前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

恋人同士の男女が一緒に住むようになると、途端に家の中で気を遣うことが増えてしまう。僕の場合はB型血液がどこまで関係しているのかはわからないが、とにかく生来の大雑把男子のため、何事も神経質なチーと暮らすようになって、日常生活のあらゆるところに今まで考えたこともないような注意を配るようになった。

おかげさまで最近はだんだん慣れてきた。帰宅したらすぐに足を石鹸で洗うようになったし、食べ物の賞味期限をちゃんとチェックするようになったし、洋服も自分でアイロンをかけられるようになった。チーと付き合う前よりずいぶん人間的になった気がする。今までは独り暮らしをいいことにやりたい放題だったのだ。

独り暮らし歴が長い男性は二つのタイプに分かれると思う。ひとつはいつのまにか料理や洗濯などあらゆる家事を専業主婦並みにこなせるようになった男。僕の友人にもこのタイプがいるが、彼らはある意味、世話焼きタイプの女性泣かせである。愛する男の世話をかいがいしく焼いてあげたいと願う女の母性を嘲笑うかのように、一人でなんでもこなしてしまう。中には彼女よりも料理がうまい彼氏もいるぐらいだ。

一方、もうひとつは長く独り暮らしをしている間にどんどん怠惰になってしまった男。食事はすべて外食か弁当などで済ませ、部屋の掃除なんかめったにしない。洗濯も着る服がなくなったらようやく重い腰を上げるといった具合で、柔軟剤を使用したり、ネットを使ったお気に入り洗いなど別世界の話だ。もちろん、色落ちなんかまったく気にしない。そのくせ白いTシャツを色物と一緒に洗い、あっというまに白いTシャツをダメにした経験だけは何度もある。もろに僕のことだ。

要するに、今まで十年以上も怠惰な生活を送ってきた僕がチーと一緒に生活するようになったことで大きく成長したのだ。チーはダメな男の世話を黙って焼くタイプの女性というより、男のダメな部分をいちいちピーチクパーチク指摘しては、男をスパルタ式に教育していくタイプの女性なのかもしれない。もちろん窮屈で疲れる部分も多々あるが、それでも自分でアイロンがけをできるようになった喜びは想像以上に大きかった。僕も34歳を目前にして、ようやく大人になってきたということか。こないだなんか自分一人で布団を干せたんだぞ。(レベルが低い)

しかし、そんな中にあって、いまだにどうしても直せない部分がある。

それはオナラだ。そう、以前にもこの連載で書いたことがあるが、僕は生まれつき腸が弱く、ちょっとした刺激でやたらと腹を壊してしまう情けない体質の持ち主である。だからして、当然オナラの回数も人一倍多く、しかもそのスメル指数は異常に高い。自分でもどうしていいかわからないのだが、とにかくオナラが臭いのだ。

しかも僕の場合、オナラを我慢することができない。いや、正確にはある程度は我慢できるのだが、中には我慢する余裕も隙もなく、気づいたらガス漏れ的に自然発生してしまうケースも頻繁にある。いつのまにか部屋中が臭くなり、一体誰がオナラしたんだと首をひねったものの、実はその犯人は僕自身だったという感じだ。

もしかして何かの病気なのか。怖いなあ。不安だなあ。なので、しばらく放っておくことにしよう。僕の中で病院とは病気を治すところというより、病気を発見されるところというイメージが強い。要するに小心者の先送り主義なのです。

かくして僕はオナラ漏れに神経を尖らせながら、チーとの生活を送っている。しかし悲しいかな、それでも二日に一回は特濃スメルが発生。防ぎようがないのだ。

「ちょっと、またオナラしたでしょっ。くさすぎる!」「ごめんよう。気づかないうちに漏れちゃったんだ……」「てめえ、肛門に栓するぞ!!」「そんな殺生な……」

こんな日常のやりとりが僕としては辛くてしょうがない。チーはオナラのたびに鼻をつまんで窓を全開にし、ウチワで部屋中を扇ぎまくる。その一連が余りに騒々しいものだから、愛犬のポンポン丸も「いったい何事か?」と言わんばかりの表情でキャンキャン泣き喚いてしまう。好きな女性と愛犬をここまで追い込んでしまうとは、つくづく恥ずかしいやら情けないやら。我が繊細な心はもはやズタボロである。

近い将来、僕はチーにプロポーズすることをぼんやり考えている。しかし、このオナラ病がある限り、真剣な表情と緊迫した空気には常に不安がつきまとう。僕のようなオナラ人間の場合、一体どんな顔してプロポーズに挑めばいいのだろう。

「僕と結婚してください、プー」

千秋みたいじゃないか。

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