年々薄くなってきた頭髪を隠蔽すべく、ゆるいカーリーパーマをかけてボリュームアップに成功した33歳独身B型男子。そんな僕は今、婚活真っ只中である。

しかし、いきなり壁にぶちあたった。女子との出会いがまったくないのだ。

さて、どうしたものか。会社員じゃない僕はオフィスラブなんて物理的にありえないし、仕事先で知り合った女性編集者氏に下手に求愛なんかして、もし断わられた日にゃあ、その日から執筆意欲がなくなるのは間違いない。死活問題につながる危険性のある婚活を英断するほど、僕には根性がないのだ。

そうなると、残るは友人・知人からの紹介、もちろん合コンも含めてになってくるのだが、僕の学生時代の友人はみんな見事に結婚しており、刀を鞘に納めてしまっている。僕が「誰がいい娘いない?」とか「合コン組んでよ」などとお願いしても、大抵の場合、「いい娘はとっくに彼氏がいるか、結婚しているかのどっちかだよ」と一蹴されるか、「そんないい娘がいたら、おまえに紹介する前に俺が狙ってるよ」と至極まっとうな理屈をこねられるのが目に見えている。男同士はシビアで正直なのだ。

そんな中、ある古い知人のことが頭に浮かんだ。Oという名のその男と知り合ったのは今から十年ぐらい前。その頃の僕はテレビ番組の放送作家をしており、ある情報バラエティ番組で『脅威の成功率! 凄腕ナンパ師の妙技』という至って下世話な特集の構成を担当していたのだが、そこで取材した凄腕ナンパ師こそOだったのだ。

僕と同い年のOは凄腕ナンパ師の評判通り、いかにも「女遊び激しいっす」といったギャルギャルしい外見だった。十年前の流行をそのまま映し鏡にしたようなファッションと言動に舌を巻き、実際に目の当たりにした噂に違わぬモテ男ぶりに衝撃を受けたものだ。僕が今まで知り合ってきた男の中で、あんなに女遊びが激しい奴は後にも先にもOしかいない。私見では田村敦を超えていると思う。

さらに、Oがもっとすごいのは33歳になった現在もばりばりの現役あるということだ。最近もある男性雑誌の女性攻略術かなんかの特集で取材されていたのをコンビニで立ち読みしたことがある。写真を見る限り、僕と違って年齢をまったく感じさせない若々しい肌艶だった。ホルモン注射でも打っているのだろうか。

よし、決めた。久しぶりにOとアポイントを取ろう。奴に媚びまくれば、女の子を紹介してくれるはずだ。ふん、馬鹿にするならすればいい。何の生産性もない安いプライドなんて、昨年の大晦日に捨てちまったのだ。

かくして数年ぶりにOに電話した。当然Oは驚いていたが、僕が「折り入って相談がある」と神妙に持ちかけると、快く会う約束をしてくれた。

数日後の夕方、渋谷のルノアールにあらわれたOは年齢を感じさせない若々しいファッションに身を包んでおり、まるで20代前半で時間が止まっているかのような軽いノリだった。なにやら肩から紙袋を提げている。聞けば、「さっきまでマルキューで買い物してた」とか。一応、念を押すが僕と同じ33歳である。

たぶん、Oもかなりの隠蔽工作に励んでいるのだろう。よく見ると、若い頃よりさらに肌が黒くなっている。勘繰るに豊齢線を隠すために日焼けサロン通いを強化したんじゃないか――。そんなことを思うと、僕は途端に脱帽したくなった。Oは間違いなく、影で涙ぐましいアンチエイジングに勤しんでいるはずなのだ。

早速、本題に入った。なにげない近況報告から自然な流れで恋愛談義に話題を展開すると、僕はかくかくしかじか「女日照りの現状」を冗談交じりに説明した。かいつまんで言うと、「どうやったら女子と知り合える?」ってことだ。

すると、Oはすべてを察したような目でこう言った。

「女を狙ってるからダメなんだよ。男を狙わなきゃ」

は―? 君は何を言ってるんだ。僕はそっち系じゃないぞ。

「いや、そういうことじゃなくてさ。女と知り合いたければ、まずは女友達がたくさんいる男と仲良くなればいいんだよ。そういう男と知り合えば自然に友達の輪が広がって、山田にも女が集まってくるだろ。コバンザメ作戦ってこと」

せ、せこい――。けど、意外に逆説的な真理だとも思った。

ニヒルに口角を上げ、「女を狙うなら、男を狙え」と格言じみた決め台詞を言い放つO。その姿がやけに頼もしく見えた。しばらく彼にしたがおうと決意した。

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