例えば、とあるバー。常連客の男がたまたま一人で飲みに来ていた素敵なレディと偶然出会い、二人はたちまち恋に落ちる。ナンパでもなく合コンでもなく、自然且つロマンティックな男女の出会い。まるで映画やドラマのワンシーンのようだ。

……最近の僕はそんなことばかり夢見ている。

こういった「運命の出会い」が、いつか自分の身にも都合良く降りかかってこないものか。実際、僕の友人の中にも馴染みの店を舞台に友達の輪を広げている輩はたくさんいるわけだから、絶対にありえない話ではないだろう。

というわけで、最近の僕は一人でも気軽に通えるような「馴染みの飲食店」を作るべく、徹底リサーチの日々を送っている。渋谷や新宿といった歓楽街にある店ではなく、なるべく家の近所にひっそりと佇む店がいい。そのほうが他の常連客も地元民ばかりのため、アクセスに便利な女子と出会える公算が高くなるはずだ。

もっとも飲食店なら何でもいいというわけではない。女子との素敵な出会いを念頭におくなら、やはりカウンター系の小さな飲食店がベスト。さらに大切なのは、女子だけの客が多く通っているということだ。

しかるに、ばりばりのオヤジ系居酒屋は論外だろう。常連になれば知り合いは増えるかもしれないが、間違いなく野郎ばかりの艶のない日々が待っている。

また、一見出会いが多そうなクラブ系の店(DJブースがあるバーも含む)は、個人的に苦手である。友達となら渋々付き合うけど、自分一人で通いたくはない。何がつらいって、店内に流れるガンガンの音楽がやかましくてしょうがないのだ。

僕はゆっくり酒を飲みながら、楽しくお喋りしたい人間だ。トランスミュージックで精神も簡単にトランスできるほど、陶酔しやすい心を持ち合わせちゃいない。ただ単に冷めているだけかもしれないけどね。

さらに諸々リサーチをした結果、店の雰囲気があんまりダークすぎたり、フードがほとんどないようなバーは女子だけの客が少ないということが判明した。一般的に女子は男子に比べ、はるかに酒よりも食を好む傾向があるため、フードも充実しているダイニングバーや洒落た居酒屋のほうが通いやすいのだろう。それでいてスイーツメニューを掲げていれば、間違いなく女子だけの客が多いと推測できるわけだ。

かくして、そんなリサーチの結果、先日ついに家の近所に諸々の条件にズバリ当てはまる居酒屋を発見した。カウンター六席とテーブル席が三卓しかないこじんまりとした店だが、それなりにお洒落で清潔感のある内装だ。おまけにスイーツやカクテルのメニューも充実しているし、いかにも若い女子が好みそうな雰囲気だ。

早速、僕は男友達と二人で調査に入った。最初からいきなり一人でカウンター系の店には行きにくかったため、まずは男同士で店の雰囲気を体感し、女子だけのグループが来店するかどうかチェックするという目的である。

生ビールとお惣菜をいくつか注文し、男二人でカウンターに陣取った。そのときは他の客が一人もいなかったため、しばし二人で酒と酌み交わす。

ふとカウンターの奥で料理をする二人の店員に目をやった。見たところ30代半ばから後半の男性と20代後半ぐらいの女性。仕事ぶりを見る限り、男性のほうが主人なのは間違いないだろう。もしかしたら二人は夫婦かもしれない。

いずれにせよ、20代ぐらいの女性店員がいるのはいいなと思った。そのほうがはるかに若い女性客は来店しやすいはずだ。彼女の女友達も来るだろうし。

そんなことを考えながら、僕は不意に男性店員に質問した。

「この店って、地元のお客さんが多いんですか?」

すると、男性店員はにこやかな笑顔で「そうですね。このへんで独り暮らししている方が多いですよ」と返答。客商売だから当然かもしれないが、なかなか社交的で気さくそうな方だ。料理も美味しいし、悪くない店ですね。

と、そのとき店のドアが開く音がした。

本当に二人の若い女性客が入って来たのだ。わああっ。

というわけで、続きは次回。

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