万が一、病気になったりケガをしたりした場合に備えて加入する医療保険。入院したときに入院給付金を受け取ることができたり、手術をしたときに手術給付金を受け取ることができたりと、商品によって多種多様な保障があります。

昔から加入している「古い保険」では対応できないような新しい保障のある商品も増え、「古い保険」に入り続けるよりも新しい保険に加入し直した方が良いと考えて加入し直す方も多いですが、「古い保険」も捨てたものでもありません。

「古い保険」のメリット

「古い保険」には対応できない医療もありますが、一方で「古い保険」でしか対応できない医療もあります。

例えば、2007年4月より前に契約し、保障内容に「感覚器または視器の手術に関する特約」がある保険は、レーシック手術(角膜屈折矯正手術)が保障の対象となります。2007年4月に改訂され、現在ほとんどの保険ではレーシック手術は保障の対象にはなりません。

万が一のための保険のはずが、レーシック手術を受けるためだけに加入し、手術給付金を受け取って解約するという方が増えたため、保障の対象から外されたという経緯があります。レーシック手術を勧めているわけではありません。ただ、今後もレーシック手術のように保障の対象外となる医療が出てくる可能性があると考えると、「古い保険」に入り続けていてもいいのではないかという考え方もあります。

医療保険は必要か

ただ、そもそも医療保険は本当に必要なのでしょうか。なぜ保険に加入するのかというと、万が一の場合に、医療費を支払えないことのないようにするため。逆に考えるならば、医療費を支払えるだけの貯蓄があるのなら、わざわざ保険料を支払って保険に加入する必要はないということです。

"医療費がいくらかかるか分からないから不安なんじゃないか"という声が聞こえてきそうですね。多くの方がご存知のように、保険証を提示することで医療機関では実際の医療費(総医療費)の3割を支払うだけでいいという「3割負担」があります。さらに、この3割に当たる金額が高額だった場合には、自己負担限度額を超える額が「高額療養費」として払い戻される制度があります。

医療費における自己負担の割合(出典:全国健康保険協会サイト)

自己負担限度額はいくらなのか

自己負担限度額は、所得によって決められています。大体の毎月のお給料と考えていいでしょう。

【図表1】自己負担限度額(出典:全国健康保険協会サイト)

<例1~新入社員の場合>
新入社員でまだ毎月のお給料が22万円ほど、という場合には【図表1】の(4)区分エとなり、1カ月の医療費の自己負担限度額は5万7,600円となります。医療機関の窓口で支払った額(実際の医療費の3割)が5万7,600円以上であった場合には、高額療養費として払い戻されます。

<例2~お給料が増えてきた場合>
30代になり、毎月のお給料が28万円を超えてきたという場合は、【図表1】の(3)区分ウとなります。仮に、窓口での負担額を30万円だとしましょう。3割負担であるため、総医療費は100万円となります。

自己負担限度額の式に当てはめると……

8万100円+(100万円-26万7,000円)×1%=8万7,430円

8万7,430円が自己負担限度額となります。窓口で負担した30万円との差額、21万2,570円が高額療養費として払い戻されます。

また、高額療養費として払い戻しを受けた月数が過去1年間で3回以上あった場合、4回目からは、【図表1】の「多数該当」という欄の金額に自己負担限度額が引き下げられます。

自己負担限度額を支払うだけの貯蓄がない場合

特に新入社員の場合にはまだ貯蓄がなく、自己負担限度額を支払うことができないかもしれません。その場合には医療保険に加入しておいた方が安心でしょう。

一方で、貯蓄が増えてきて自己負担限度額を負担することができる場合には医療保険は必要ないという考え方もあります。保険料分を貯蓄しておく方がお金の使い道に幅が広がります。

自己負担限度額は払えるけど立て替えられない場合

自己負担限度額は負担できそうだけど、いくらになるか分からない医療費を一度立て替えられるだけの貯蓄があるかは分からない……という方。ご安心ください。「限度額適用認定証」というものを保険証に記載されている保険者に請求して発行してもらいましょう。そうすると、立て替える必要がなくなり、医療機関の窓口では自己負担限度額を支払うことになります。

医療保険に加入すべきか加入すべきでないのかは、誰にも分かりません。ケガや病気によって給付金を受け取った方は"入っていて良かった"と思うでしょうし、一度も給付金を受け取ったことがなく保険料を支払い続けている方は"無駄なのではないか……"と思うでしょう。ここで、医療保険が不要だと決めるつもりはありません。ただ、"取りあえず入っておこう"と安易に加入したり、新しいサービスのある保険に乗り換えを続けたりすることは得策ではないでしょう。

執筆者プロフィール : 国分さやか


お金の教室 おさいふほんわか心もほんわか 代表
創価大学教育学部を卒業後、旧日本興業銀行の保険代理店や政府系金融機関に従事。"得をする方法を知りたい!"という一般生活者が多いものの、実は金融知識の不足から損をしている場面、しかも損をしていることにすら気付かない場面があまりに多い現実に問題意識を抱く。これを解消することを決意し、金融教育に携わる仕事を希望してFPの資格を取得。金融資産が増やすことだけでなく、幸福度数も増えることを大切にしている。現在、個人相談業務と並行して、金融の基礎知識を学ぶためのセミナーやFP資格講座、高校・大学、企業への出張講義などで活動中。


2013年
・第4回日本一のマネー講師決定戦E1グランプリにてグランプリ受賞
・第4回FP向上のための小論文コンクールにて奨励賞受賞
2014年
・三省堂より初めての出版(その後、学研出版等より計5冊の出版)
・日本FP協会電話相談員
・資格の学校TAC専任講師
2015年
・NHKラジオ「午後のまりやーじゅ」「ごごラジ!」お金のコーナー担当
2016年
・日本FP協会パーソナルファイナンスインストラクター

<保有資格>:CFP、FP技能士1級、相続アドバイザー2級、小学校教諭第一種、幼稚園教諭第一種