前回までのあらすじ

33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。馴染みの居酒屋で素敵な26歳OLと知り合ったのはいいものの、ここからが問題だ。いきなり大胆に食事に誘うべきか、それともしばらくメールのやりとりで様子をうかがうべきか――。

はっきり書くのも恥ずかしいが、僕には今、狙っている女性がいる。馴染みの居酒屋Mのカウンターで偶然出会った、Cという名の26歳OL。C曰く、彼氏はいないらしい。初めて会ったとき、そこだけはしっかり確認しておいたのだ。

僕はしばらくCとメールのやりとりをすることを決意した。もちろん、何事も計算高い"恋の変化球投手"を自認する僕だけに、そこにはちょっとした理由がある。以前、僕の知人の中でもっとも恋愛巧者である超モテ男のOくんから「女を落とすための必勝メール術」のレクチャーを受けたことがあるからだ。

僕が恋愛教師と崇めるOくんは、若い頃から携帯の出会い系サイトをヘビーに使いまくり、顔も知らない女性とのメールのやりとりの末、幾度となく恋のホームランをかっ飛ばしてきた猛者中の猛者である。恋愛下手の僕にしてみれば、そんなOくんの恋愛アドバイスは史上最強の助っ人みたいなものだ。思いつきで恐縮だが、今後ここではOくんのことをバースと呼ぶことにする。

そんなバースが授けてくれたメール術は、僕にとって目から鱗の極意だった。なんでも重要なのは文面の内容よりも、メールを送る時間とタイミングらしいのだ。

具体的に説明しよう。

まず昼の1時半なら1時半と時間を決め、女性にメールを送ってみる。内容は「お昼何食べた? 俺はカレーだったよ」みたいな他愛もないメールでOK。そして、また翌日の1時半きっかりに似たような文面、例えば「今日はラーメン食ったよ」と送信。このように初期段階はとにかく毎日同じ時間に他愛もないメールを送り、それを一週間ぐらい継続するだけでいいらしい。そうすることで女性の頭の中に「この人から毎日1時半にメールがくる」という習慣を刷り込ませ、女性にとっての「1時半の男」を誕生させるということが、ここでの目的なのだ。

そして、勝負は二週間目である。今まで毎日1時半きっかりにメールを送ってきたにもかかわらず、突然なんの前触れもなくメールをやめるのだ。

すると、大抵の女性は「あれ、今日はどうしたんだろう?」と若干の違和感か、寂しさを覚えることだろう。これは「分離不安」と呼ばれるもので人間に本能的に宿っている心理。今まで当たり前のようにあったものが急になくなると、それが好意的なものであろうとなかろうと、人間はなんとなく不安や寂しさを覚えたりする。学生時代の転校生がいい例だ。今までそんなに親しくなかったクラスメイトでも、いざ転校することがわかると、少しは寂しくなったりしたじゃないか。いずれにせよ、急にその人物の存在感が増すことだけは確かだろう。

そこで翌日、再び1時半きっかりに以前のようにメールを送る。空白の1日を挟んで「1時半の男」が復活し、女性の心に生じた分離不安を解消してあげるわけだ。

その後は、またしばらく毎日1時半にメールを送り続けていくのだが、適当な頃合で、再びメールをストップ。今度は二日間に及んでもいいぐらいで、とにかく女性をまたも不安にさせ、三日目にまたまたメールを復活。さらにその後も、何度かこういった「ストップ→復活」を繰り返していくと、バース曰く「女はだんだん気が気じゃなくなってくる」という。

そして、いよいよダメ押しである。何度目かのメールストップをした後、今度は急に夕方5時にメール送信。しかも次の日は夜の9時、次の日はメールストップ、次の日は再び1時半と、ここにきて今までの習慣をめちゃくちゃに破壊するのだ。

ここまでくると、女性は相手に対して不安と安心を交互に感じるだけでなく、「何を考えているかわからない人」というミステリアスな印象さえ抱く可能性がある。言わば、ドキドキとハラハラの繰り返し。まさに恋愛心理の基本だとか。

「とにかく最初は『1時半のメール』で習慣化しておいて、途中からその習慣を破壊していくんだよ。そしたら、女の心理状態は乱れていくから、そのタイミングで満を辞してデートに誘うんだよ」とバース。

すると、今まで他愛もない文面ばかりで一切デートに誘わなかったことが絶大な効果を発揮。女性は一気に相手に興味を抱き、間違いなく誘いにのってくるという。

本当かなあ――? 当然、僕はいまだに半信半疑である。理屈はなんとなくわかるけど、現実に効果があるかは、実際にやってみなきゃわからないだろう。

かくして僕は、翌日の昼1時半きっかりにCにメールを送った。

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