ある血液型関連本に「B型は自分の意見や主張をしっかり持っている。そのためキツイ言葉でもはっきり他人に言うことができる」と書かれてあった。つまり、B型には歯に衣着せぬところがあるということだ。
これ、僕には半分当てはまっていて、半分外れていると思う。
確かに僕はわりと自分の意見や主張が強いほうだ。物事の好き嫌いは結構はっきりしているし、世相に対して言いたいことも山ほどある。
しかし、だからといって、他人にキツイことを平気で言えるわけじゃない。
高校時代、マッチョの体育教師に「そこの青い白線を踏むな! 」って怒られた時も何もつっこめなかったし、「"犬も歩けば棒に刺さる"って諺を知ってるか?」って聞かれた時も無言で頷くことしかできなかった。だって、怖かったんだもん。
従って、彼女に対しても、思っていることがなかなか口にできないことがある。
例えば数年前、喫茶店で当時の彼女とお茶している時のこと。あろうことか、彼女の鼻から黒々とした鼻毛がワサーッと飛び出ており、しかも鼻毛の先端にベージュ色の鼻クソががっつり付着していたのだ。
あわわっ、どうしよう!! このエレキなヴィジュアルをどうやって彼女に伝えるべきか!? ストレートに「鼻毛出てるよ。しかも鼻クソ付きで」なんて言えるわけないし、もし言えたとしても彼女が二度と立ち直れなくなるかもしれねえじゃん!!
では、極力優しい感じでオブラートに包みながら指摘するのはどうか。
「ねえ、ハニー。可愛いお鼻の先っちょに艶やかなヘアーがコンニチワしてるよ。しかもヘアーの先端にはアートなオブジェまであしらっているじゃないか。なかなか独創的な人間美だね。愛してるよ」
こ、殺される!! いや、彼女がショック死しちゃうかもしれない!!!!
ってなわけで、僕はしばらくの間、鼻毛と鼻クソのコラボレーションを見て見ぬふりする ことしかできなかった。悶々したまま時間だけが流れていく。
すると、うまい具合に彼女が小さくクシャミした。
おっ、ナイス!! 鼻クソが飛び散ってくれるかも!?
ところが、その鼻クソはなかなかロックな野郎で、鼻息にも負けず、鼻水にも負けず、しぶとく鼻毛にしがみついている。それどころかクシャミのおかげで、さらに新たな鼻クソまで参上。鼻毛の先端にあしらわれた二つのオブジェが鼻息のたびにピロロロ~と風鈴のごとくそよぎだしたのだ。
さすがにもう限界である。いくらなんでも愛する彼女の鼻クソ風鈴を世間様に無料で公開するなんてパンクすぎる。彼氏として何とかしなくてはっ。
僕は頭をフル回転させた。なんとか彼女が自分で気づく方法はないものか。
その結果、閃いたのは「さりげなく彼女をトイレに行かせる」というシンプルな作戦だった。しかし、これが意外に難しい。なぜなら「トイレ行ってきな」とダイレクトに言ってしまうと、彼女がトイレの鏡で鼻クソ風鈴を発見した時、
「ああ、彼はさっきまでこれを見てたんだ……。もう彼に会わせる顔はないわ」
と落ち込んでしまうかもしれない。乙女心はなるべく守ってあげたいのだ。
従って、僕は彼女に自主的にトイレに行ってもらうよう、やたらと飲み物をお替りさせるという作戦に出た。その甲斐あって、ようやくトイレに立つ彼女。数分後、彼女が戻ってくると鼻クソ風鈴は見事に成仏していた。めでたし、めでたしである。
しかし、彼女は言った。
「あんた、知ってて黙ってたの? 男なんだからはっきり言ってよ! 最低!! 」
うーん。乙女心はつくづく複雑である。僕が良かれと思って考え抜いた行動は、どうやら彼女には回りくどく映ったらしく、余計に神経を逆撫でしたわけだ。
だが、彼女の鼻クソ風鈴を真正面から注意できる男が世の中にどれだけいるだろうか。もしいたとしても、そんな男を僕は優しいとは思わない。はっきり言ってあげることも優しさだって? いや、そこに躊躇いと葛藤が見え隠れしてこそ、真実の優しさだと思うのだ。
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