前回までのあらすじ

33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。居酒屋Mのカウンターで隣に座った見知らぬ若い女性と晴れて会話を交わせるようになった僕だが、ここで予期せぬハプニングが勃発。彼女はなぜか僕のことを知っていたのだ――。

「あの……山田さんですよね?」

居酒屋Mのカウンターで、隣に座った見知らぬ若い女性がそう切り出してきた。

当然、僕は戸惑った。彼女はなんで僕のことを知っているんだ? 最初はそんな疑問を抱いたが、少し考えると、ひとつだけ理由が考えられた。つまり、これはあれだろう。読者って奴に決まっているじゃないですか――。

世間は広い。僕みたいなしがない無名作家でも、一応そこそこメディア露出はしているわけだし、そりゃあ日本中に何人かぐらいは物好きのマニアックな読者がいたっておかしくない。個人で運営しているオフィシャルブログだって結構な数の人が見てくれているのだ(小さな自慢です。すいません)。

「もしかして読者の方ですか?」僕は思いきって彼女に真相を訊ねてみる。

「はい、たまにネットや雑誌の連載とか読んでますよ」

や、やっぱり! 本当にいたんだ、読者っ。すげえよ、母ちゃんっ。

もちろん、めちゃくちゃ嬉しかった。こつこつ駄文を綴ってきた甲斐があったというものだ。けど、同時に恥ずかしさも襲ってきた。一体なんだろう、この感覚は。たぶん、人に堂々と胸を張れるような作品を書いていないからだろうなあ……。

そんなことを考えていると、またあることが気になった。

「もしかしてマイコミジャーナルの『恋するB型男子』も読んでたりします?」

そうなのだ。結局、そこが一番怖いわけだ。

だってさ、あなた。この連載を若い女子がずっと読んでいたら、間違いなく僕のことを恋愛対象から外すでしょう。なにしろ本連載は初期から現在に至るまで、僕がウンコ漏らしたり、お茶碗洗わなかったり、小学校のとき毎日筆箱にアスパラを一本だけ混入されるという意味不明なイジメを受けたり、とにかく僕の人生の恥部と汚点をこれでもかってぐらい明け透けに晒しまくっているのだ。

そんな馬鹿エッセイを全篇読まれていたら、せっかく綿密な計算を重ねて運命の出会いにこぎつけたというのに、すべてがパーになってしまう。「山田さん、婚活に必死なんですね。頑張ってください」って笑いながら励まされるのがオチじゃないか。

すると、彼女は言った。

「B型男子もちょこちょこ読んでますよ」

終わった――。完全に戦意喪失である。まだ何も始まっていないのに、なぜか敵前逃亡したくなった。少なくともこの先、彼女と恋仲になることはないだろう。

しかし、意気消沈する僕とは裏腹に、彼女は意外なほど気さくに会話をしてくれる人だった。僕が今まで本連載でさらけだしたウンコ漏らし事件や拾い食い事件といった数々の汚点には一切触れることなく、自分の出身地の話や家族の話、学生時代の部活の話など、他愛もないプライベートトークを和やかな口調で話してくれた。

一方の僕も最初はへこみまくっていたものの、「彼女と恋仲になることはない」と割り切ることで逆に気分が楽になり、妙な肩肘を張らずに自然体で彼女と会話することができるようになった。今までは初対面の女性の前だとつい気合が入り、その女性に好かれようとするがあまり、無理して「Greeeenっていいよねえ」とか「代官山のセレクトショップにおすすめがあるんだよ~」といった心にもない話題を繰り出しては空回りしてきたものだが、このときはやけに素直になることができた。

「さだまさし、好きなんだよねえ」

「昔から宮沢賢治が好きでさあ」

そんな若い女子に絶対好かれそうもない本来の自分を剥き出しにしながら、尚且つプロ野球や格闘技など、どう考えても若い女子には意味がわからないであろうKYネタまで遠慮なく炸裂。ふん、どうせウンコ漏らし体質がばれているんだ。今さらかっこつけたってしょうがない。ああ、そうですよ。どうせ僕は今風のモテ男とはまったく縁がない三十過ぎのウンコ野郎ですよ。けど、これが山田隆道なんだからしょうがないじゃーん。もうどうにでもなれって感じだ。

ところが、またもや意外や意外、そんな本音トークが彼女に大ウケだったのだ。

「山田さんっておもしろいですねえ」

……い、いけるんじゃないっすか。僕の下心に再び火がついた。

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作 : 山田隆道
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