前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

先日、男三人で仕事の打ち合わせをしていたのだが、その席でひょんなきっかけから自分たちの彼女談義になった。中でも某出版社の雑誌編集部に籍を置くTくん(27歳)の彼女(26歳)は相当細かい性格の女性らしい。

「整理整頓とか衛生管理の徹底とかは当たり前ですよ。まだ結婚もしてないのに、すでに僕は小遣い制にされてるし、レシートも全部とっておかなきゃなんないし、消灯時間まで決まってますからね」とTくん。

聞いただけで胃袋が締めつけられるような窮屈さだ。Tくんはよく耐えていると思う。なんでも、Tくんはそんな寮生活みたいな暮らしを強いられながらも、それでも彼女のことを愛しているらしく、「ふられるのが怖いから」という理由で彼女の方針にすべてしたがっているという。つまり、「惚れたもん負け」というわけだ。

さて、そんなTくんの彼女だが、そのとき聞いた様々な「細かいエピソード」の中で、僕がもっとも気に入っているのは音量についてだ。

「うちの彼女って、テレビの音量は常に10じゃないとダメなんですよ。他にもオーディオの音量や携帯の音量なんかにもそれぞれのこだわりがあって、俺が勝手に音量を上げ下げしたらめちゃくちゃ怒るんです」

いるよなあ、そういう人。僕は音にはわりと鈍感なほうだから、近所の騒音とかもあまり気にならないけど、神経質な人にとっては大きな問題なのだろう。

しかし、ここまではまだよくある話だ。おもしろいのはここからである。

「中でも一番こだわっているのはテレビの音量で、なぜか8チャンの番組だけは音量を二つ下げなきゃいけないっていう特別ルールもあるんです」

これには驚いた。Tくんの彼女はなぜか8チャンネルの番組だけは他のチャンネルより、「最初から音量がやや大きめに作られている」という自分だけの勝手な分析を頑なに信じており、そのため音量を二つ下げることで微調整しているらしいのだ。

もちろん、8チャンネルの局員たちの名誉にかけて断わっておくが、そんな事実は一切ない。元放送作家の僕が言うんだから間違いないと思う。実際、別の知人にも何人か聞いてみたが、「8チャンだけ音量が少し大きい」と感じている人は一人もいなかった。Tくんの彼女は一体どんな耳をしているのだろう。

「うちの彼女はちょっと偏見が強いんですよ。たぶん、8チャンに対してそんな勝手なイメージを抱いている人は、他にいないと思いますよ」

Tくん自身もそう認めていたが、僕も同感である。そんな話は33年間の人生で初めて聞いた。世間は広い。つくづく色んな人間がいるものだ。

しかし帰宅後、その話をチーにしたら、もっと驚いた。

「あ、それわかるっ。わたしも8チャンだけちょっとうるさいって思ってたの」

いた――! 僕は唖然とした。まさかこんな身近なところに、Tくんの彼女と同じような偏見の持ち主がいるとは。世間は広いのか、狭いのか。

しかも、僕が「8チャンだけ音量を大きめに作っているという事実はない」と懇々と説明しても、チーは聞く耳を持たなかった。

「なんか8チャンの番組ってうるさいじゃん」(あくまでも個人の感想です)

そんな印象論だけを執拗に繰り返し、実際にテレビの8チャンネルをつけては「やっぱりそうだって、ほらほら」と僕を説得してくる。もちろん、僕にはまったく違いがわからなかった。そのときは、たまたま8チャンネルで芸人が大挙して出演するバラエティ番組が放送されており、他のチャンネルではドラマやニュース、トーク番組が放送されていたのだが、違いがあるとしたらそういった番組のジャンルだ。

「なあ、チー。それって8チャンには昔からの伝統として、スタジオでタレントが大騒ぎするようなバラエティ番組が多いってことだけなんじゃない?」

僕はなんとなくそう訊いてみた。確かに同じ「音量 10」でもスタジオバラエティと厳粛なニュースでは耳に感じる音の大きさがまったく違う。NHKの番組が比較的静かな印象を受けるのと同じ理屈だろう。要は演出の問題だ。

すると、チーは言った。

「ああ、確かに。NHKって音量小さめに作ってるよね」

違うって! どうしてそういう解釈になるんだよ!

ちなみに、後日その話をTくんにしたら、Tくんの彼女も「NHKは音量を小さめに作っている」というチーの説に同意したという。奇妙な二人である。

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