前回までのあらすじ

33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。かねてから狙っていた26歳OLのCと居酒屋デートが実現。数々のせこい作戦を駆使して、僕はCを盛りあげていくのだが、最後の大詰めはやはり真剣に口説きたいわけで――。

26歳OLのCとの居酒屋デートもいよいよ佳境に入ってきた。最後の第4クオーターは酔いに任せて一気にCを口説くのみである。

僕にできる口説き方は至ってシンプルだ。とにかく、Cを褒めて褒めて褒めまくることしか思い浮かばない。酒の力を借りて、歯の浮くような台詞も遠慮なく発射するぐらいの気構えが必要だろう。「こんな魅力的な女性に初めて出会ったよ」とか「君に出会うために今まで生きてきた」「今日の出会いという奇跡が、これからの僕らの軌跡につながるんだね。軌跡の第一歩が奇跡って、それもまた奇跡だね」とか、半分意味がわかんないような言葉遊びもどんどんかましちゃおう。

しかし、実際は無理だった。とてもじゃないけど、そんな大胆な口説き文句を恥ずかしげもなく吐く勇気がない。せいぜい「Cさんっていい娘だね」とか、その程度で精一杯。うーん。女性を口説くことに慣れていない自分がとことん嫌になる。33歳独身B型男子は、恋愛偏差値がどこまでも低いのだ。

結局、僕はたいした口説き文句も言えないまま、居酒屋を出ることになった。しかし、不幸中の幸いはもう一軒飲みに行くことをCが了承してくれたことだ。

時刻は金曜日の夜11時。Cは普通のOLさんだから、当然明日は休みである。ここで、もう一軒飲みに行くということは、つまりあれなんじゃないか。

朝帰りOK――。僕の全身に電流が走った。し、Cさんっ、ほんとにいいんですかっ。この時間から飲みに行ったら、大変なことになりますよ!

けど、冷静に考えたら、ここ中目黒からCさんが住む家まではタクシーで2,000円程度だろう。ってことは、帰ろうと思ったらいつでも帰れるという安心感があるということか。社会経験もそれなりにある26歳OLということを考えると、それぐらいの計算はしているはずだ。あんまり有頂天になるのも良くないな。

かくして、僕は平静を保ちながら、Cと一緒に中目黒のバーに入った。しかし、だからといって真剣な口説きモードにはなかなか入ることができない。さっきの居酒屋と変わらぬ他愛もない会話を続けながら、時間だけが過ぎてゆく。

気づけば午前2時ごろになった。さて、ここからどうするべきか。生粋の遊び人なら、「俺の家に来ない?」などと軽妙に誘えるのだろうが、僕にそんな芸当ができるわけもなく、ただ悶々としてしまう。ただし、ひとつだけ僕の中ではっきりしていることは、「このまま何もなく、家に帰りたくない!」ってことだけだ。

そんな中、不意に他の見知らぬ女性客に声をかけられた。

「山田さんですよね?」

え――。そうですけど、あなたはどなた?

「以前、Kさん(僕の知人)と三茶で飲んでいたとき、一度会ったことあるじゃないですか~。覚えてないんですか?」

あ、思い出した。僕の飲み友達・Kさんの友達じゃないか。半年ぐらい前に三軒茶屋のとある居酒屋で偶然出会って、2時間ほど三人で飲んだことがある30代前半と思しき女性。

ああ、はいはい。久しぶりですね。ってか、偶然すぎますよ。

しかし、そのときの僕の本音は「こんなところで声かけてくんなよ。空気読めよなあ。こっちは女連れで、マジモードなんだよっ」だった。正直、彼女には悪いが、心の底からうざったい。ますますCを口説けなくなるじゃないか。

「誰ですか?」Cが不思議そうな顔で訊いてきた。僕は慌てて、かくかくしかじか説明する。Cさん、彼女はただの友人の友人ですから。一回会っただけですから。決して、僕に女友達が多いってわけじゃないですから――。

「へえ、山田さんって顔広いんですね」とC。なんだか嫌な予感が走る。Cは一体どう思っているのだろう。中目黒のバーでたまたま知人の女性に声をかけられる男。遊び慣れているチャラ男だと誤解されなければ良いのだが。

すると、そんな僕の心中を無視するかのように、その知人女性はこう言った。

「山田さん、かわいい女の子連れて~。もしかして彼女ですか?」

思わず背筋が凍りついた。同時に、この女の無神経さに軽い苛立ちも覚える。そんなデリケートな話題をいきなり振ってくるなよなあ!

果たして、ここでどう答えるのが正解なのか。「違いますよ」とはっきり否定すると、なんだか損をする気がする。僕は頭をフル回転させた。

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作 : 山田隆道
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