでなく、それを実際に製作できる技術や機械がなければ飛行機はできないという一例である。

ボーイング777の主翼。中央の、色の濃い部分がトーションボックスで、外板がきれいに翼端まで延びている様子が分かる。その前後にフラップやスポイラーが取り付いているが、こちらはトーションボックスほど頑丈ではないようで、「NO STEP」(乗るな)と注意書きがしてある

翼胴結合部

飛行機の主翼は、付根の部分で胴体と結合する。ここはセンターウィングボックス、あるいは翼胴結合部という。飛行中は胴体部分の重量を主翼が発生する揚力で支えなければならないのだから、その胴体部分の重量はまるごと、センターウィングボックスにかかってくる。飛行中にセンターウィングボックスに荷重をかける要因もあるので、この部分はとりわけ頑丈に作られている。

ボーイング747の場合、中央部にキール(竜骨)と呼ばれる頑丈な桁を通して、その周囲に桁と外板で構成する頑丈なボックス構造を形作っている。ただし747の部品の写真は手持ちがなかったので、代わりに787の写真を。

梱包されて発送を待っているボーイング787のセンターウィングボックス。この上に胴体が載って、両側に主翼が取り付く。このセンターウィングボックスは日本製だ

このセンターウィングボックスの辺りに降着装置が取り付けられることが多いので、これがさらに荷重負担を増やす。地上にいる間は(主翼ではなく)降着装置が機体の重量を支えているし、着陸の際にはドンと衝撃が加わる部位だ。しかも、降着装置を収容するへこみが必要になるから、そこが強度上のネックになる。そこまで考慮した上で頑丈に作っておかなければ壊れてしまう。

大きな荷重がかかるということは、それだけ傷みやすいということだ。頑丈に造っても限界はある。そこで、飛行機に延命改修を施して当初の予定より長く使おうとしたときに、主翼やセンターウィングボックスを新品と交換する事例がある。

例えば、米国土安全保障省 (DHS : Department of Homeland Security) の下にある税関・国境警備局(CBP : Customs and Border Protection)が保有しているP-3哨戒機では、延命改修に際してセンターウィングボックスだけでなく、外翼・機体下面外板・水平尾翼も交換した。カナダやチリもP-3に同様のメニューを適用している。

面白いのは米海軍のF/A-18ホーネットで、中央部胴体をまるごと新品に換装した機体が存在する。米海軍の場合、艦上運用しているから空母に着艦する度に加わる衝撃で中央部胴体が傷んでしまい、延命に際してそれを交換する必要が生じたのだという。オーストラリア空軍などでも、ホーネットの中央部胴体を換装した事例がある。

前回に取り上げたB-52爆撃機も、外板の張り替えを実施したことがある。なにしろ、空に飛び立って主翼が上方に反り返ると、その影響で胴体側面にシワが寄るというぐらいである。それを何回も繰り返していれば、外板が傷んで交換しなければならなくなっても不思議はない。後継機が出そろう(はずの)2040年ぐらいまで飛び続けてくれなければ困るのだ。