【コラム】
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人間はなぜお洒落をするのか。もちろん、正確な答えはまちまちだが、僕の場合はたぶんに女性の目を意識しての行動である。思えば早熟だった僕は、小学生の頃からお洒落に対する意識が芽生えていた。クラスメイトの女子の目を意識し、他の男子よりもかっこいい洋服を着ようと、幼い頭をフル回転させていたものである。
そして中学・高校になると男子校だったため、意識する女性が通りすがりの女子中高生になった。制服をなるべくお洒落に着ようと工夫し、私服のこだわりもますます加速していく。近所のコンビニに出かけるだけなのにヘアスタイルをセットし、勝負服に着替えることは当たり前。ファッション誌も定期購読し、なるべく他の男子にはない自分だけのオリジナリティを追及するようになった。
僕の中には「二枚目じゃないんだから、なるべくファッションで加工して、少しでもかっこよくなりたい」という想いがあった。第一印象で目立つことができれば、生来のイケメンにも勝てるという計算。古くは松田優作に始まり、永瀬正敏や浅野忠信もそうだったが、生粋の二枚目じゃなくとも、ファッション次第で充分かっこよくなれる。つまり、精いっぱいお洒落をして女子にモテたかったわけだ。
かくして僕は20代に突入してからも人一倍お洒落に気を遣い、合コンのときは他の男よりも目立つように、少し奇抜と思われかねない派手なファッションにエスカレートしていった。20代後半で堂々とツナギを着ていたし、ヴィヴィッドな花柄シャツやエスニックなニット帽など、シックやベーシックという言葉から遠く離れたエレキなスタイル。普通のファッションをして、みんなと同じに見られることに抵抗していたのか。こういうところもB型らしいと誰かに言われたものである。
そして現在33歳。さすがに少しは落ち着いた洋服を好むようになったかと思いきや……まったくそうじゃない。
いまだに洋服を選ぶときのテーマは無難よりも冒険であり、誰からも好かれる服装というより、確実に誰かに好かれたいという下世話な欲望が剥き出しになった奇抜な服装を好んでいる。誰かに好かれたいと思えば思うほど、誰からも好かれなくなるという普遍的な世の矛盾を頭では理解しているつもりなのだが、それでも自分の好みをコントロールできず、いまだに空回りしている感があるのだ。
そんな中、ある知人女性からこんな話を聞いた。
「若い頃は連れて歩く男がお洒落でかっこよければいいって思っていたし、そういう人と一緒に歩いていたほうが街で友達に会ったときに恥ずかしくないって思っていたけど、最近はちょっと変わってきたの」
彼女は20代後半の独身OLで、只今絶賛婚活中である。独身女性の忌憚のない意見ほど貴重なものはない。僕は身を乗り出して、彼女の話に耳を傾けた。
「ある程度自分が大人になってからは"ダサい男"と歩きたくないっていうより、"バカな男"と歩きたくないって思うようになったの。だから、今はあんまりお洒落すぎる男を連れて歩きたくないんだよね。いい大人になってお洒落のことばっかり考えている男って、なんだかバカっぽく見えるっていうか……」
目から鱗が十枚以上は落ちた。いい年こいてお洒落すぎる男。確かにバカっぽいかもしれない。どれだけ外見がかっこよくても、なんだか仕事ができない社会不適合者に見える。女性みんながそう思っているわけではないだろうが、少なくとも社会で働くOLの中には彼女と同じ考えの持ち主が多そうである。
僕は大きな勘違いをしていた。女性が求める理想の男性像は若い頃こそ"かっこいい"なのかもしれないが、大人になって具体的な婚活を考えだせば考えだすほど"頭がいい"とか"仕事ができる"に変貌していくのかもしれない。それはつまり、結婚相手は見た目よりも知性と経済力が大事ということか。頭が良くて仕事ができる男はそれなりの経済力がありそうだし、子供ができてもバカには育たないという安心感がある。きっと大人の女性は女友達に「かっこいい彼氏だね」と褒められるより、「頭がいい彼氏だね」と褒められるほうが嬉しいのだろう。バカは嫌なのだ、バカは。
そんなことを考えていると、途端に自分のファッションが怖くなった。33歳にもなってツナギって。正直、かなりバカっぽい。とてもじゃないけど、仕事ができそうには見えないぞ。ああ、やばい。すぐにジャケットでも買いに行かなくては。かように慌しくなる秋の宵。つくづくお洒落の基本は異性の目である。
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