中学生の頃、満員電車に乗っていると、思春期の下半身に奇妙な戦慄が走ったことがあった。見知らぬ誰かに股間をまさぐられているのだ。

僕はパニックになりながらも、必死で犯人を探した。

間違いなく誰かが僕のバナナマンを愛でている。一体どこのどいつだ。まさか隣の女子高生じゃないだろうな。だったら許すっ。

そんなことを思いながら、周囲をキョロキョロ見渡していると、40歳ぐらいの中年男性と目があった。いかついマッチョ体型に濃い口ひげ。元K1ファイターの角田信朗に似た中年男性が僕に向かってウィンクしたのだ。

モ、モーホーさんっすか……? 背筋が一気に寒くなった。

改めて確認してみると、その男性のごつい手が間違いなく僕の下半身を刺激している。僕は慌てて身体をねじろうとするも、満員電車のため満足に動けない。声を出そうにも勇気がなく、気分は完全にか弱い乙女であった。

かくして数分間に渡って、モーホーさんに下半身をいじられ続ける中学生の僕。不覚にもちょっと固くなってしまったことは、いまだに拭い去ることのできないトラウマである。お母さんにも触られたことないのに。

その後、電車が某駅に到着し、モーホーさんはようやく降車することになった。僕はほっと胸を撫で下ろす。良かった。これでようやく解放される。

しかし、降りる間際、モーホーさんは小声で僕にこう言った。

「50点」

な、なぬうううう! それは何の点数だ!! まさか僕のバナナマンのサイズのことじゃないだろうな!!!

モーホーさんが降車した後、落ち着きを取り戻すどころか、ますます心を乱していく僕。思春期の少年は自分のサイズが非常に気になるものである。小さいというだけで、なんとなくかっこ悪いと劣等感を募らせ、修学旅行などでみんなと一緒に風呂に入るのが憂鬱になる。このときの僕も1カ月後に修学旅行を控えていた。今まで他人と見比べたことなんかないけど、もしかして僕はミニラなのか。50点ってことは一般的合格点を確実に下回っているということだろう。

はああ。僕は深い溜息をついた。たかがこんなことで、男としての人生が終わった気がした。男性社会だけにはびこる知られざる格差の実態。せめて70点は欲しかったなあ。それなら親にも報告できるのに。バナナマンのサイズは50メートル走のタイムと同じぐらい、中学生男子の序列を決定づける重要なファクターなのだ。

しかし、大人になってわかったことは、バナナマンのサイズなど、恋愛においてさほど重要ではないということだ。大体、男も女も出会ってから恋仲に発展するまでの間に、下半身を見せあうことなんか(ほとんど)ない。中学生の頃に感じたあの劣等感と絶望感は、今となっては甘酸っぱい思春期の想い出にすぎないのだ。

ただし、僕が勝手に傾向を分析するに、ビッグサイズの男性は妙に根拠のない自信を自分に持っていることが多い気がする。それはきっと少年時代に僕のようなコンプレックスを感じることなく育ったからであり、さらに修学旅行などでクラスメイトたちから「すげえ! でけえな!!」などと、散々持ちあげられた記憶が残っているからではないだろうか。それを証拠に、銭湯などで下半身を堂々と露出させながら歩いている男性はみんな共通してビッグサイズの持ち主だ。僕のようなミニラは基本的に下半身を隠すタオルが片時も手放せないという傾向があると思うのだ。

したがって、ビッグサイズの男性は無意識のうちに全身から「ただならぬ自信」というオーラを発するようになる。それは恋愛においても非常に有効な武器である。自信に満ち溢れている男性ほど女性を惹きつけやすいというのは、生物界全体を見渡しても明らかじゃないか。

もしかすると孔雀の羽もそういうことなのか。羽が立派であればあるほどメスにモテるというわけではなく、立派な羽を持つオスほど自信に満ちており、メスを惹きつけやすいということだったりして。

いずれにせよ、自信は恋愛成就の鍵なのだ。

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