「結局、150万以上も赤字だったよ」

以前、某イベント会社に勤める友人男性が自分の結婚式を振り返って、こんなことをぼやいていた。なんでも彼は結婚式にかかる総費用と予想される祝儀収入の収支予測をし、最低でもトントン、あわよくば黒字を狙っていたらしい。さすがイベント屋である。結婚式を新郎新婦のディナーショーと考え、興行ビジネスを成功させようと目論んでいたのだ。チケットぴあで扱ってもらえば良かったのに。

しかし、現実は厳しかった。蓋を開けてみれば計算外のハプニングが続出し、結果的に上記のような大赤字を垂れ流してしまったという。とはいえ、150万もずれるものなのか。一体どんな見込み違いがあれば、そんなに狂うのだろう。遠い未来に結婚式を控えた独身オジッパリ男子の僕としては、非常に気になる問題である。

当初、その友人は下記のような興行スキームを考えていた。

結婚式にかかる総費用(イベント支出)が約400万円。出席予定者(集客数)は約80人である。つまり、一人あたり平均5万円の祝儀(チケット代)を徴収すればトントンになる計算だが、もちろん一般的な祝儀の相場は3万円であるため、それだけだと総収入は240万円にしかならず、160万円もの赤字を出してしまう。

そこで、新郎新婦はなるべく披露宴には仕事上の付き合いがある関係各社の社長や重役クラスを多数招待し、学生時代の友人レベルは二次会に回す作戦(嫌な表現)に出た。重役クラスなら一人あたり5万~10万円は当たり前、大社長になってくると平気で20万円ぐらいは包んでくるだろうという淡い夢を見たのである。

もちろん、普通に考えたら失礼な話だというのは重々承知しております。けど、一つの事例としては興味深いじゃないですか。怒らないでくださいね。

ところが友人曰く、ここで意外な事実が判明。新郎新婦が祝儀要員(これも嫌な表現)と期待した重役連中は案外3万~5万円という少々拍子抜け(失礼すぎる)の祝儀額が多く、10万円や20万円という大金を包んできたのは二人にとっての直属の上司にあたる「関係性の濃いVIP」だけだったというのだ。

「いやあ、勉強になったね。ただ単に金持ちとか重役ってだけじゃ、祝儀の額にそこまで影響しないってことがわかったよ。重要なのはその人のランクじゃなくて、自分とどれだけ関係性が濃いかなんだ。関係性の薄い重役連中は金をどれだけ持っていても、自分の直属の上司とかに気を遣って祝儀額をおさえるもんなんだね」

友人にそう言われると、おおいに納得できた。つまり、仕事でお世話になっている取引先の重役などは確かにVIPなのだが、彼らは新郎新婦が在籍する会社の重役のメンツを守ろうとするため、あまり出しゃばらないということ。だから、いくら金を持っていても、せいぜい5万円~10万円以内に祝儀をおさめ、20万円オーバーの花形仕事は「関係性の濃いVIP」に譲る傾向にあるらしいのだ。

そうなると大幅に収入は変わってくる。10万円を期待していた祝儀要員がことごとく5万円だと、それだけで一人5万円の狂いが生じる。さらに結婚式には当日ドタキャンが付き物。事前のキャンセルなら、料理や引き出物の数を減らせるため、コストダウンが可能だが、ドタキャンの場合は収入だけが下がる。友人の場合、ドタキャンが7人も発生したため、それだけで21万円以上の収入ダウンとなったのだ。

かくして総支出400万円に対して、総収入250万前後という無残な結果に終わった友人の結婚式興行。プロのイベント屋でもまったく歯が立たなかった魔の興行ビジネス。それが結婚式という名のディナーショーである。

果たして、自分が主催するときはどうするべきか。いっそのことスタンディング席でも作って、一般観覧客を招くというのはどうだろう。いずれにせよ、できることなら黒字を叩き出し、結婚式興行の負の歴史に革命を起こしたい。そんな意味不明な決意を胸に秘め、今から対策を練っているB型オジッパリ男子。まだ結婚の予定もないくせに、結婚式のシミュレーションだけは一丁前なのだ。

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