前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

僕の知人に彼女のファッションについて悩んでいる男がいる。彼はまだ20代後半の男子であり、自分の彼女(20代半ば)にはなるべくアネキャン的な流行のファッションをしてほしいという。曰く、そのほうが"男の子の部分"が刺激されるとか。

しかし、実際の彼女はいわゆる森ガール的なファッションを好んでいるらしい。お洒落に気を遣っているという意味ではアネキャンも森ガールも同じなのだが、彼が受ける双方の印象の差は大きいのだろう。正直、まだ20代後半という彼の年齢を考えると、その気持ちはなんとなくわかる。要するに彼は森ガールもお洒落の一つだと認識しつつも、そこに男の子の無性な興奮を感じないわけだ。(あくまで彼の場合です)

だから最近の彼は、そんな彼女に「俺好みのファッションをしてくれ」と正直に要求しているらしいのだが、当の彼女はそれに応えるつもりはさらさらなく、あくまで自己流ファッションを貫いているという。それどころか、あんまり彼が強く要求すると、彼女は「だったら最初からそういう女と付き合えばいいじゃん」と不機嫌になるとか。きっと彼女は彼氏色に染まることを良しとしない気の強い女性なのだろう。

以上のような彼の悩みを聞いて、まったく取るに足らないことだと一笑に付す殿方も当然いると思う。彼女のファッションで悩むなんてまだまだ若い、ファッションなんて似合っていればなんだっていいじゃないか――。かような大人の意見である。

されど僕は彼の悩み相談にのってみることにした。彼の悩みを若さゆえと一蹴することは、逆上がりができずに悩んでいる子供に対して「そんな悩みなんて大人の悩みに比べたらたいしたことない」などと素っ頓狂な励ましをすることと同じぐらいナンセンスだと思う。そもそも人間の悩みの大きさとは、その人間の立場や環境によって変わってくるため、単純比較はできない。つまり、子供にとって「逆上がりができない」ということは、他のみんなができることを自分一人だけできないということであり、大人にしてみれば「仕事ができずに悩んでいる」のと何ら変わらないわけだ。

それに、なんとなく他人事じゃないような気もした。僕も一歩間違えれば彼と同じ悩み、いやともすれば彼以上の悩みを抱えていた可能性がある。なぜなら、チーは僕と出会った当時こそ清楚な黒髪女性といった風貌で、それなりに一般受けする上品なファッションに身を包んでいたのだが、それより以前のチーの姿を写真で確認したところ、昔はかなりエキセントリックな個性派ファッションをしていたからだ。

特に髪形がすごい。簡単に言えば、金髪ショートのカリアゲ頭だったのだ。

いやはや、あの写真にも度肝を抜かれた。出会った頃の凛としたイメージからはまったく想像できない意外すぎるチーの過去。つくづく人に歴史ありである。

もっとも、僕は別に女性のカリアゲ頭が悪いと言っているわけじゃない。あれはあれで一つのファッションには違いなく、実際そういうパンクな女性を好きな殿方もおられるだろう。けど、僕個人の趣向としては少し抵抗があるわけだ。保守的だと言われればそれまでだが、誤解を恐れず正直に言えば、カリアゲ女性には男の子の部分があまり刺激されない。要するに、セックスアピールを感じないのだ。(すいません)

ブロンドに染めたショートヘアの両サイドとバックをバリカンで薄く刈り込み、前髪は眉毛の上で一直線にパツンと切り揃える。そんな奇抜な髪形を謳歌していた昔のチーは、洋服も同じく奇抜なものを好んでいたという。

例えばベースはパッションレッドだが、そこに十種類以上の動物の刺繍が色とりどりに施されたド派手なシルク地のシャツ。さらに深緑のダボダボワイドパンツは履き心地のいいサテン地にこだわり、足元はこれまたド派手なデザインのビッグサイズスニーカー。ちなみに当時のチーは本来の足のサイズより、あえて大きめのサイズのスニーカーを選び、中にティッシュを詰めて履くようにしていたとか。スニーカーはでかくて存在感のあるものがお洒落だと思っていたという。

要するに、昔のチーのファッションとはいかに目立つかということをテーマにしており、本人曰く「派手であればあるほどかっこいい」と思っていたわけだ。決して音楽的趣向がパンクなため、ファッションもパンクだったというわけではない。それを証拠にチーは古くからの"ゆずファン"である。パンクとは縁遠いだろう。

しかし、そんなチーも僕と出会った頃にはすっかり丸くなっており、それどころか僕と付き合うようになってから、ますます僕好みのファッションに趣向が変わってきた。最近では買い物や美容院に行くたび、僕にアドバイスを求めてくるほどだ。

断っておくが、冒頭の悩める彼のように僕のほうから「もっとこういうファッションをしろ」とチーに要求しているわけじゃない。もし仮にそうしたとしても、きっとチーは前述のように「だったら、最初からそういう女と付き合えば?」と反発しただろう。チーもチーで彼氏色に染まることを良しとしない気の強い女性の一人だ。

では、一体なぜチーは変わったのか――。それはまた次回の話である。

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