なぜARATAから改名し井浦新になったのか?その理由は世界的鬼才の監督作に

  [2012/03/23]

 世界的に評価される日本人監督のひとりに挙げられる若松孝二。70歳を超えてなお精力的に作品を発表し続けている若松監督から、戦争の愚行を描き大反響を呼んだ『キャタピラー』に続く新作『海燕ホテル・ブルー』が届いた。

 3月24日より公開される本作は、若松監督の盟友である作家、船戸与一の同名小説の映画化。幻にも思える不思議なホテルに引き寄せられるように集まってきた男たちが、ひとりの謎めいた美女をめぐり、崩壊していくさまがファンタジックかつ幻想的に描かれていく。作品は、若松監督が昭和三部作として挑み、反戦や権力者に対する怒りのメッセージが色濃く反映された前2作の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』や『キャタピラー』とは明らかに違うおもむき。夢と現実を往来するような独特のドラマは、観客をイリュージョンのごとく幻惑の世界へといざなう。この世の果てにも思える荒涼とした大地のロケーションとせいひつなブルーを押し出した映像の美しさも味わい深い。メイン・キャストのひとりである井浦新も「現場で一番笑顔を見せていたのが若松監督でした。昭和三部作をやり遂げて、そこから開放された若松監督の自由なイマジネーションや遊び心がつまった作品になっていると思います」と昭和三部作とは違った魅力があり、今までの若松組の現場とも違う体験だったことを明かす。

 また、主要キャストを演じるのは、井浦新のほか、地曳豪、大西信満と昭和三部作すべてに名をつらねた俳優たち。若松組で大きな飛躍を遂げた彼らの演技も見逃せない。加えると、『キャタピラー』で女優の寺島しのぶにベルリン国際映画祭最優秀女優賞の栄冠をもたらした若松監督だが、本作では映画の鍵を握るヒロイン役に映画を中心に活躍する片山瞳を起用。男たちを手玉にとるファム・ファタールのような謎めいた女を演じる彼女の妖艶な演技にも注目だ。

 なお、若松監督は昭和三部作の最終作として挑んだ『キャタピラー』に続く『11・25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』もすでに完成済み。6月2日からテアトル新宿ほか全国ロードショー公開が決定している。主人公の三島由紀夫を演じた井浦新は「三島さんを演じるプレッシャーは言葉で言い表せないほどでした。撮影期間中は三島さんを演じることだけに集中していたので、クランクアップ後もしばらく役から抜けられませんでした」と語り、また本作から役者名義をARATAから本名にしたことについては「日本という国の行く末を憂い、伝統や文化を愛していた三島さんを演じた役者の名前がアルファベット表記で出たら拍子抜けするというか……。僕自身が許し難く、見たくなかったので」と明かす。

 いずれの作品も井浦新の新たな魅力に触れられることは間違いない。『11・25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』を心待ちにしつつ、まずはひと先に届いた『海燕ホテル・ブルー』をチェックしたい。

文:水上賢治

画像は『海燕ホテル・ブルー』より[(C)若松プロダクション]

3月24日テアトル新宿、シネ マ・ジャック&ベティにて公開、以後全国ロードショー。
映画公式サイト / http://www.wakamatsukoji.org/kaien/index.html

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