普通、彼女ができると男はどんな気持ちになるんだろうか。友人に聞くと、やはり付き合った直後は幸せな気分になり、毎日がウキウキワクワクの連続になるという。しかし、僕の場合は少し違う。新しい彼女ができた途端、幸せな気分と同時に次のような不安に苛まれるのだ。

「き、嫌われたくない……!!」

つくづくネガティブで小心者だと、自分でも思う。

初対面の人からはよく「山田さんってマイペースで豪快そうな方ですね。細かいことを気にしなさそう」といった趣旨の第一印象を持たれたりするが、いやいや、決してそんなことはない。むしろ、めちゃくちゃ繊細でナイーブな小物男子だと自負している。人間的な器のサイズはお猪口の裏ぐらいしかないと思うのだ。

そんな僕だから新しい彼女ができたとしても、まだ完全に打ち解けていないうちは愛の深さにまったく安心できない。僕のちょっとした行動が相手の女性の不満の火種になったらどうしようと逐一細心の注意を払ってしまうのだ。

例えば彼女と一緒に寝るときなどにそれは顕著に現れる。

一つのベッドに二つの枕を並べて、甘~いピロートークを楽しむ付き合いたてのカップル。このとき僕は彼女を腕枕するわけだが、これが葛藤の始まりなのだ。

腕枕。ちゃんとした枕があるにもかかわらず、男性の上腕二等筋あたりに女性の頭を乗せ、やがて男性の腕の血流を圧迫していく愛に溢れた行為である。

ぶっちゃけ僕は腕枕が大好きだ。彼女に言われなくとも自分から率先して腕を差し出すし、血流が圧迫されていくことさえも愛の試練だと思っている。しかし、もっとぶっちゃけると長時間の腕枕はきつい。腕が痛くなるのはおろか、血の流れが止まっているんじゃないかと思うほど腕の感覚を失うこともあり、やがて「そろそろ腕枕やめたいなあ」と思うようになるわけだ。

こういう場合の正しい対処法は簡単である。彼女に正直に「腕が痺れてきたよ」と言えばOK。そんなことは僕もわかっている。

しかし、生粋の小心者である僕はこれを言い出す絶妙なタイミングがなかなか掴めない。あんまり早く腕枕をギブアップすると、大好きな彼女が「この人はあたしのことそこまで好きじゃないんだ」とか「前の彼氏はもっと腕枕が長かった」などと不満を抱いてしまうんじゃないかと無性に心配になってしまう。

従って、僕は腕が痺れだしてきてから人知れずガマン大会に挑むことになる。一般的な成人男性の平均腕枕耐久時間がどの程度なのかを知らないため、僕は我慢の相場がわからず、ただひたすら限界に挑戦する。そして、いよいよ勇気を振り絞って「ごめん」とギブアップするのだが、正直、毎夜毎夜この瞬間が最も怖い。腕枕を解くときの彼女の表情に不満の色が見えやしないかとドキドキしてしまうのだ。

また、僕が腕枕をしている最中に彼女が眠りについた場合、これはこれで別の問題が発生する。今度は彼女が起きてしまわないように細心の注意を払いながら、ゆっくりと腕を抜くという真夜中の大冒険が始まるわけだ。

このとき、僕はなぜか息を殺しながら分速5cmぐらいのスローペースで腕を抜きにかかる。だって、もし何かの衝撃で彼女が起きてしまったら大変じゃないか。「この人、あたしが寝たらさっさと腕枕やめるんだ。本当はそこまであたしのこと好きじゃないんだ」などと不満を抱かれたらどうしよう……。

まあ、冷静に考えれば、そんなことでいちいち不満を感じる女性なんていないと頭では理解しているのだが、とにかく僕は人を好きになると「嫌われたくない」という不安に脳が染められてしまい、ことごとく細かいことが気になっていく。

特に腕枕に関してはいまだに悩みの種だ。どこかの調査機関に女性が喜ぶ平均腕枕時間を発表してほしいぐらいである。